株は食べられない。金融商品の値動きが大きくなる理由

「どういうことですか?」

「君が初めて訪ねてきた頃、投資とギャンブルとの違いを説明しましたね。そのとき、トレードという用語を使って、私の言う『投資』が、株式やFX(外国為替証拠金取引)の短期回転売買とも違うと、話しました。投資は、企業の成長を資金で応援して、その果実を自分も得る、という営みだから、成長企業や安定して利益を生んでいく優良企業を見つけて資金を投じる。結果として、投資の期間は中長期になる。一方、株式のトレードでは、需給で決まる株価に着目して、株価が値上がりしそうなら買い、値下がりしそうなら売る、という売買を繰り返して利益を上げようとする。価格差で利益を得るのが狙いだから短期勝負に向いている、という話です」

「ええ、先生、バッチリ覚えています。僕は、トレードよりも投資を身につけたいと思っています」

「よろしい。トレードそのものは投機とは違いますが、需給による価格差を利用して利益を得ようとする点は同じです。ちなみに、『投機』にはさまざまな定義がありますが、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズは『投資とは資産の利回りをその資産の存続期間の全体にわたって予想する活動』であるが、『投機とは市場の心理を予想する活動』である、という言い方をしています。相場は、市場参加者の心理で決まるという説ですね。言うまでもなく、市場参加者というのは、人間ですから、理屈はどうあれ、儲かりそうなら一斉に買い、損しそうなら一斉に売る、という行動をとります。これが、バブルの背景になります。あなたもそうでしょう?」

「もちろん、長いものには巻かれますよ」と隆一は堂々と言った。

「でも先生、いくらなんでも100円のものが、1000円になったら、みんな気づくのではないですか?」

 先生は頷いた。

「いい質問です。日々の、食品や衣服の代金、あるいはスマホ代や飲み代といった財やサービスの支払いには実際の消費需要があり、生産という供給能力の制約もあります。だから、一時的な需給のアンバランスで値段が上下することはあっても、時がたてば価格変動は収束しますし、それほど幅も大きくなりません。一方、株式、債券、外国為替、あるいは仮想通貨などの取引では、極端にいえば帳簿上で数字のやり取りがなされるだけで、株や債券を消費するわけではありませんから、パソコンやスマホのクリックやタップだけで、瞬時に何回でも売買できます」

「なるほど、確かに株式もビットコインも食べるわけじゃないですよね。だから、何度でも回転売買できるのか」

 隆一は、少しずつバブルが起こる本質に近づきはじめていた。先生はそれを察して続けた。

「どんな値段でも、その価格で売る人が存在し、買う人が存在すれば、取引は成立します。金融資産の売買には、消費者や利用者は存在しません。あるのは、金融資産の売買で儲けたいという市場参加者の心理、つまり、思惑と欲望だけです。だから、『そんな高値で仕入れたら、採算が取れないのでは』などという心配はしません。ある人には高値と思えても、別の人に『もっと高い値段になるはず』という心理が働けば、売買は成立します。だから、投機の対象となり、バブルが発生するのです。実はあのアイザック・ニュートンでさえもMr.マーケットに翻弄され、バブルに巻き込まれて大損をしているのです」

第12話:「繰り返されるバブル。資本主義はバカなのか」を読む

投資小説:もう投資なんてしない⇒

この小説が書籍化!絶賛発売中
『日本一カンタンな「投資」と「お金」の本』

購入はこちら



著者が動画で解説!:第11話

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
▼IFA法人GAIAが開催するWEBセミナーはこちら
https://www.gaiainc.jp/seminar/
ーーーーーーーーーーーーーーーーー