FIREブームの火付け役となった先駆者・穂高唯希(ほたかゆいき)さん、ブームとなった2020年にFIREを達成した桶井道(おけいどん)さんの対談の後編をお届けします。今回は、いつかFIREできたらと漠然と考えている読者へのアドバイスを中心に伺いました。

Q 今後、FIREは増えると思いますか?減ると思いますか?

穂高:FIREすると、「自分で決められる自由(主体性)」を手にするということです。だれかに決めてもらうのが心地よい人にとっては地獄かもしれませんが、みずから主体的に決めたい人にとっては天国です。私がFIREしたときを黎明期とすると、成熟期というか、別のステージに移ってきた感はあります。

 つまり、「どうFIREするか」から「FIRE後どうするか」に関心の焦点が移ってきたと感じます。先日、FIREをテーマとしたテレビ番組を作るための取材を受けたのですが、「FIREした後の人生を追う」というようなテーマでした。

おけいどん:私もその番組の取材に協力したのですが、放送を見ると、確かにFIREした後の人生がフォーカスされていましたね。番組では、投資環境が変わりマネープラン変更が発生したり、FIREをしたけれど想像していた生活とは違ったりするなどして、「FIRE卒業」した方々も取り上げられていました。

 FIREへの注目度は変わらず高いのですが、より現実的な面に、関心が集まっている、という感じを受けています。

穂高:FIREへの関心が集まる背景としては、やはり経済的な行き詰まりや社会にただよう閉塞感を感じて、消耗してしまっている人も少なからずいるからではないかと思います。今の社会に違和感を持っている人が、FIREという生き方に惹きつけられているのかな…と。

 実際、私のブログやSNS、FIRE関連のセミナーなどで、若い方々や同世代から熱心な質問をもらったりすることも多いんです。会社員という働き方に縛られず、生き方や価値観が多様化すれば、FIREは今後も増えていくかもしれません。

おけいどん:私はもうすぐ50歳なのですが、この世代はある意味、会社員であることが正だと思い込んでしまっているので、会社員を辞めるという切り替えができる人はそう多くないと思います。しかし、今後は、ある程度の資産が作れたら正規・非正規にこだわらず、ワークライフバランスをうまくとって、必要なだけ働くという「サイドFIRE」が増えるのではないかと思っています。

穂高:本当に好きな職につけている人は別ですが、敷かれたレール上を走っている、またはとりあえず走ると決めた人ほど、FIREに関心を持っている人が多いのではないかと思います。全く働かないFIREというのは、資金も必要でハードルも高い。

 実際に資産を確保してFIREできたとしても、今度は「何らかの形で役に立ちたい、周囲と関わりたい」という気持ちが芽生えてくると思います。仕事もしつつ、余暇や時間を大切にする自由度の高い生き方の一つとして「FIRE」がある、という考え方が、若い方を中心に広がっていくのではないかと思います。

Q FIREして初めて分かったことはありますか?

おけいどん:人生には「生きがい」が必要なんだと、FIREして改めて実感しました。会社員なら、目標は会社が与えてくれて、それを達成していくことで、生きがいや達成感が得られますが、FIREしたらそれは自分自身で設定しないといけません。

 FIREした後の人生も長いので、自分がその長い時間をどう生きるか、しっかり自分自身と向き合って答えを出していくということは大切だと思います。

穂高:自分はどう生きていきたいか、1度きりの人生でどうありたいのか。そういう「軸」を問われることになると思います。つまり、人生における究極の問いかけとなる機会を持てます。FIREしないと分からないこともありますし、FIREしてみて本当の自分を(再)発見する、ということもあるでしょう。

  そして、同じ日常の繰り返しではなく、日常に変化をつけることが充実と発見を生みます。「FIRE卒業」が話題になりましたが、それもひとつの「変化をつけること」だと思います。

おけいどん:社会はどんどん前に進んでいくので、自分自身で進化しないとおいていかれますよね。

穂高:情報発信する立場上、インプットをして変化をつけることで、アウトプットの幅も広がると思っています。日々新たに学びがなければ、FIREした時点まで持っていた知見の取り崩しになってしまう。好奇心に対して素直に行動することかなと思います。FIREした、しないにかかわらず、よりよい自分であるための模索は、今後の人生で続いていくことなのかもしれません。

Q FIREした後、幸せに過ごすには何が必要ですか?

おけいどん:私はFIREを実現するには三つのクリアポイントが必要だと考えています。一つは、いうまでもなく経済的自立を実現すること。資産額だけではなく、配当など不労所得も大切です。二つ目は家族の同意を得ること。生活がガラリと変わるわけですから、家族の理解も必須です。そして三つめは、会社員時代に、自分に誇れるような何かを達成するということです。

 意外に思うかもしれませんが、「会社員時代にどれだけしっかりやるべきことをやったか」というのはとても大切なポイントです。私は特別優秀な社員だったわけではありませんが、営業成績全社1位を勝ち取った経験がありますし、会社を辞めるとき、やるべきことはやったかなという、達成感がありました。

 それがなく、ただ単に「会社が嫌だ」という理由でFIREしたのであれば、「自分は社会から逃げ出したんだ」というネガティブな想いがぬぐえず、FIREした今の自分を肯定できなかったと思います。逆説的ですが、FIREするつもりなら、資産形成に励むだけでなく、今の仕事にしっかり向き合うことが大切だと思います。

