米国は自動車が排出する二酸化炭素の排出量基準に関する最終決定を発表した。環境保護庁(EPA)によると、2026年を基準とした2032年の排出量を、普通乗用車で56%、小型商用車で44%、それぞれ減らすこととした。これは2023年4月の発表時から変わっていないが、そこに至るまでの規制適用期間中の基準が緩和され、バッテリー電気自動車の幅広い普及には遅れが出るだろう(図1)。北米市場のエンジン車はマーケットシェア1%につき、約0.8トンの2E(プラチナとパラジウム)PGM需要を支えていると考えられる。
米国の規制には平均排気ガス基準が使われているが、これは自動車一台の基準値ではなく、自動車メーカーが販売した新車全ての総排出量が遵守しなければならない値となる。この方針は技術的な違いを考慮に入れていないため、自動車メーカーはエンジン車、ハイブリッド車、燃料電池自動車、電気自動車など異なるドライブトレインの割合を調整することが可能だ。EPAは、2032年までのバッテリー電気自動車のシェアは普通乗用車で30%〜56%(WPICの予想は61%)、小型商用車で20%〜32%(WPICの予想は18%)としている(図7)。2032年の最終目標は想定内と言えるが、大きいエンジン車を好む今の米国の消費者にとって、あまり厳しい規制は受け入れ難いのが現状だ。2023年の米国のバッテリー電気自動車のマーケットシェアは8%で、中国の23%、欧州の15%と比べるとかなり少ない(図4)。インフレ抑制法(IRA)が今後シェア拡大を後押しするだろうが、その結果が現れるにはまだ時間がかかるだろう。従ってEPAが中間目標となる平均排出基準値を変更した(図1)ことで自動車メーカーへの圧力は一時的にせよ和らげられ、消費者に強くバッテリー電気自動車を売る必要がなくなった。つまり当面はエンジン車を売り続けることが可能になったと言える。
図1:EPAが新たに発表した規制は期間中の基準値が緩和された
図2:排ガス基準の緩和でPGMを使うエンジン車の販売が許容され、PGM需要に恩恵
今回の変更で2027年から2031年の間に米国では300万台のエンジン車が多く販売できるとみられ、それで年間平均3.1トンの2E PGMが生まれる。2E PGM3.1トンはこの期間に増える2Eの需要の0.5%にしかならないが、重要なのは排ガス規制のタイムラインに対して譲歩する傾向が世界的に広まっているという点で、エンジン車の寿命が延びることにつながっている。2023年だけでも以下のような変化があった。
- イギリス政府、エンジン車の販売禁止を5年間先延ばし
- EU、2035年以降の合成燃料(e-fuel)のエンジン車販売を承認
- 自動車メーカー数社、ハイブリッド車モデルを優先して投入すると発表
さらに中国車輸入に対する保護主義的な動きのおかげでエンジン車の割合が多いEUと米国の自動車メーカー(と雇用)は有利になる可能性もある。こういった様々な要因が背景となって、ハイブリッド車が脱炭素化に中心的な役割を果たすようになるだろう。従ってバッテリー電気自動車のマーケットシェアが伸びても、2023年から2028年の自動車のPGM需要はそれほど減らず、年平均成長率は-1.2%にとどまるだろう(図8)。
米国の平均排出量基準の規制適用期間中の変更で、エンジン車とハイブリッド車の販売及びPGM需要が増える可能性
自動車のPGM需要は、バッテリー電気自動車が増加してもさらに長く続く可能性
投資資産としてのプラチナ
-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続く
-プラチナ供給は南アの電力問題とリサイクル供給で問題多い
-自動車のプラチナ需要は主にガソリン車の代替需要で今後も成長期待できる
-水素関連のプラチナ需要は少ないが、将来のプラチナ需要の大部分を占める
-プラチナ価格はゴールドとパラジウムに比べて安い期間が続いている
図3:北米の自動車のプラチナ需要は世界第3位(2023年)
図4:北米のBEVのマーケットシェアは中国と欧州より少ない
図5:米EPAは規制適用期間中の普通乗用車平均排ガス基準値目標を緩和
図6:米EPAは規制適用期間中の小型商用車平均排ガス基準値目標も緩和
図7:EPAによる普通乗用車のBEVのマーケットシェア予測は2032年までに30%〜56%(WPICは61%)、小型商用車のそれは20%〜32%(WPICは18%)
図8:ハイブリッド車が増えれば、BEVが増えても自動車のPGM需要を支える
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