経済的自由を勝ち取って、会社員を辞め、自分らしい人生を送る──。そんな生き方「FIRE(Financial Independence(経済的自立), Retire Early(早期退職)」が話題になって数年が経ちます。しかし一方で、FIRE後の新生活に馴染めず、元の暮らしに戻る人も少なくないといわれます。今後、FIREはブーム終焉を迎えるのか、それともさらに広まるのか…。FIREブームの火付け役となった先駆者・穂高唯希(ほたかゆいき)さん、ブームとなった2020年にFIREを達成した桶井道(おけいどん)さんのお二人に、FIREの現状と未来を伺いました!

穂高唯希さんが解説!FIREとは…

FIREとは、Financial Independence(経済的自立), Retire Early(早期退職)の頭文字を取って作られた造語で、経済的自立を勝ち取り、定年退職を待たずに早期退職し会社員として働かずに暮らす、というのが文字通りの定義です。生活に必要な分だけ働く「サイド型FIRE」や、節約で支出を引き締めてごく短時間で働く「節約型FIRE」など、FIREにもさまざまな形が見られます。私個人としては、働く/働かないにかかわらず、「経済的に自立し、主体的に生きる」ことがFIREであると定義できると思っています。
働く時間や労力を調整し、さまざまなスタイルのFIREがあり、自分に合うFIREを選択できる。

Q FIREする前、怖くなかったですか?

穂高さん(以下、敬称略):私は会社員になるや否や、FIREを目指して突っ走り始めたのですが(笑)、実際FIREする際は、「給与を失うのが怖い」といった感情は吹っ切れていました。

 恐怖より、自由への強烈な渇望がまさっていました。学生時代や留学期を通して自由奔放であったことも影響していると思います。1度きりの人生で若くして自由な人生を手に入れると、自分がどういう状態になって何を思い、何をしていくのか、という客観的な興味もありました。

おけいどんさん(以下、敬称略):私は、FIRE後は生き甲斐がなくなるのではないか、社会との関わりがなくなってしまうのではないかと、さまざまな不安がありましたね。そんな不安を解消しようと思って、さまざまな投資家のブログを読み漁りました。私は穂高さんのブログの熱心な読者だったんです(笑)。

穂高 FIREを目指す過程をブログで発信していたところ、読者の方々から励ましの声をたくさんいただいたことも、大きな励みになりました。FIREできたのは自分だけの力ではなく、読者や家族、周囲の人々、会社などさまざまな要素が折り重なって1つの結果が生まれたと思います。

おけいどん:私は穂高さんより1年遅くFIREしたのですが、穂高さんはブログで、FIREまでの過程だけでなく、そのとき思っていたこと、自分との向き合い方など、内面まで踏み込んだ情報を発信していたのでとても勇気づけられました。何より穂高さんはFIRE後も、その後の生活について詳細に実況されていたので、「自分だったらどうなるか」という「FIRE後の人生・自分バージョン」を鮮明にイメージすることができました。

穂高 30歳でのFIREを宣言し、その軌跡を赤裸々に逐次公開し、達成し、そしてFIREの先駆者と言われるようになり、生き方や生活自体に注目くださる方が増えました。影響力の大きさは、それだけ大きな責任が伴うと考えています。FIRE後も自分の考えや気づきなどを綴っていきたいと思っています。

Q FIREしてよかったですか?

穂高 FIREしてよかったと心から思っています。新卒入社初日に、「こうでなければいけない」といった空気や、同調圧力にとてつもない違和感を覚え、「経済的に自立し、自由に主体的に生きる」、と決意しました。たしかに減点主義の閉鎖空間では、ミスなくスマートであることは合理的な戦略だと思います。しかし1度きりの人生、そうあるために自分は今まで生きてきたんじゃない、と強く思ったんです。

おけいどん 私もFIREしてよかったと、心から思っています。もう通勤電車には乗れません。目覚まし時計に起こされるのも辛い(笑)。FIRE後に父は難病が悪化、母はがんを患いましたが、仕事や時間を気にせず、自分で介護・見守りができる点もFIREしてよかった、と心から思っています。