穂高:人間は「社会的な動物」であり、社会性、つまり人とのつながりや交遊が人生の幅を広げると思っています。旅先のゲストハウスでも国内外の人に積極的に話しかけることで、思わぬつながりや発見があります。

 FIRE後も積極的にいろんなことに首と片足を突っ込んでいます(笑)。積極的に外とのつながりを活性化し続けることで、自分を幾度も見つめなおす機会をもらっています。また、もう一つ、大切だと思うのは「健康」です。

おけいどん:あっ! まったく同感です! とにもかくにも健康は絶対に必要。穂高さんは書籍の中でも「階段を必ず使う」と書いておられましたが、自分で体を鍛えて健康でいないと、FIRE後の生活は体力がどんどん低下してツライだけになります。怠惰にならず健康をキープできる「自己管理能力」も必要だということですね。

穂高:そうですね。そして、「FIREにこだわりすぎないこと」も、幸福な人生を過ごすために大切ではないかと思います。既存の言葉に自分の状態を当てはめる必要はなく、FIREの定義に沿うかどうかも大したことではありません。いろんなカタチのFIREがあってよいと思います。もし「なんかちがうなぁ」と思ったら、こだわりすぎずに別の生き方を選択するのも一つです。

おけいどん:まったくです! 私の場合も、計画の途中で親の介護をすることになり、大きな軌道修正をしました。父親は事業をしていましたが、働けなくなったので、私が代表代理になって切り盛りして、最後は廃業に導きました。

 状況を見ながら臨機応変に対応できないと、自分で自分を縛る、という不思議なことになってしまいます。FIREは幸せに生きるための一つの選択肢にすぎないので、FIREを人生の目的やゴールにするのは間違っていると思います。

FIREしたい人へアドバイス

穂高:先述のとおり、FIREすると、究極的には「自分が人生でどうありたいのか」を問われることになると思います。自問しておくのもよいと思います。もちろん、FIREした後に、新たな自分や、やりたいことを発見できる可能性もあります。

 ですから、ある程度、資産を構築できたら、あまり臆病にならず、「まずはFIREしてみる、今いる世界から一歩外に踏み出してみる」というのも一つだと思います。

おけいどん:そのとおりですね。非正規で必要なだけ働く「サイドFIRE」や、生活支出を抑えて最低限だけ働く「節約FIRE」などもFIREの一つです。そして、FIREした後、FIREをやめることも自由です。「自分にはできない」と高みに思う必要はなく、案外FIREは身近な選択肢なんじゃないかなと思います。

穂高:私はFIREとは、「働かないこと」ではなく、「経済的自由を得て、自由で主体的な人生を送ること」だと思っています。FIREして思うのは、仕事と道楽の境界線がどんどん溶けているということです。働くかどうか、仕事をするかしないかというのは、「仕事」という言葉の定義次第なので、さして重要なことではない。

 それよりも、人生を主体的に生きたいのか、社会の軸に沿って生きたいのか、の違いだと思います。そして、踏み切った後、そのままFIREしても、別の生き方を選択しても、本人が主体的に決めたのであれば他人がとやかく言うことではないでしょう。FIREの定義にしても縛られる必要もなく、自分で自由に再定義するぐらいでよいと思います。

おけいどん:何事にも縛られない自由な人生を求めてFIREしたのに、FIREの定義に縛られてしまったら本末転倒です。100人いれば100通りのFIREがある、私はそう思います。

穂高唯希さん(34歳)
14歳で金融に興味を持ち、慶應義塾大学在学中、北京大学に留学。卒業後、大手企業に就職、入社当日セミリタイアを計画。以降、給与の8割を高配当株・連続増配株に投資し、金融資産7,000万円を達成。2019年30歳でFIREを実現した。ブログ『三菱サラリーマンが株式投資でセミリタイア目指してみた』を運営。著書に『本気でFIREをめざす人のための資産形成入門』、『経済・精神の自由を手に入れる主体的思考法 #シンFIRE論』がある。 FIREムーブメントの第一人者として新聞・TVなど多数メディアで取り上げられる。会社に縛られない生き方や、社会に貢献する公益投資など、新しい人生観を提唱。
桶井道(おけいどん)さん(49歳)
大学卒業後、大手企業に就職。20代で株式投資を始め、着実に資産を増やす。40歳を目前にアーリーリタイアを計画。日米を主とした世界の高配当および増配の個別株・ETFに投資し、資産1億円を達成。2020年47歳で25年間勤務した会社を退職し、FIREを実現した。投資ブログ『おけいどんの適温生活と投資日記』を運営するほか、大手メディア2社で連載を持ち、新聞やマネー誌、TVなど各種メディアでも活躍中。著書に『今日からFIRE! おけいどん式 40代でも遅くない退職準備&資産形成術』『月20万円の不労所得を手に入れる! おけいどん式ほったらかし米国ETF入門』がある。頑張り過ぎない生き方「適温生活」を提唱。

穂高唯希さん著書

桶井道(おけいどん)さん著書

FIRE対談・前編を読む>>