NISA口座と通常の口座では相続時の扱いが異なる

 筆者の本業は公認会計士・税理士です。近年は相続税申告の業務や、生前の相続対策のコンサルティングも数多く対応していますが、お亡くなりになった方が証券会社に口座を持ち、上場株式や債券、投資信託といった金融商品を保有されているケースは多くあります。

 例えば上場株式であれば、証券会社ごとに所定の書類を記入し、添付資料とともに提出し、相続手続きを行って、相続人の証券口座に株式を移管することになります。

 楽天証券で口座をお持ちの方がお亡くなりになった場合の手続きなどは、こちらをご覧ください。

 通常の口座とNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座とで、相続手続きそのものは基本的に同じですが、相続が生じた場合の取り扱いに、多少異なる点があります。今回のコラムでは通常口座とNISA口座との相違点についてお伝えしたいと思います。

相続税評価額の計算方法

 相続税がかかる規模の財産をお持ちの方がお亡くなりになった場合、相続税法で定められた方法にて財産の評価額を計算することになります。

 証券会社にて取り扱われている有価証券については「相続発生日の時価」で評価することとなっていますが、上場株式の場合は、以下の四つのうち最も低い金額で評価します。

(ア)相続発生日(亡くなった日)の終値
(イ)相続発生日の属する月の毎日の終値の月平均額
(ウ)相続発生日の属する月の前月の毎日の終値の月平均額
(エ)相続発生日の属する月の前々月の毎日の終値の月平均額

 例えば2023年7月10日に亡くなった方の場合、
・2023年7月10日の終値
・2023年7月の毎日の終値の平均
・2023年6月の毎日の終値の平均
・2023年5月の毎日の終値の平均
を計算し、この四つの中で最も低い価格が相続税評価額となります。

 この計算方法は、通常の口座(一般口座や特定口座)であってもNISA口座であっても同じです。

 相続が発生した日だけでなく、多少さかのぼった時点の時価も含めて最も低い株価で評価できるので、相続が発生した日の株価よりある程度低い価格となることが多いです。

被相続人のNISA口座内の株式は相続人のNISA口座に引き継げる?

 被相続人(亡くなった方)がNISA口座内で株式などを保有していて、相続人もNISA口座を保有している場合、被相続人のNISA口座の株式などは、相続人のNISA口座に引き継げるでしょうか? 正解は「NO」です。

 残念ながら、被相続人がNISA口座で株式などを保有していた場合、非課税となるのは亡くなった日(相続発生日)までです。

 その後は相続人のNISA口座ではなく、相続人の通常口座(特定口座もしくは一般口座)に引き継ぐこととなります。

 NISA口座での非課税の恩恵は、あくまでもご本人が健在の間であり、亡くなった時点で非課税の措置は終了し、それが相続人に引き継がれることはないのです。

取得日と取得価額は?

 通常の口座とNISA口座で大きく異なる点、それが「取得日」と「取得価額」です。

 通常の口座では、相続が発生した場合、取得日と取得価額は被相続人が取得した日と取得価額を相続人が引き継ぐことになっています。

 しかしNISA口座では、相続人が引き継ぐ取得日は亡くなった日、取得価額は亡くなった日の終値となっています。

 数値例を挙げて確認してみましょう。
●甲さんは2019年8月1日にA社株を1株1,000円で1,000株購入。
●2023年7月10日に甲さん死亡。
●2023年7月10日のA社株終値は3,000円。

(1)通常の口座の場合

 通常の口座の場合、相続人が引き継ぐ取得日は2019年8月1日、取得価額は1株1,000円です。

 ですから、もし相続人が相続後、1株3,000円でA株1,000株を売却すると、(3,000円-1,000円)×1,000株=200万円が利益となり、これに対して所得税・住民税が課税されます。

(2)NISA口座の場合

 NISA口座の場合、相続人が引き継ぐ取得日は2023年7月10日、取得価額は1株3,000円です。

 したがって、相続人が相続後、1株3,000円でA株1,000株を売却しても、引き継いだ取得価額は3,000円ですから利益はゼロとなり、税金も課税されません。

 ただし、上記の例と異なり、被相続人の方が保有中に株価が値下がりした場合、一般の口座であれば取得したときの株価で相続人が引き継げますが、NISA口座では相続発生日の値下がりした後の株価で引き継ぐこととなります。したがって、その後株価が上昇して相続人が売却した場合、NISA口座から引き継いだ方が利益が多くなり、税金も増えることになります。