本稿は2023年の半ばに書いているが、昨年来のFRB(米国連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)などの利上げの動きもあって、海外では長期債の利回りが上昇している。わが国でも、日銀の長期金利の誘導目標レンジが拡大されて、長期金利(10年国債の流通利回り)に時に0.5%に近づく程度の上昇が起こっている。
債券投資に興味を持つ向きが増えており、個人投資家が債券投資についてどう考えるかを整理するタイミングに来ていると思われる。
本稿では、個人投資家が債券投資について考える際に留意しておきたいことをメモ風にまとめてみた。
【1】株式と債券の組み合わせに妙味はあるか?
投資家にとって最大の注目点は、主に株式でリスクを取って運用するとしても、債券を組み合わせることに意味があるかだろう。
例えば、米国の企業年金の運用では、伝統的に株式6割、債券4割の「6:4」、あるいは株式債券半々のアセットアロケーションがポピュラーだ。その意図するところは、以下のようなものだ。
例えば、景気が悪化したとすると、企業の収益予想が下方修正されがちになるので株式のリターンは不調に陥ることが予想されるが、この場合に債券利回りは低下することが予想され、債券利回りの低下は債券価格の上昇を意味するので、株式の不調を債券ポートフォリオの好調が埋め合わせするような相関関係が期待できるとするものだ。たぶん、ファイナンスの教科書に出てくる「マイナスの相関関係の資産の組み合わせで、リスクの低減が期待できるケース」がイメージされることもあって、「6:4」のようなアセットアロケーションにはそれなりに支持者がいる。
ただし、アセットクラスとしての株式と債券との間の相関関係(リターンの相関係数で計測する)はそれほど安定したものではなく、時期によっては相関係数がプラスになることもある。
個人投資家が是非真似すべきだというほどの魅力は正直なところ感じないが、さて、どうしたものか。
【2】事実上、国債以外の債券は買いにくい
国債以外の債券の取引は流動性が無く、事実上、プロ投資家と証券会社の相対取引になっている。個人投資家の立場では、手持ちの債券を売ろうとした時に幾らで売れるのかが把握しにくいし、既発の債券を売買する時には業者同士で成立する価格からいくら乖離した価格で自分が売り買いしているのかが分からない。
率直に言って、個人が安心して投資できるのは国債だけだと言っていい。
尚、個人向けに販売されている「個人向け国債変動金利型10年満期」はやや特殊な商品だ。変動金利型なので将来の金利上昇リスクに強くて、一年以上持つと元本で償還できる条件が付いているので元本割れしない。個人が「どうしても減らしたくないお金」を運用する場合に有力な手段なので覚えておきたい。
最終的には、個人が自分のポートフォリオで10年国債を持つかどうかが問題だと思われる。それ以外の債券には、以下で述べるような難点がある。
【3】個人向け社債は、市場で不人気だから個人に売られている
大きなニュースがない日の「日本経済新聞」の夕刊などで、個人向けに売られている社債が人気を博しているといった趣旨の記事が載ることがある。「低金利の昨今、社債の利回りが人気だ」とコメントが添えられることが多い。そして、実際に、専ら個人に向けて社債が販売されることはある。もちろん、同じ年限の国債よりも少し利回りは高いだろう。
では、その利回りが、十分に魅力的なほど高いのかが問題になるが、既に結論は出ている。「そんなはずはない!」
どういうことか。社債の利回りは、主に発行体のリスクとの兼ね合いで判断されるが、プロの投資家にとって十分に魅力的な条件で社債が発行されると、その債券には需要が殺到して、俗に「瞬間蒸発」と呼ばれるような状態で売り切れてしまう。
特に証券会社の立場で考えてみよう。個人向けに売る債券の1トレード当たりの金額は、大手機関投資家向けよりも遙かに小口だ。つまり、手間が掛かる。また、予定した債券を売り切るためには営業部隊にそれなりの号令をかけなければならないことがある。機関投資家が買ってくれるなら、その方がいいに決まっている。
つまり、その社債が個人向けに売られているという事実の情報上のコンテクストを読み解くと、その社債が機関投資家市場で不人気な条件であることが分かる。
格付けを見て考え込む必要などない。個人に売られている社債は、その時点で魅力的な投資対象ではない。