これまでのあらすじ
信一郎と理香は小学生と0歳児の子どもを持つ夫婦。第二子の長女誕生と、長男の中学進学問題で、教育費の負担が気になり始めた。自分たち家族の人生に必要なお金について、話し合い始めた二人は、毎週金曜夜にマネー会議をすることに。NISA口座を開設し、ついに投資を始めた二人は…。
値動き、毎日見なきゃ気がすまない!
「理香!」
昼休み、スマホとにらめっこをしていた理香は、同僚の恵理子に肩をたたかれて飛び上がった。
「最近よくスマホ見てるけど、何見てるの?」
「あっ、いや~。息子の塾の情報をゲットしたくて教育関連のサイト見てるんだ」
「あ、健くん、中学受験するの?」
「いや、まだそこまで話は進んでないんだけど、どれくらいかかるのかなって」
本当は投資信託の値動きをチェックしていたのだが、理香は慌てて画面を伏せてごまかした。
こればっかりは、同期で一番仲のいい恵理子といえど、なかなかオープンに話しにくい。そのうち、飲みにでも行って、同世代の恵理子の家計テクを聞いてみたいが、こういう話をするのを嫌がる人は嫌がるだろう。つくづくお金の話は難しい、と理香は思った。
その点、上司のマイケルは、ひょんなことから資産形成の話もぶっちゃけて話せるようになり、気が楽だ。今やマイケルは、仕事面でも投資面でも理香の師匠といえる。
「恵理子んところは、メイちゃんどうするの? 来年中学でしょ?」
「メイは今、必死で勉強してるけど、始めたのが春休みだったからもう遅いかもね…。早い子は小学3年生くらいから始めてるっていうし」
受かったら受かったで家計的にはきつくなるんだけど、がんばってる姿見たら応援してやりたくなるよね…と恵理子は苦笑いし、デスクに戻る。理香はスマホの画面をもう一度眺め、ため息をついて、証券会社のアプリ画面を閉じた。
健の受験についての話は、まったく調べてもいないし、信一郎とも話ができていない。次のマネー会議の議題は教育費ね…と思い、理香は仕事に戻った。
……
「ちょっと理香? 聞いてる?」
「ああ、うん、ごめん聞いてなかった。何?」
信一郎はため息をついて、スマホからようやく顔をあげた理香の肩をたたいた。
「最近の理香はスマホの見過ぎ。どうせ投資信託の値動きを見てるんだろうけど、あんまり神経質に見過ぎるとメンタル削られるよ」
「うーん。分かってるんだけど、ついつい気になって…。見てもほとんど上下してなくて。こんなものなのかな…。案外つまんないな」
「僕は全然見てないよ」
信一郎はそう言いながら健がソファに置きっぱなしにしていたゲーム機を拾い上げた。
「見なくて大丈夫なの? 心配じゃない?」
「僕が見たら下落しそうな気がして…」
野球もサッカーも、僕が応援するチームは負けるっていう自分ジンクスがあるからな…と信一郎は苦笑した。
「それに、資産形成の本に、あんまり価格が気になりすぎる人は投資に向かないって書いてあったから、我慢して見てないんだよね」
「偉いなあ、私は我慢できなくて1日に何回も見ちゃう」
「まあ、始めた以上は気になるよな」
正直、最近の理香は、少しスマホ依存すぎるが、ここでさらに追い打ちをかければ、理香はきっとむくれるだろう。
「まあ、今日はもうスマホはおしまいにしようよ。お金の話や、チェックは、金曜だけにしよう」
「そうね。わかった」
理香はやっとスマホを置いた。のんびりと皿洗いをしたり、散らかった部屋を片付けたりしていた夫婦は、翌朝、とんでもない心配事が持ち上がることをまったく予想していなかった。