【質問】サラリーマンが60歳の定年をあと2年後に迎えようとしています。定年後は雇用延長しないと仮定して、定年までにやっておくこと、やっておいた方がよいことはありますか。
【回答】定年を仕事の引退(リタイア)と考えて、それまでにやっておいた方がいいことは、趣味と友達を作ることでしょう。
今後の「仕事」をどうするのかが、一般的に一番重要で備えの必要な問題でしょうが、既にご自身でお考えでしょうから、野暮な話は抜きにします。
定年を仕事の引退(リタイア)と考えて、それまでにやっておいた方がいいことは、趣味と友達を作ることでしょう。どちらも、時間に意味を持たせてくれます。現役時代から大いに必要で助けになるのですが、リタイア後には特に大事です。
そして、どちらもポートフォリオの銘柄数ほどではないとしても、複数持っていることが望ましいでしょう。
読者は、時間を忘れるくらい集中できる趣味を幾つお持ちでしょうか。また、急に声を掛けたとして一週間以内に会ってくれる友人を何人お持ちでしょうか。
趣味との付き合い方は人それぞれで、ある程度習熟して蘊蓄を語れるようにならないと趣味だと認めない人もいますし、「趣味は、覚えかけが一番楽しいのだ」と割り切る人生の達人もいますが、何れにせよ自分が夢中で時間を使えるものが必要です。
趣味は、一つではいけないのか? という疑問があるかも知れません。継続できれば一つでも構わないのですが、複数ある方が安心だと申し上げておきます。
具体例を挙げるのは少々気の毒にも思うのですが、私の両親の例を挙げます。
父(6年前に89歳で他界)は、商売人で小さな会社の経営者でしたが、絵、囲碁、俳句を趣味にしていました。加齢でゴルフが辛くなってからは、囲碁の道場に頻繁に出掛けて碁敵との交流を楽しんでいました。時には友達を作ることもできるので、趣味は多方面で役に立ちます。その後、最晩年に高齢者用の施設に入るようになってからは、小さなスケッチブックに簡単なスケッチを描いたり、手帳に俳句を書き付けたりして、本人なりに有意義に過ごしていたように見受けます。
一方、母(現87歳)は数年前まで活発で丈夫な人でゴルフが趣味でした。80歳代になってからも90を切るスコアで回ることがあったので、まあまあの腕前でした。ところが、数年前から足の不調に始まって体調を崩し、ゴルフと遠ざかって張り合いのある趣味を失ってしまいました。息子は「趣味にも分散投資が有効なのだな」と理解しました。
母は、小説を読むのが好きでもあったのですが、同時に視力が衰えて、今や本を読むのは辛いと言っています。分散投資が有効に働かなかった、不運な趣味投資だったようです。
息子である私は(目下65歳)、まだ引退していませんが、将棋、囲碁(共にアマ四段くらいです)、競馬(雑誌「優駿」にコラムを連載しています)が、目下趣味と言えるラインナップです。ウィスキー、ボクシング観戦などがこれらに続きますが、趣味だと言えるところまで熱中していません。目下の3つの趣味は、それぞれ友達作りにも役に立っています。
少し残念に思っているのは「自己表現系」の趣味を持っていないことです。音楽の趣味があると良かったのですが、楽器は若い頃に何もしていないので一から始めるのはいかにも大変そうです。歌は一時カラオケ好きだったのですが、昨年食道癌に罹って、お酒と共にお別れとなりました。
父は半ば遺言のように「ハジメ、俳句をやるといいぞ」と言っていました。俳句は些か制限が厳しいので、昨年、川柳をやってみようかと書籍を買い込んで調べてみたのですが、現代川柳の作家さん達があまりにも厳しく自己と向き合って創作に励んでいる様子を垣間見て、「やりたいことと、少しちがうなあ」と躊躇して、一歩踏み出すことが出来ませんでした。
人にもよるのでしょうが、新しい趣味を作ることが、そう簡単でない場合もあるので、趣味について、「定年前から準備しておくといい」と申し上げる次第です。
さて、友達も新たに作るには時間の掛かる対象です。しかも、特にリタイア後には必要な存在でしょう。
サラリーマンの場合、勤め先の同僚とばかり付き合っていると、会社と縁が切れる定年後に、急に他人との行き来が乏しくなる可能性があるので注意が必要です。
筆者の場合、幸いなことに「飲みたいなあ」とでも声を掛けると付き合ってくれそうな友人が、自分の体力(癌になる前だったとしても)と財力を超えるくらいの人数で存在するので、ありがたいことだと思っています。
数的には仕事が縁で仲良くなった人が多いのですが、そういった人も含めて、過去に一緒に楽しくお酒を飲んだことで出来た財産だと理解しています。必ずしもお酒でなくてもいいと思いますが、時間とお金を(時に体力も)使わずに友人を持とうというのは無理な注文なので、「定年前から準備しておくといい」ことの一つとして強調しておきたいと思います。