中国政府は「救済」に消極的。国民が暴れたらどうするのか?

 そんな状況を、中国政府はどう認識し、対応しようとしているのか。

 過去5年、中国政府は「金融システミックリスクの防止」を重要な政策の一つに掲げてきました。その観点からすると、最も懸念しているのは、恒大や碧桂園の債務問題、デフォルトが、中国国内の金融システムを撹乱させることでしょう。ただ、仮に恒大一社が破綻、破産したところで、金融システムの不安をあおることはあっても、それが崩壊するような事態にはならないでしょう。もちろん、信用リスクの増大は不安要素になります。

 中国政府はこれまでも、中国人民銀行、証券監督管理委員会、および恒大が本社を置く広東省の人民政府などが中心となり、恒大の経営再建、債務再編を指導してきました。要するに、今回の米破産法適用申請を含め、政府のコントロール下で行われているということです。

 中国政府には、恒大集団を含めた不動産開発業者たちを「甘やかしてきた」という認識を持っています。放漫経営、債務問題、本業軽視などを認知しながら、「不動産は中国経済にとって重要だし、国民も買いたがっているから」という国情に自らが甘えてきたという背景もあるでしょう。

 そして、恒大問題で教訓を得た中国政府は、これらの問題企業を安易に救済することはしないでしょう。可能な限りデフォルトさせない、破綻させない、破産させないという方針は堅持するでしょうが、巨額の公的資金を投じて問題企業を救済するという先例は作らないことが予想されます。自分たちの監督、指導下で、最善は尽くしたけれども、これ以上の継続が無理なら、破産宣告してくれ、というスタンスです。

 上記で、中国政府は不動産開発業者の経営破綻が金融システムに与えるリスクを懸念していると書きましたが、中国政府を指導する立場にある中国共産党が最も警戒しているのは、それらの懸念事項が表面化、顕在化することで、国民心理がパニックに陥り、国民が公の場で暴れることで、治安維持が困難になったり、批判や不満の矛先が共産党自身に跳ね返ってくるという「政治リスク」にほかなりません。

 この期間、恒大が手掛けるプロジェクトを含め、住宅購入金を開発業者に支払ったにもかかわらず、建物が未完成で引き渡しが遅れ、入居できない中国人民が、開発現場や恒大本社などに押し寄せ、「マンションを返せ!」「政府は庶民の味方になれ!」といった声を上げる場面が散見されます。

 政府はこういった動向を懸念し、資金繰りにあえぐ不動産開発業者による継続が困難になったプロジェクトを政府系企業に引き継がせるなどしていますが、政治リスクは解消されていないと私は見ています。

 安易な救済はしない。ただ、国民が暴れたら、その時どうするのか。

 中国の経済、そして政治を見ていく上でも、正念場が続いていくと思います。