新NISAは「金持ち優遇」?
このNISA拡充の議論には「金持ち優遇」政策だとする批判が付きまといました。富裕層ほど保有する金融資産が多く、非課税の恩恵を受けやすくなる可能性があるためです。そうした批判を避けるために新NISAを利用して生涯で投資できる額を1,800万円とする上限が設けられました。
与党税調の議員には、中間層の資産形成という趣旨からすれば、1,000万円程度にとどめるのが妥当だという慎重な意見もありました。しかし、投資促進という観点などを重視する形で、与党税調で1,500万円とすることでいったんまとまりかけ、さらに決定直前に首相官邸の意向が一段と加わり、1,800万円に拡大されました。
NISA拡充に慎重とされてきた自民党税調の宮沢洋一会長は昨年12月中旬に税制改正大綱をまとめた直後の記者会見で、「貯蓄から投資へという姿勢を圧倒的な数字でお見せしていかなければいけないということが頭にあった」と検討過程を明かしました。
また、今回の税制改正では年間所得が30億円を超えるような超富裕層への課税強化も盛り込まれました。金融所得が多い富裕層の所得税負担率が徐々に下がって逆転現象が起きる「1億円の壁」を少しでも解消することが目的です。
所得格差に配慮しながら、新NISAでの投資枠を拡充しつつ、富裕層への課税強化をセットにすることは、与党税調、金融族議員、証券業界、首相官邸、財務省といったそれぞれ立場の異なる関係者たちが半年にわたって妥協点を探る攻防の中で見つけた答えでした。
一般NISAの5割が休眠口座、新制度で投資広がるか疑問も
証券業界などでは新NISAによって投資が活性化することに期待がかかる一方、政府内には本当に投資拡大に結びつくのかどうか、懐疑的な声もあります。
そもそも生活費の工面に手いっぱいで投資に回すお金がない国民も多いのが現状です。現行NISAでは1年間で一度も金融商品の買い付けがない休眠口座が「つみたてNISA」で約3割、「一般NISA」で約5割あるというデータもあります。
また、日本では長年、現預金での貯蓄が良しとされた文化があり、投資は根付かないという指摘もあります。日本銀行が最近公表した統計によると、約2千兆円の家計金融資産のうち、現金・預金が5割を超す一方で、株式・投信は約14%にとどまっています。
岸田政権は資産所得倍増プランでは、今後5年間でNISAの投資額を56兆円に倍増、総口座数を3,400万に倍増させる目標を設けましたが、どこまで国民の間で投資が広がるかは、制度が始まってみるまで読み切れません。
お金に働いてもらうには、投資メリットとリスクの理解が大切
NISAは2014年1月にスタートした仕組みで、英国が1999年に導入したISA(個人貯蓄口座)をモデルとしています。愛称のNISAは「日本版ISA」を意味しており、公募で選ばれました。本家の英国でも制度改正が繰り返され、非課税額の引き上げや非課税期間の恒久化で利用者が増えました。
新NISAでは利用を広げるため、生涯の投資枠は投資した元本の残高(買い付け額)をベースに管理することになりました。金融商品を売れば残高が減り、売却の翌年に非課税枠が復活する仕組みです。
この点は、NISA拡充を要望してきた金融庁が今回の改正でこだわったポイントです。結婚や住宅購入、子育てなど人生の節目で大きな資金が必要になった際には金融商品を売って現金に換えられるように柔軟性を高めました。金融庁には、国民に積極的な資産形成を促したいという考えがあります。
「お金に働いてもらう」という言葉がある通り、投資には自身の資産が図らずとも膨らんでいくメリットがある一方で、資産が目減りするリスクも同時にあります。投資で家計のお金が循環すれば、経済は活性化します。これからは、資産形成の大切さや投資リスクの理解に向けた金融経済教育の重要性も高まっていくでしょう。