東証市場改革や日本企業魅力向上も追い風、アクティブETF上場

 東京証券取引所による市場改革も「貯蓄から投資へ」の追い風になりそうです。東証は今年3月末、プライム市場とスタンダード市場に上場する企業約3,300社に対して、資本コストや株価を意識した経営を要請しました。

 当初、市場ではPBR(株価収益率:1株あたりの純資産に対して株価が何倍かを示す)が会社の解散価値とされる1倍を下回る企業に対して、東証が改善を促したと受け止められました。

 要請の狙いについて、東証の長谷川執行役員は「上場企業が持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するために、単に自社株買いや増配など一過性の対応ではなく、資本コストや株価を意識した経営に継続的に取り組んでもらうことを期待した」と説明します。

 PBR は経営指標の一つの例であり、PBR1倍以上であれば合格、1倍未満であれば不合格といった絶対的な基準ということではないとのことです。

東証の長谷川高顕執行役員

 トヨタ自動車(7203)が6月に2027~2028年にEV(電気自動車)向けに次世代電池「全固体電池」の実用化を目指す方針を発表すると、低迷していたPBRが1倍を突破しました。こうした日本の上場企業の積極的な設備投資などの動きに市場の関心が集まっています。

 東証ではアクティブETF(上場投資信託)の取扱いを解禁したり、新たな指数となる「JPXプライム150指数」の算出を始めたりしています。

 アクティブETFは連動する指数や指標を定めず、柔軟な運用を行うのが特徴で、海外市場で広まってきています。東証はこれまで株価指数などに連動したパッシブETFの上場しか認めてきませんでしたが、6月末からアクティブETFの上場申請の受け付けを始めました。アクティブETF6本が第一弾として、9月7日に上場されました。新NISAの成長投資枠の対象銘柄となる見込みです。

9月7日に上場されたアクティブETF

コード ファンド名 特徴
 2080  PBR1倍割れ解消推進ETF PBR1倍未満の企業に投資し、議決権行使などエンゲージメントを通じ企業価値向上を促す
 2081  政策保有解消推進ETF 政策保有株が連結純資産の一定割合以上の企業に投資
 2082  投資家経営者一心同体ETF 経営者が自社株を相当程度保有する企業に投資
 2083  NEXT FUNDS 日本成長株アクティブ上場投信 高いROE(自己資本利益率)が中長期的に期待できる銘柄を中心に選定
 2084  NEXT FUNDS 日本高配当株アクティブ上場投信 予想配当利回りや増配の可能性が高い銘柄に投資
 2085  MAXIS高配当日本株アクティブ上場投信 大型株・中型株から、予想配当利回りの上位銘柄に投資

 JPXプライム150指数は資本収益性と市場評価から東証プライム市場に上場する計150社を選んで指数化したものです。具体的には、資本収益性については、ROE(株主資本利益率)と株主資本コスト(投資者の期待リターン)の差である「エクイティ・スプレッド」を基準として、当期の推定エクイティ・スプレッド上位75社を、市場評価については、PBR1倍を越える企業から時価総額上位75社をそれぞれ選んでいます。

 長谷川氏は「JPXプライム150指数は米国のS&P500と比べてもそん色ない指数で、指数に連動した商品が上場すれば機関投資家や個人投資家にも注目されそうだ」と期待をかけています。

 ここ最近は、家計の資金が日本から海外に逃避する「キャピタルフライト」を懸念する声もありました。個人が日本企業よりも資本効率が良い海外企業や海外のインデックスファンドに投資する動きがあったからです。

 日本企業の魅力が高まり国内に投資が回り成長の原資になっていけば、投資家への配当に加えて従業員の賃金のアップにつながります。家計が潤えば国内消費も上向き、よりいい好循環が生まれる可能性があります。

東証の長谷川執行役員「インフレで投資をしないリスクも」

 個人の資産形成に対する意識が変わってきたことも投資が広まる後押しとなりそうです。金融庁が2019年に65歳以降の30年を生きるには公的年金では約2,000万円不足するなどと試算したことで広まった、いわゆる「老後2,000万円問題」で資産運用に関心を向ける現役世代が多くなりました。

 さらに最近の物価高で投資をしないことがリスクになることも意識されるようになってきました。日本では長らくデフレ・低インフレの時代が続き預金で持っていてもお金の価値が減る心配はあまりありませんでした。

 東証の長谷川氏は「最近の物価高で持っている現預金の価値が目減りするリスクがあり、家計の資産を増やすにはどうしたらいいか考える必要が出てきた」と説明します。

 物価の変動を示す消費者物価指数(生鮮食品を除く)の1年前の同じ月と比べた伸び率は昨年9月以降、数値が公表されている今年7月まで11カ月連続で3%を上回っています。額面上は同じ金額でも商品の値上がりで実際に買えるものは少なくなっています。

 日本の家計の金融資産には2023年3月末時点で2,043兆円があり、そのうち、現預金が半分超の1,107兆円を占めています。株式や投資信託などは約17%の343兆円にすぎません。

 米国では家計の金融資産の約56%、ユーロ圏では約33%が投資に回っています。2000年から2021年末までに日本の家計の金融資産は1.4倍に増えましたが、米国は3.4倍、英国が2.3倍と大幅に伸び、日本は劣後しています。

 低金利が続く日本では預金からはほとんど利息が得られません。定期10年の預金金利は0.008%(2023年8月時点、預金額300万円未満)です。一方、最上位の東証プライム市場に上場する企業の配当利回り平均は2.23%(2023年8月)あります。

 単純計算ですが、10年間で元本100万円の預金だと単利で800円しか利息が付かないのに対して、100万円の投資をしていれば22万円(単利)の配当が得られることになります。