中身のないジャクソンホール会議とペトロダラー体制を揺さぶったBRICS+の首脳会議

 先週、注目された会議が2つあった。一つは米西部ワイオミング州で開かれていた国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」だ。26日に閉幕した会議において、主要中央銀行のトップや経済学者らはこぞって、歴史的な高インフレが鈍化した後も世界経済を覆う分断などの構造的なリスクを指摘したと報道されている。

 だが、ジャクソンホール会議は、事前予想通りのつまらない会議だった。世界の過剰流動性相場を支えている日本銀行の植田和男総裁は、「金融緩和を維持しているのは、基調インフレがなお目標をやや下回っているため」だと述べ、株式市場関係者を喜ばせた。

 もう一つは22~24日の日程で南アフリカにて開催されていたBRICS+の首脳会議である。BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成されているが、来年1月から新たな加盟国としてアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国を受け入れることが決まった。

 会議後の記者会見で、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は「加盟国拡大は歴史的だ。BRICSの協力のメカニズムに新たな活力をもたらす」と意義を強調したという。南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は、「BRICSは、公平な世界、公正な世界、包括的で豊かな世界を構築するための努力の新たな章に着手した」と述べた。

 BRICSは「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国を結集し、それらの声を代弁する場として存在感を高める狙いがある。こうした動きは世界の対立や分断をさらに深めることになりそうだ。しかし、BRICSには共通する理念や政策がない。また、グループ内における中国の経済的優位性を考慮すると、このパートナーシップがどの程度対等なものになるかは未知数だ。

 米調査会社のピュー・リサーチ・センターの最新の世界意識調査をもとに、Statistaが「Friend or Foe? How BRICS Partners View China(敵か味方か? BRICSパートナーは中国をどう見ているか)」と題する記事をまとめた。

 それによると、BRICS諸国の中には中国をかなり批判的に見ている国もあり、とくにインド人は強大な隣国を非常に批判的に見ていることがわかった。

BRICSパートナー国は中国をどう見ているか?

出所:Statista

 インドは回答者の50%が中国を非常に嫌っており、さらに17%はどちらかというと好ましくないとしている。合計すると7割近くに及ぶ。ヒマラヤ山脈にて国境を接している両国の緊張関係は数年前から悪化している。

 記事によると、インド人の48%は、習近平が世界情勢に対し正しいことを行うとは思えないと主張し、58%は国際的な政策決定をする際にインドの利益を考慮しないだろうと答えた。

 また、ブラジルの回答者の50%が中国はブラジルの利益を考慮しないと答えた一方で、67%が「習近平は世界政治の舞台で正しいことをする」ことに関して、信頼していない表明をした。ブラジルの回答者の48%が中国に対して「非常に」または「やや」否定的な意見を持っており、これは2019年のわずか27%から上昇した。

 ラマポーザ大統領はBRICSについて「異なる見解を持ちながらも、より良い世界を目指すビジョンを共有する国々の対等なパートナーシップ」とも述べたという。既存勢力への対抗という共通項でどこまで協調できるのか、今後、加盟国がさらに増えた場合はよりかじ取りは難しくなりそうだ。

 とはいえ、BRICSの今回の発表は、米ドルを世界の基軸通貨から脱却させるという、より大きな地図における重要な中継点である。BRICSの新たな構成により世界の石油生産の80%が支配される。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イランがBRICSに加わることで、EU(欧州連合)は世界の石油生産の大部分をコントロールできるようになる。

 新興BRICS諸国のGDP(国内総生産)の急成長も同様だ。これは世界のGDPの30%に相当し、30兆ドルを超えることになる。

 BRICS+では貿易や金融取引における現地通貨の使用を促進していく方針が確認されている。サウジアラビアは、グループ諸国との二国間貿易総額が2022年に1,600億ドルを超える中東最大のBRICS貿易相手国である。

