とうの昔から「経済安全保障」を重視してきた中国

 読売新聞は4月5日朝、「中国、EV中核部品のレアアース磁石技術を禁輸へ…脱炭素分野で覇権確立狙いか」という記事を配信しました。レアアースとは、産出量が少なく、抽出が難しいレアメタル(希少金属)の一種で、全17種。スマートフォンの製造や省エネ家電、次世代自動車など日本の産業界に欠かせない戦略的資源と見なされてきました。

 同記事は冒頭で、中国政府がEV(電気自動車)や風力発電用のモーターなどに必要な高性能レアアース(希土類)磁石の製造技術について、国家安全を理由に輸出を禁止する方向で検討していること、世界的な脱炭素化の流れで動力の電気化が進む中、中国が磁石のサプライチェーン(供給網)を押さえ、成長が見込まれる環境分野で覇権確立を目指しているとみられること、を挙げています。

 米中対立が日本を取り巻く国際環境にとっての既成事実と化し、経済安全保障を巡る法整備や議論が展開される中、米国、欧州、日本などが「中国の台頭」を念頭に輸出規制を進めています。例として、日本政府は3月31日、新たに高性能な半導体製造装置23品目を輸出管理の対象に追加しました。軍事転用の防止が目的で全地域が対象となっていますが、同盟国である米国が対中輸出規制を進めてきた中、日本に協調を求めてきたことが背景にあります。

 中国を念頭に置いた日米欧の経済安全保障政策に対して、中国はどのように認識し、対応しているのでしょうか。中国政府で通商政策に従事するある知人は、次のように語ります。

「日本で経済安全保障に関する議論が過熱しているのは知っている。率直に言って、今更何を言っているんだという印象。経済安全を保障するという考え方や政策は、我が国ではとうの昔から存在している」

 習近平(シー・ジンピン)総書記が2014年4月15日に召集した国家安全委員会第一回会議では、談話の中で初めて「総合的国家安全観」を提起し、「総合的国家安全観の内容は豊富で、開放的、包容的、不断に発展する思想体系である。その核心的内容は五つの要素と五対の関係に総括できる」と主張しました。

「五つの要素」

  1. 人民の安全を目的とする
  2. 政治の安全を根本とする
  3. 経済の安全を基礎とする
  4. 軍事、科学技術、文化、社会の安全を保障する
  5. 国際的安全の促進を依拠とする

「五対の関係」

  1. 発展の問題を重視し、安全の問題も重視する
  2. 外部の安全も重視し、内部の安全も重視する
  3. 国土の安全を重視し、国民の安全も重視する
  4. 伝統的安全を重視し、非伝統的安全も重視する
  5. 自国の安全を重視し、国際社会共通の安全も重視する

 中国が国家の安全を大局的、総合的、全体的に保障していく上で、「経済の安全を基礎」としつつ、「発展だけでなく安全」を、「外部だけでなく内部の安全」も重視すると言っています。まさに、中国が国家安全、国家戦略の観点から経済安全保障という概念を捉えてきたことが分かります。習総書記率いる中国共産党は、国家の存続、盛衰、命運という角度から経済安全保障という問題を捉え、レアアースの禁輸に踏み切っているということです。