誰かが、より高い値段で買ってくれれば、株価は上がる
「金融機関という組織で働いている人は、運用成績を問われます。特にディーラーと呼ばれる職種の人は、その成績が会社の業績はもちろん自分の給料にダイレクトに影響します。だから、ライバルが稼いでいるのに、自分が稼がないわけにはいきません。私たちも、理屈はどうあれ、周りの人の儲け話を聞くと、自分も、と思ってしまうものです。日本も1980年代後半のバブル期には、一流といわれる企業まで財テクに走るなど、日本中がバブルに踊りました。証券会社が事実上の利回り保証をしていた『営業特金』は1989年には40兆円まで残高が膨れあがりました。営業特金というのは、ある意味、証券会社の営業マンに運用を丸投げしていた資金です。トヨタや日産、松下でさえも1兆円を超える資金を運用し、1,000億単位の運用利益をあげていました。NTT株の売出しに日本中が熱狂し、NTTのピーク時の時価総額は当時の西ドイツと香港の市場を合わせた時価総額よりも大きい50兆円まで買われました」
「とんでもない金額すぎてピンとこないですが、それだけ狂っていたんですね」
「これも有名ですが、バートン・マルキールというアメリカの学者が『ウォール街のランダム・ウォーカー』という本の中で『より馬鹿理論』として紹介している話があります。もし株価が実体を伴わないほど高くなっていたとしても、それよりも高い値段で買ってくれる人がいる限り、その株を買うことに合理性があるという理屈です。どんな高値でも、それ以上の値段で売り抜けられるのなら儲かるからです。逆にいえば、理屈のつく妥当な値段、あるいは割安と考えられる値段で買っても、それより高い値段で買う人が現れなければ損失を抱えることになります」
「先生、やっぱりMr.マーケットって嫁より気難しいですね」
「そう、Mr.マーケットは気難しいという認識を持つことはいいことです。ただ、難しいから尻込みするのではなく、そういった相場の特徴と上手に付き合うことが重要です」
「嫁との付き合い方も慣れてきたのと同じか」