習近平自らが指揮を執るほど暗雲が立ち込める中国経済
先週のレポートでも扱ったように、中国経済がなかなか回復してきません。鈍化、低迷、落胆といったムードが漂っています。4-6月期のネガティブな経済統計結果を受けて、7月19日、共産党中央と国務院が連名で「民営経済の壮大な発展を促すための意見」を発表し、民間経済・企業の成長を支えていく立場を全面的に打ち出しました。習近平(シー・ジンピン)政権として、5.0%前後という経済成長率の年間目標を達成するため、景気を下支えするために、相当な危機感を持って、やれることは全部やるというスタンスで臨んでいるのが如実に見て取れます。
下半期の経済情勢、政策を占う上で、極めて重要な意味を持つのが、中国共産党の最高意思決定機関である中央政治局が7月24日に招集した会議で、昨今の経済情勢を研究し、下半期の経済政策について審議しました。毎年のこの時期に開かれる中央政治局会議は経済情勢、政策をテーマに扱う傾向が見られ、その意味で2023年も例外ではありません。
一方、ポストコロナ時代に入った現在、景気が予想していたよりも回復してきていない状況下における同会議の重要性と切迫性は例年を優に上回ると言っていいでしょう。私の見方としては、経済を具体的に統括しているのは、習総書記の信頼も厚い李強(リー・チャン)首相ですが、足元、習氏自身が「国難」を解決するという観点から、経済を上向かせるために指揮を執っており、指導部として、それだけ経済情勢に懸念を強めているというのが現状だと思います。
資本市場&投資家を激励するメッセージも提起
では、会議の内容を見ていきましょう。習近平政権として、経済の現状と先行きを決して楽観視していないことを示しているのが以下の指摘です。
「昨今の経済運営は新たな困難と課題に直面している。主に国内需要が不足しており、一部企業の経営は困難に陥っている。重点領域のリスクは少なくなく、外部環境も複雑で深刻である。新型コロナの感染拡大予防策はひと段落したものの、経済は不安定で、曲折を伴いながらの回復にならざるを得ない」
ポストコロナ時代における経済の回復が一筋縄にはいかないという認識を習氏本人が抱いているということです。そういう苦境を打破すべく、財政出動、金融緩和、減税といった政策を駆使しつつ、人民元の為替レートを合理的な水準で維持することの重要性を掲げています。
私が注目したのが、会議でさりげなく言及している次の文言です。
「資本市場を活性化させ、投資家の自信を奮い立たせるべきだ」
7月25日、中国人民銀行の総裁が、従来の易綱氏から潘功勝氏へとバトンタッチする人事が発表されました。習近平政権下において、中国人民銀行の政治的地位が低下し、金融政策、金融市場を軽んじてるのではないかという疑念が、ウォール街の金融関係者あたりからも聞こえてきていました。一方、上記のセンテンスを見る限り、党指導部として、国内外の投資家に好まれる資本市場を育んでいくことが、経済の回復につながると認識しているのが見て取れます。
そして、国内需要を拡大するために、消費の経済成長における「基礎的役割」を促していくべきという主張も見られました。具体的分野として挙げられていたのが、自動車、電子商品、住宅関連といった商品で、またスポーツ、エンターテインメント、観光といったサービス業も奨励されています。人工知能、プラットフォーム経済を重視する立場も示されています。
また、民間投資が落ち込む中、「民間投資を促す政策措置を制定するべきだ」という提言もなされています。対外貿易、外資の活動を安定させ、「海外との航空便を増やすべきだ」といったピンポイントの指摘も見られます。中国内外のヒト、モノ、カネを活性化させるための制限撤廃、規制緩和は、景気を回復させるために非常に重要なトリガーになるでしょう。