恒大集団による米破産法適用申請は何を意味するか?
中国の不動産大手・恒大集団(チャイナ・エバーグランデ)が8月17日、ニューヨークの裁判所に米連邦破産法第15条の適用を申請しました。恒大は約1年半前にデフォルト(債務不履行)に陥り、今年7月に発表した2022年末の負債額は2兆4,374億元(約49兆円)に上り、債務超過、経営危機に陥っていました。市場に衝撃が走る中、同社は翌日の18日に声明を発表し、今回の措置は破産の申請ではなく、海外における債務再編を進めるための正常な手続きの一部であると主張しています。
破産!と聞くと、すでにデフォルトしていた恒大集団がついに経営破綻、そして企業破産…という局面をとっさに想像しがちですが、同社が声明文の中で弁明しているように、今回の措置はいわゆる「破産」ではありません。むしろ、破産しないための応急措置と言えます。
破産法第15条適用申請の目的は、同社の米国における資産を保全することで、債権者などから資産を差し押さえられないようにすること。実際この期間、恒大は中国政府の指導下において、海外における債権者と対話、交渉を続けながら、債務再編計画を練り、実行しようとしてきました。そのプロセスをより有利に進めるために取ったのが、今回の破産法適用申請だったということです。
もう一つ重要なのが、米国という地で申請したという事実。米国は英米法系に属するコモンロー(普通法)を採用していますが、恒大がこの期間、香港、ケイマン諸島という、同じくコモンローを採用している国・地域で債務再編を実行してきた経緯を考慮すると、適用性の観点からも物事がスムーズに運ぶという点が見いだせると思います。
これまで記してきた内容だけを見ると、「じゃあ何の問題もないではないか」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。破産法申請は破産ではない、むしろ破産を回避するために取った措置である、と指摘しましたが、裏を返せば、破産しそうだから、このような措置を取ったということにほかなりません。今回の申請は、いわば「時間稼ぎ」にしかならないのです。恒大集団が債務超過という厳しい財務状況に見舞われている現状に変わりはありません。
また、本連載でも扱ってきた「恒大問題」は、近年における中国不動産業界低迷のトリガー(引き金)を引きましたが、今回の破産法申請が同業界、さらには中国経済全体に新たな不安要素を投げかけているのは間違いありません。
それと同時に、同社は中国国内280以上の都市で3,000以上のプロジェクトを手掛けていますが、不動産業界全体が不振に陥り、個人消費を含めて中国経済全体が低迷している状況下において、事業体という意味で主戦場である中国国内に突破口を見いだすことは難しい状況にあります。「四面楚歌」と言っても過言ではない状況に、恒大集団が置かれているのは間違いないのです。
同業大手の碧桂園が陥るデフォルト危機はもっと危ない?
中国不動産業界の不振をあおっているのは恒大集団だけではありません。同じく不動産開発業者大手である碧桂園(カントリー・ガーデン)は8月7日の社債利払いを履行できず、デフォルト回避のための猶予期間が30日を切りました。この社債の償還期限は9月2日で、元本残高は39億元(約780億円)とのこと。
これを受けて碧桂園は13日、自らが上場する香港証券取引所への届け出で、同社と関連会社が発行したオンショア社債11本の取引を14日から停止すると公表しています。
同社は8月10日、今年1-6月期の純損益が450億~550億元(約9,000億~1兆1,000億円)の赤字になる見通しを示しました。また、碧桂園の昨年末時点における負債総額は1兆4,000億元(約28兆円)に達しています。恒大集団ほどではないですが、こちらの財務状況も相当深刻です。
特筆すべきは、2017年以降、不動産販売額・面積ともに首位を走る碧桂園が国内で手掛けるプロジェクトは恒大の4倍あること、また、電気自動車、スポーツ、遊園地などさまざまな業界に事業を拡大してきた恒大に比べて、碧桂園は不動産という本業に専念してきました。要するに、碧桂園がデフォルトに陥れば、不動産業界に与えるインパクトは恒大以上になる可能性も高いということです。
不動産業界は、中国における個人消費、工業生産、設備投資など広範な分野に組み込まれており、仮に不動産バブルが崩壊するような事態になれば、それが局地的なものであったとしても、中国経済全体、兼ねては世界経済への影響も不可避となるでしょう。予断を許さない状況が続くと思われます。