個人投資家がバフェットの運用で学ぶべきこと

 年次株主総会が開催された同じ日、バークシャー・ハサウェイは2023年第1四半期の決算を発表した。純利益は355億ドルと、前年同期比6.4倍に拡大した。米国会計基準では保有する上場株の評価損益を最終損益に反映する必要がある。このため、利益水準は株価変動によってぶれやすい特徴がある。

 今四半期は上場株ポートフォリオの約4割を占めるアップルの株価が3割近く上昇した影響が大きかったようだ。なお、投資評価損益を除く営業利益は前年同期比13%増の80億ドルだった。保険事業の回復が寄与した。

アップル(日足)

(マーケットナビゲーターの売買シグナル ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 期間中の株式売買は104億ドルの売り越しだった。株式取得額28億ドルに対し、132億ドルの売却を行った。3月に持ち分法適用会社のオクシデンタル・ペトロリアムの株式を追加取得した一方でいくつかの銘柄を売却したことになる。上場株式がどのように入れ替わっているかについては、今月中旬に公開されるフォーム13Fをフォローしたい。

バークシャー・ハサウェイの株式売買推移(単位:10億ドル) 2期連続売り越し

出所:ゼロヘッジ

 総会においてバフェットは「我々の事業の大部分は、今年は昨年より低い収益を報告するだろう」と語り、この半年ほど続いていた、米国経済の「信じられないような時期」が終わりつつあると述べた。

 バフェットは、バークシャーの成功は数十年にわたる米国経済の驚異的な成長のおかげであると述べているが、鉄道から電気事業、小売業まで幅広い事業を展開しているバークシャーは、米国経済の動向を示す指標の一つとも言われている。

 インフレと金利上昇が続く中、バークシャーは現金の山を築き、期末の現金残高は1,306億1,600万ドルと、昨年末(2022年第4四半期は1,280億ドル)から20億ドル増加した。FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げをしているため、結果として金利収入も増加しているだろう。

 今日、米国の投資家はゼロリスクで4%以上のリターン(金利収入)を得ることができる。過去15年間、このようなことは夢物語と呼ばれていた。それが、今では現実のものとなっている。これは、FRBが利上げを続ける中、バークシャーが現金ポジションの金利収入で大もうけすることを意味している。

バークシャー・ハサウェイのキャッシュポジションとNYダウの推移(2023年3月末時点)

出所:各種データより石原順作成

バークシャー・ハサウェイB株(日足)

(マーケットナビゲーターの売買シグナル ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 バフェットのすごいところは、保険会社で徴収したゼロコストの長期資金を投資に回す「調達コスト・ゼロ」のビジネスモデルを展開していることだ。

 保険によるゼロコストの長期資金調達というビジネスモデルのおかげで、バークシャー・ハサウェイのパフォーマンスが下がっても、バフェットは破綻することがない。バフェットは破綻した米銀やキャシーウッドと違って、「資金繰り」に困ることがないのである。

 個人投資家がバフェットの運用で学ぶべきなのは、「運用が決して破綻しないビジネスモデル」と「大暴落したときに株を買える現金の温存」である。

 今後、地政学リスクが高まり、インフレが加速した場合、エネルギー株を保有するバフェットにとっては有利であり、一方、ディスインフレになり、金利が低下した場合はハイテク株有利となる。

 アップルを持っているバフェットにとっては大きなプラスだ。要は、アップル株と石油株の両建てで、これから金利が上がろうが下がろうが、何とかなるような運用になっているのである。

 一方で、相場の大暴落が起きるようなことも想定し、それに対する備えとして1,306億1,600万ドルもの現金も抱えている。大量の現金を保有しているため、市場が総悲観になっているときに買い向かうことができる唯一の投資家がバフェットである。

 バフェットは金融危機時に金融機関に投資を行い大成功した。2008年の世界金融危機(リーマンショック)の際、ゴールドマン・サックス・グループ(GS)に50億ドルを出資した。また、バンク・オブ・アメリカ(BAC)は2011年にサブプライム住宅ローン絡みの損失での株価が急落した後、バフェットから資本注入を受けた。

 バフェットの投資の神髄がわかるのは、金利上昇期や相場が大暴落したときである。次の金融危機の局面で、またしてもバフェットは規格外の安値で金融株や優良株を手に入れることになるのだろうか? ただ、本格的な金融危機や金融システムの崩壊はまだ先である。そのトリガーは「利下げ」が引く。

S&P500とFF金利の推移

利下げは株式にとって強気ではない!? それはシステムで何かが壊れたことを意味する。
出所:Game of Trades