日本製鉄(5401)が巨額買収を発表しました。その評価について、私の考えをお伝えします。

日本製鉄が2兆円買収を発表

 日本製鉄(5401)は12月18日、かつて粗鋼生産で世界トップであったこともある米国の製鉄大手企業、USスチール(X)を約2兆円で買収すると発表しました。

 買収実現までに、各国規制当局や株主の承認、労働組合との交渉などさまざまな障壁があり、現時点で買収が確定したとは言えません。日本製鉄は2024年4~9月には、買収を完了できると見込んでいます。私も、以下二つの理由から、買収が成立する可能性は高いと見ています。

【1】USスチールの生き残りに不可欠と考えられること

 USスチールがこのまま単独で生き残るのは難しく、いずれ買収による立て直しが必要と考えられます。日本製鉄による買収を拒否すると、今後、それを上回る好条件の買収者は現れなくなる可能性もあります。

 中国の製鉄大手がUSスチールを買収する誘因はあるものの、米国政府も労働組合もそれを許容する可能性はなく、それも織り込み済みのため中国メーカーから買収オファーが出る可能性は低いと考えられます。

【2】株価に約40%のプレミアムを付ける買収提案であること

 日本製鉄による買収提案が出る前の15日のUSスチール株の終値は39.33ドルでした。日本製鉄はこれに約40%のプレミアムを乗せた55ドルで買収提案しています。これを受けて、USスチール株は急騰しており、もし買収提案が拒否されると株価は急落することになります。

 USスチールも日本製鉄も、ともに社名に国名がつく名門企業です。USスチールは1960年代には、世界トップの製鉄企業でした。日本製鉄は、旧八幡製鉄から始まる日本の産業革命をけん引した名門です。

 USスチールは、1970年代以降に競争力が低下し、日本にトップの座を奪われ、さらに2000年代以降は、中国にトップの座を奪われ、その差は拡大する一方です。

 米国は自国の鉄鋼産業に対して度重なる保護主義政策を打ち出してUSスチールを守ろうとしましたが、保護すればするほど高コスト体質の改善が遅れ、衰退が加速するという皮肉な結果となりました。米国トップの座も、電炉大手ニューコア(NUE)に奪われ、2022年の粗鋼生産では米国で3位、世界で27位まで低下しています。