サービス業の隆盛とカネ余りでバブル頻発?
「ここ最近は10年おきにバブルが起きていますが、それには別の理由もあります。資本主義の国での景気刺激策は、金融政策と財政政策が二本柱です。金融政策とは、金利を下げることと通貨供給量を増やすことです。どこの国も、不景気では選挙で負けて政権が持ちませんから、金利を下げることで、低金利でお金を借りて工場や家を建ててもらって景気をよくしようとします。日本でも、デフレ脱却という名目で、超がつく金融緩和が続けられていますよね。住宅ローンなどは1%以下の金利で借りることができるのも金融緩和の恩恵です」
「先生、私は、経済学のような話は苦手というか……。」
「いや、経済学の話をしようとしているわけではありません。ケインズは1930年代の世界恐慌に、金融政策と財政政策という二つの方策を取り混ぜて有効需要を増やして不況から脱却する解決策を示したわけですが、21世紀の今日は、ケインズの時代とは産業構造が大きく変わったことでバブルが生まれやすくなりました」
「すみません、全然付いていけていません」
「大丈夫です。今話したのは結果のところで、ここから仕組みを説明していきます。まず、ケインズの時代、第2次世界大戦後は、工業製品の大量生産が経済の柱で、それができる欧米が先進国とよばれた時代でした。ここは大丈夫ですか?」
「はい、イメージできます」
「しかし今は、情報通信、医療介護、観光娯楽、金融などのサービス生産が経済の中核を占めるようになっています。その結果、金融緩和によってあふれたカネは設備投資のような実物投資に向かうのではなく、金融資産や不動産への投資に向かいがちです。そうなると、資産価格のバブルを誘発しやすくなります。これが、近年、バブルが発生しやすくなった一つの背景です。」
隆一が、遮るように聞いた。
「先生、要するに、金融緩和でカネ余りの時にはバブルが起こりやすいということですか?」
「まあ、そう理解しても間違いではないでしょう。日本人は、80年代後半のバブル期には、絵画を目が飛び出るような値段で買いました。1987年3月にはロンドンの競売所で日本企業がヴァン・ゴッホの『ひまわり』を3,990万ドル(約42億円)で落札したり、日本人のオーナー経営者がニューヨークの競売所でヴァン・ゴッホの『医師ガシェの肖像』とルノワールの『ムーラン・ド・ラ・ギャレット』を総額1.6 億ドル(約170億円)で落札したりしていました。カネ余りの社会では、このようなことがよく起こります」