米中関係の改善は中国経済の追い風となるか

 第4四半期に当たる10~12月の中国経済を占う上で、私がもう一つ鍵を握る要素になると考えているのが米中関係です。日本では「米中対立」の4文字が枕詞のように市場や世論を出回っています。確かに、バイデン政権率いる米国は中国を「世界秩序やルールを変更する意図や能力を持った唯一の国」と定義し、習近平政権率いる中国は米国を「中国の台頭を封じ込め、中国の体制を転覆させようとしているいじめ国家」と認定しています。先端技術、人権、経済、軍事、台湾などあらゆる分野・問題を巡り、米中が覇権争いを展開する局面は、長期的に続いていくと見たほうがいいと思います。

 一方、今年2月、中国の気球が米国の領空を侵犯した事件が起きて以来、一気に緊張感が高まった米中関係ではありますが、6月にブリンケン国務長官、7月にイエレン財務長官、ケリー気候変動担当大使、キッシンジャー元国務長官、8月にレモンド商務長官と、閣僚や要人が相次いで中国を訪問しています。

 9月には、王毅中央政治局委員とサリバン国家安全保障担当大統領補佐官がマルタ島で約12時間協議を行い、ほぼ同時期、国連総会に出席するために米国を訪問した韓正国家副主席がニューヨークでブリンケン国務長官と会談しています。来週には、上院議員が超党派で訪中し、習近平国家主席との会談も模索するという報道も出ています。

 要するに、米中関係には対立と対話、競争と共存という2つの軸があり、対立し、競争しているからこそ、対話を通じて共存するというベクトルも相当程度機能しているということです。

 その意味で、2023年最大のクライマックスを迎えると思われるのが、11月に米サンフランシスコで開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議です。私か把握する限り、習近平国家主席はこの会議に出席し、かつ国家副主席時代から付き合いのある旧知のバイデン大統領と会談すべく、両国政府は緊密な協議、交渉を進めているというのが現状です。結果的に、習近平主席がどのような形で米国を訪問し、米中首脳会談が実現するのか、非常に見ものです。

 言うまでもなく、米中2大国がどのような関係にあるのかは、国際関係、世界経済にも根本的な影響を及ぼしますし、日本で日増しに関心や懸念の高まっている台湾有事にとっても決定的なインパクトをもたらします。「米中対立」を抜きにした「台湾有事」は考えられないのですから。そして、仮に台湾海峡で戦争を含めた武力衝突が勃発すれば、それこそ世界経済やマーケットへの影響は、リーマンショックどころではなくなる可能性も大いにあります。

 今年も残すところ3カ月弱。米中関係の行方にもしっかり注目していきたいところです。

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