今後の収益成長期待高まる
前期決算は、「構造改革が進み、成長への期待が見えた決算」と総括できます。ただ、同時に今後の課題も見えた決算でした。
課題についてコメントする前に、まずイオンの成長つながると筆者が期待する三つのポイントについてコメントします。
【1】アジアでの成長加速へ
イオンのアジア事業は、日本と同様、コロナ禍のロックダウン(都市封鎖)で一時大きなダメージを受けました。今は、日本と同様、リオープンが進む中で急速に利益が回復しています。
ただ利益が回復するだけではなく、売上収益の一段の成長が見えてきました。特にベトナム事業の成長加速が期待されます。ホーチミン・ハノイに加えて中部の中核都市フエに出店したことが、貢献すると考えられます。
(参考)イオン2023年2月期の地域別営業利益
域別営業利益の構成比で、海外は30%に達しています。海外の利益構成比が3割を超えると、海外で成長する小売企業として、投資家の見る目が変わります。これまで、イオンはドメスティックな(国内中心の)小売業と見なされていましたが、これからは海外で成長していく小売業と見られるようになると考えています。
なお、上記の地域別利益は、イオンリテール(小売事業)だけでなく、総合金融・ディベロッパー事業の利益を加えた、トータルでの海外利益の構成比です。海外も国内と同様、小売事業だけでは収益性が低いが、総合金融、ディベロッパー事業を加えて、収益性を高めるスタイルを確立しつつあります。
【2】ヘルス&ウエルネス・総合金融・ディベロッパー事業で高収益を稼ぎ、成長するビジネスモデルを確立
イオンは、総合小売業として生き残り、成長するビジネスモデルを確立したと判断しています。総合スーパーが、専門店(ユニクロや無印良品・ABCマートなど)に押されて衰退していったのは過去の話です。
今は、郊外につくられたイオンの巨大なショッピングモールは、地域でもっとも競争力の高い小売業の一つになっています(セブン&アイの「セブンパーク」も同様に高い競争力を持つ)。
イオンは、競争力の高い専門店はテナントとして積極的に取り込んでモールの魅力を高めるとともに、テナント料をとって稼ぐ形をとっています。テナントとして取り込まない専門店に対しては、PB(プライベートブランド)品を強化することで逆に反撃に出ています。
それでも、イオンの巨大なショッピングモールで高収益を稼いでいるのは、現時点ではイオンリテール(小売業)ではありません。総合金融(カード事業など)、ディベロッパー事業(テナント料)で高い利益をあげています。
小売・金融・ディベロッパーの3事業を合わせて、競争力の高いショッピングモールを作って稼ぐビジネスモデルを、国内でも海外でも確立しています。
モール外では、ドラッグストア「ウエルシア」が高収益を稼ぎつつ、利益成長に貢献しています。調剤が成長をけん引しています。ドラッグストアの利益は、ヘルス&ウエルネス部門に含まれています。
前期は、ヘルス&ウエルネス・総合金融・ディベロッパーの3部門で、イオンの営業利益の72%を稼いでいます。イオンリテールの収益が低くても、3事業を合わせて、高収益を実現しています。
(参考)イオン2023年2月期の事業セグメント別営業利益
【3】小売業の利益拡大のカギとなる価値訴求型PBが始動
イオンリテール(小売業)の利益率が低いことが、この後で述べる「残された重要課題」です。ただ、収益改善の重要な一歩を踏み出しつつあることに期待が持てます。それが、「価値訴求型」PB戦略の始動です。
小売業の競争力を左右するのは、吉田昭夫・代表執行役社長が強調するように「商品力」です。NB(ナショナルブランド)中心の小売業は粗利が稼げず、値段のたたき合いになって衰退していきます。商品力を高めるには、魅力的なPB(プライベートブランド)の品ぞろえを豊かにしなければなりません。
ところで、NBからPBへの移行には、2段階あります。二つのステップを完了して、初めて強い「商品力」を持つ小売業と言えます。
<ステップ1>NBから、価格訴求型(低価格が売り)PBへシフト
<ステップ2>価格訴求型PBから価値訴求型(ここにしかない優れもの)PBへシフト
イオンは、ステップ1でかなりの成果をあげましたが、それだけではいずれPB同士の価格のたたき合いに巻き込まれるリスクがあります。そこで今、いよいよステップ2に踏み出したところです。
まだイオンのPB全体では小さな動きですが、着実に成果をあげつつあります。具体的な成功例として、プレミアム・ビールや高付加価値の衣料品PBの成功が挙げられます。食品や衣料品で成功例が増えています。
「住居余暇」分野で、まだ価値訴求PBの成功例が少ないのが課題です。台所用品や日用品・雑貨で商品力を高めるには、まだ時間がかかりそうです。
参考まで、PBで高成長を遂げてきた小売業のほとんどが、この2ステップを通ってきています。たとえば、ユニクロやニトリです。最初は中国製の安い衣料品や家具を売るブランドと見られていましたが、今は高機能の優れものを売るブランドとして認知され、成長を続けています。
セブン-イレブンもそうです。最初はジャンク・フードを売る店と思われていましたが、商品力を高めることで、今はセブンプレミアムという高品質の優れものを売る店と認知されています。
ステップ2への移行は、一朝一夕にはできません。ユニクロやニトリ、セブン-イレブンの例では、ブランド・イメージを変えるのに10年くらいの歳月を要しています。
イオンは、「トップバリュ」という価格競争力のあるブランドを持つ小売業として、消費者から高い支持を得ています。これから、価格訴求力だけでなく、価値訴求力でも高い支持を得ることを目指します。
ユニクロやニトリのような高いブランド力を得るには、まだ長い年月がかかるでしょう。ただし、その確かな一歩を踏み出したと考えられることが評価できます。