 キッシンジャーが作ったペトロダラーシステム(ドル=石油本位制)の崩壊による世界貿易の脱ドル化とBRICS+の台頭と相まって、乗り越えられない債務負担により、米ドルはじり貧の道をたどっていく可能性がある。BRICS首脳は、米ドルへの依存を減らすことを目的として、貿易や金融取引における現地通貨の使用を促進することで合意した。

 The Burning Platformのジム・クインは『アメリカ帝国の終焉』というコラムで、次のように述べている。

 衰退の一途をたどる帝国の末期を生き抜くことは、借金、堕落、否定という死の淵で暴れまわり、動揺し、決して楽しい経験ではない。しかし、それは歴史のサイクルが再び繰り返されるだけであり、帝国の名前は変わり、悪役や愚か者は変わり、内戦や国際紛争が起こり、その果てに債務不履行が起こる。

 下の図が描くように、20世紀初頭からアメリカが支配し、コントロールしてきた既存の社会秩序は、債務不履行、社会的混乱、世界規模の戦争という津波に押し流され、急速に終焉に向かっている。それが「4thターニング」だ。

ウィリアムストラウスとニール・ハウによる第四の節目(4thターニング)理論

出所:The Fourth Turning: What the Cycles of History Tell Us About America's Next Rendezvous with Destiny

 レイ・ダリオはグローバル・エリートの一人だが、私はレイ・ダリオの世界秩序の変化に関するチャートは、私たちがこのサイクルの中でどのような位置にいるのかについて正確だと信じている。

 ドット・コムの大暴落と9.11をきっかけに、債務、貨幣印刷、専制政治が天文学的に増大し、債務と貨幣印刷によって引き起こされた危機のたびに、さらなる債務と貨幣印刷という「解決策」が打ち出された。

 米国債の利子は年間1兆ドルを超えようとしており、アメリカの経済システムは数年以内に崩壊するだろう。

 2016年のトランプ当選以来の内紛と、その後のクーデター、不正選挙、詐欺まがいの行為、そして今やトランプへの不当な憲法違反の迫害によって、この国は内戦の瀬戸際に立たされている。政権メディアや注意散漫な大衆が内戦の可能性を嘲笑うのは知っているが、1859年にも同じことがあった。

 この国には、自分たちの利益のためにこの国を破壊してきた人々に対する怒りが渦巻いている、正当な怒りを持った人々が大勢いる。2024年の選挙は、この火薬庫に火をつける火種のように思える。

 私たちはすでに、第16段階「基軸通貨の喪失」と第17段階「弱いリーダーシップ」の真っ只中にいると私は考えている。アメリカ帝国が始めたウクライナ戦争は、世界の基軸通貨としての米ドルの崩壊を引き起こし、世界貿易のための決済通貨として70年間君臨してきた米ドルの支配に終止符を打った。

世界秩序の変化

出所:Principles for Dealing with the Changing World Order(レイ・ダリオ)

 我が国の歴史上、最も弱く、最も間抜けで、最も腐敗した、非合法な大統領であるバイデンは、ロシア、中国、インド、ブラジル、そして今や中東と南米の石油生産者を、米ドルの終焉を加速させる経済同盟へと押しやることに成功した。

 2024年は、この4thターニングの16年目にあたり、内戦、革命、世界的な紛争の真っ只中にある。

出所:8月29日ゼロヘッジ 『Quinn: End Game For The American Empire』

 今後、世界の国々で「金融」への関心が薄れ、「モノ」への関心が高まっていくことが予想される。私たちの生活を支えるには、金融よりも、モノの方がはるかに重要であることがわかったからである。

米ドルの価値と購買力

出所:ビジュアルキャピタリスト

 負債が成長を上回るペースで増加し、成長が投機的な信用資産バブルに依存しているが、これはいずれ持続不可能になる。結局のところ、どの国でも不換紙幣制度の最終段階は「インフレ」であることが証明されている。

 ここから10年、世界は多極化が加速していくだろう。