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著者の愛宕伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「日銀、予想通り3月にマイナス金利を解除、ハト派色出しながらも追加利上げ否定せず~難解な日銀文学を解きほぐす~」
日本銀行は3月18~19日に開催したMPM(金融政策決定会合)で、予想通りマイナス金利政策を解除しました。これで日銀は正常化のスタートラインに立ったことになります。注目は次の一手。ハト派色を出しながらも追加利上げを否定していないことが、難解な日銀文学で書かれた声明文を解きほぐすと見えてきます。
2024年春闘の賃上げ率は5%超、ベアは3%超に
最初に、日銀の植田和男総裁がマイナス金利政策解除を巡り「大きなポイント」と指摘していた今年の春闘から見ておきましょう。連合が3月15日に発表した第1回回答集計結果の賃上げ率は5.28%と、1991年の5.66%以来となる高い伸びとなりました(図表1)。
図表1 春闘の第1回回答結果と最終結果
例年、7月上旬に出る最終集計結果は、3月中旬の第1回回答集計結果から、最大でも0.2%程度しか下振れておらず、今年の最終集計結果は5%程度になることが予想されます。そうなれば、定期昇給(定昇)分を1.6~1.8%として、ベースアップ(ベア)分は3.2~3.4%(図表2)。日銀がマイナス金利解除を決断するには十分過ぎる結果だったとみることができます。
図表2 ベアと消費者物価上昇率
日銀はマイナス金利を解除、政策金利「0~0.1%程度」に
上記春闘の第1回回答集計結果を受け、日銀は3月のMPMで、
2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断した。これまでの「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みおよびマイナス金利政策は、その役割を果たしたと考えている。
と宣言し、予想どおりマイナス金利政策を解除しました。政策金利は無担保コールレート(オーバーナイト物)に変更され、その誘導目標を「0~0.1%程度」とし、同時に金融機関が日銀に預けている当座預金への付利を、超過準備に対する0.1%で一本化することが決まりました。いずれも予想通りの内容であり、特にサプライズはありませんでした。
植田総裁いわく、「普通の金融政策」を行っていく
筆者が今回最も注目していたのは植田総裁の記者会見です。先週のリポートでも述べたとおり、追加利上げに対して過度に慎重な姿勢を強調すると為替相場が円安に振れる一方、追加利上げを強く匂わせると長期金利が不安定化するリスクがあり、植田総裁はデリケートなコミュニケーションを迫られていました。
結果的には、為替が円安に大きく振れており、市場は記者会見の内容をハト派的と受け止めたようです。しかし、植田総裁の発言内容や声明文の中身を丁寧に精査すると、決して追加利上げの可能性を否定したわけではありません。むしろ、追加利上げの布石を打ったとみることも可能です。
まず、植田総裁は記者会見で今後の政策金利の見通しについて聞かれ、こう述べています。
物価・経済見通しに従って、適切な政策金利水準を選んでいくということになると思います。ただし、その際に、現状、2%の持続的・安定的な実現が見通せる状況に至ったと申し上げましたけれども、例えば予想物価上昇率という観点から見てみますと、まだ2%には多少距離があるということですので、そのギャップに着目しますと、緩和的な環境を維持するということが大事だということに留意しつつ、普通の金融政策を行っていくということになると思います。
(出所)各種メディア映像より楽天証券経済研究所作成
この発言の中の予想物価上昇率とは、1月MPMで公表された「展望リポート」(「経済・物価情勢の展望<2024年1月>」)でも紹介されている市場エコノミストの物価見通しや、物価連動国債から算出されたBEI(ブレークイーブンインフレ率)のことで、それらがまだ1.5%近辺にとどまっている点を、植田総裁は指摘したものと思われます。
その点を踏まえた上で、「緩和的な環境を維持するということが大事だということに留意しつつ、普通の金融政策を行っていく」と述べたわけですが、この発言にはいくつか重要なポイントが含まれています。
まず、「緩和的な環境」とはどんな環境かというと、政策金利が中立金利(引き締め的でも緩和的でもない景気に中立的な金利水準)より低いことを指しています。従って、中立金利より低い限りにおいて、政策金利の引き上げがあり得ることを示唆しています。
さらに、「留意しつつ、普通の金融政策を行っていく」と述べたことについては、予想物価上昇率が2%に到達していないことはもちろん意識するけれども、それだけではなく、他の要因も含め普通の金融政策を行っていくと、むしろ映像からは「普通の金融政策」の方を強調したように見受けられました。
では、その「普通の金融政策」とは何なのかという点ですが、これは単にこれまでの「異次元緩和」との対比で述べているというだけではなく、欧米の中央銀行と同様に、経済・物価・金融情勢に従って政策金利を決めていきますよ、という意思が込められているように思われます。