穂高 一刻も早く経済的な自立を手に入れようと、給与の8割を投資に回して資産構築に励み、それをブログで発信し続けてきました。結果、30歳でFIREを達成し、今は書籍の出版やSNSなどの情報発信、音声番組の出演や、国内探訪などをとおして社会と積極的に関わりつつ、自分がそのときやり込みたいと思うことに取り組める環境であることに感謝しています。

 FIREとは、「働かない」ことを直接的に意味せず、「経済的自立をしたうえで、主体的に生きる」ということだと思っています。むしろ「仕事」と「趣味」の境界線が溶けて、人生体験すべてが仕事につながっていると実感しています。

おけいどん 私は、勤務先が新たに役職定年を導入されたときに、会社員であることの意義を見失った感があります。55歳で役職定年したら、仕事内容は変わらないのに年収は20%減になってしまうという点に、矛盾を感じました。今私も書籍の執筆をメインに情報発信していますが、自分の時間を自分や周囲の人のために使えるということに満足しています。

Q FIRE後、何をして過ごしていますか?

おけいどん:しばらくはのんびりしようと思っていましたが、一カ月で飽きました(笑)。ちょうど書籍出版の話が来て、最初の本を執筆したことが楽しく、2冊目は増刷と世間様からご評価をいただけたので、今後も執筆業を続けていくと思います。そして、今は親の介護と見守りに時間を使っています。

 40歳を超えると、やっぱり親のことを考えるようになりますね。大変ですが、FIREしたおかげで、自分できちんと世話ができて、よかったと思っています。また、社会貢献したいという思いが強かったので、「子ども食堂」で、地元への恩返しを始めました。

穂高:FIRE後すぐに書籍執筆となり、しばらく会社員時代より多忙でした(笑)。ノブレス・オブリージュという言葉があります。能力、財力、地位、権力などを持つものは、それだけ大きな責任が伴います。自分さえよければいい、今がよければいい、カネさえ入ればいい――。

 そんな風潮には違和感を禁じえません。SNSのフォロワーが多かったり、書籍を出す立場にあるならば、それだけ社会的責任が大きいということです。今後もやりたいことはやりつつも、とはいえ前述のことを忘れず、書籍や音声番組、日々の気づきなどを発信しつつ、どなたかの役に立っていたら僥倖です。

おけいどん 本については、売れる、売れないというよりも、誰かのソリューションにならないと意味がないと思っているので、読んでくださった人が何らかの形で解決策を見つけられるようにと思って、それが生きがいの一つにもなりました。FIREする前はまさか自分が本を書くなんて思いもしていなかったので、会社を辞めてFIREしたら生き甲斐が見つかった…という感じですね。

Q FIRE後、資産は減っていませんか?

穂高:FIRE当時の資産は7,000万円、現在はその1.7倍に増えています。コロナ禍やインフレ、円安など投資環境も大きく変わったので、FIRE後にポートフォリオの見直しを行いました。とくに2022年からは経済情勢などを見ながら、株式の割合を減らしたり、金を購入したりなど、柔軟に臨機応変を心がけています。

おけいどん:資産1億円を達成してFIREした後も投資は計画的に続けており、私もFIREから2年半で、資産は1億4000万円近くまで増えました。60歳以降は「快適なシニアマンションで老後生活を送る」、という計画を実現するために、1年で手にする配当金は、現在230万円ですが、60歳までに300万円に増やすというマネープランを実践中です。

 具体的には、日米を主として、世界の高配当および増配の個別株やETFに投資し、配当額を順調に伸ばしているところです。2024年、*新NISA制度が施行されたら生涯投資枠も大きく増えるため、この計画を前倒しできると期待しています。

穂高 今投資している金額の一部を新NISAに切り替えることは、考えています。ただ、2024年になってから情勢を見てどうするか判断したいと思っています。新NISAは魅力的な税制ですが、投資判断はあくまで税制と関係なくおこないたいと考えています。

 資産運用の面でも、貪欲に新しい情報を自分に入れて、視野を広げていきたいですね。FIREすると、自分の行動が、財産にも、社会と関わる活動にも、ダイレクトに跳ね返ってくる。それだけの自己責任を負う立場でもあり、結果も明解であると改めて思っています。

*新NISA制度…2024年以降、NISAの抜本的拡充・恒久化が図られ、新しいNISAが導入される予定。詳しくは金融庁ホームページをご覧ください。 

>>後編へ続く