みなさんは株主優待のために何かの株を買おうとした時、直前で「これ本当に買って大丈夫かな…」と不安を感じた経験はありませんか? 優待目的であっても、保有している間に株価下落が続けば、結局高い買い物になってしまいますよね。

 そこで本稿では経済情勢や業績動向もふまえ、人気の3月優待の中で今後も安定した成長が見込めそうな5銘柄を紹介させていただきます!

 これらの内、現時点でオリエンタルランドを除く4銘柄は現行の一般NISA(年120万円)の枠内で購入して権利取得が可能です。(オリエンタルランドも3月末の株式分割以降は、NISA枠内で購入できるようになる見込みです。ただし100株の場合は長期保有が条件となります)

  1. ANA(9202): 燃料費不安もひとまず落ち着き、コロナの間に収益性も改善
  2. KDDI(9433): ブレの少ない業績で、携帯事業以外の多角化も進み今後に隙が無い
  3. JR東日本(9020): 人流増加やダイヤ運営の効率化などで、利益率の回復ピッチ加速へ
  4. オリエンタルランド(4661): 圧倒的な価格支配力で客単価を高め続ける見込み
  5. 味の素(2802): 値上げしても客離れを起こしづらい経営巧者で、長期的な成長維持を期待

※本稿で紹介する銘柄の株価や優待取得最低金額、配当利回りは、2023/1/11の終値を用いて筆者が試算。過去の配当は当社HP銘柄詳細の「配当・優待」の項目で確認。

私が選ぶ業績良好の優待おすすめ5銘柄

 3月優待の人気ランキングTOP50(楽天証券HPの株主優待検索より)の中から、私が選んだ5銘柄をご紹介します。判断基準は(1)増収増益か(2)株主優待が今後も続くと見込めるか(3)インフレの中でも利益率を維持できる打ち手を出せているかの3点です! 

1. ANAホールディングス(9202)─3月優待人気ランキング2位

銘柄名 ANAホールディングス コード 9202
株価(円) 2,730.5 権利発生株数 100
優待取得最低金額(円) 273,050 配当利回り 0.00%
優待内容 保有株数に応じて国内営業路線の片道割引券。100株で1枚、400株で4枚、1,000株で7枚など。その他、一律100株以上で自社グループ施設の優待券。

 全ての優待銘柄の中でもトップクラスの人気のANA。国内最大手の航空会社の割引券は旅行など使える場面が広く、何よりワクワク感を楽しみたい株主優待とはピッタリの内容です。航空株はコロナ以降、毎日のニュースに振り回されて不安定でしたが、その荒波の中でもANAは着実に経営を立て直してきています。

出所:同社決算資料より筆者作成。見込み値は2023年1月時点のIFISコンセンサス値を引用。 

 これはANAの売上高と営業利益、および当期純利益と売上高営業利益率を併記したものです。このグラフは次の4銘柄でも同じものを使うので、見方を簡単にご説明します。売上高というのはどれだけ商品が売れたかの数字、例えば100円の商品を売れば100円と、単純に積み上げられていく数字です。

 一方で営業利益とは、この売上高から仕入れ値や、人件費や光熱費など売上を上げるための費用を引いて、正味の利益に近づいた数字です。これを踏まえ売上高営業利益率というのは、売上高に占める営業利益の割合、つまり売上高から営業に係る費用を引いて、どれだけ利益として残るかの割合の目安です。

 最後に当期純利益というのが一般に「純利益」と呼ばれる数字で、営業利益からさらに営業外損益や一時的な損益である特別利益・損失や法人税などを差し引きした最終的な黒字額(これが赤字なら当期純損失と呼ぶ)のことになります。

 それでは図に戻りましょう。コロナ発生直後にANAは大きな赤字を計上し、その後も燃料費や人件費をまかなえるほどの売上には戻らず、2022年3月期までは最終赤字でした。しかし昨年から国内外での人流が大幅に回復。

 上期までのみの実績値だと、2023年3月期は前年同期比で旅客数・旅客収入ともに4倍以上にまで持ち直し、通期でも3年ぶりに黒字転換する見通しです。ウクライナ戦争が勃発して、昨年3月ごろに原油価格が奔騰した時は、燃料費が売上原価の4分の1前後を占めるANAの株価も暴落しました。ですが現在の原油価格は戦争以前の水準まで戻しており、燃料費不安もひとまず落ち着いています。

 そのほか人流が細っていた間に始めた貨物輸送事業の中で、好採算の北米路線を中心にこれからも規模拡大する方針を発表するなど、コロナをきっかけに収益性にもテコ入れが進んでおり、利益率も回復基調です。インフレが進む中でも、これから中国や欧州からの旅客が持ち直せばコロナ前以上の成長を続けていける見込みもあると考えられます。

2.KDDI(9433)─3月優待人気ランキング6位 

銘柄名 KDDI コード 9433
株価(円) 3,900 権利発生株数 100
優待取得最低金額(円) 390,000 配当利回り 3.33%
優待内容 au PAY マーケットの商品カタログギフト。100株で3,000円相当、1,000株で5,000円相当。5年以上保有ならそれぞれ5,000円相当、1万円相当。

 KDDIというと携帯事業のauのイメージが強いですが、今では金融や物販など事業を多角化していて、優待内容は「au PAY マーケット」で使えるカタログギフト。こちらのEC市場では食品や日用品、洋服やアウトドア用品まで幅広い品揃えがあるので、選ぶのが楽しい優待です。そんなKDDIは、このコロナ禍において特異な業績推移となっています。

出所:同社決算資料より筆者作成。見込み値は2023年1月時点のIFISコンセンサス値を引用。

 見て分かる通り、売上や利益にほとんどブレがありません。他の大手通信事業者も似た傾向になりやすいです。利益率はこのグラフだと変動があるように見えますが、数値としては19.5~19.7%程度の変動で、こちらもほぼ一定だと言えます。とはいえ成長が無いということではなく、事業を多角化しながら毎年コツコツ増収増益を続けているのがKDDIです。

 最近はインフレが進行している中で、それに逆行するように携帯料金の値下げ政策が否応なしに進められていたため、今後の収益性に懸念を持つ向きもあります。

 ただau PAY マーケットなどの事業から分かるように、KDDIは携帯料金のみに依存するのではなく、通信事業者の殻を脱いで顧客の総合的なライフスタイルを支えるビジネスモデルに移行してきているので、業界特性的にも、個別特性的にも、この先業績が大崩れするという可能性は低いと思われます。

 こうした事業方針であるからには、顧客との大きな接点になる株主優待が今後廃止されている可能性も低いと考えられるので、優待目的で保有していくには適した銘柄だと考えます。

3.JR東日本(9020)─3月優待人気ランキング23位

銘柄名 JR東日本 コード 9020
株価(円) 7,229 権利発生株数 100
優待取得最低金額(円) 722,900 配当利回り 1.38%
優待内容 3月のみ自社路線の40%運賃割引券。保有株数に応じて枚数変動。その他自社施設の割引券多数。9月のみ100株で抽選で株主限定イベント招待。

 東日本旅客鉄道、通称JR東日本は、日本のどこに住んでいても旅行やビジネスで頻繁にお世話になる会社です。優待内容は、目玉である自社路線の割引券に加え、自社のホテルやレストランの割引券など10種類以上の品目が盛りだくさん。

 株主優待の醍醐味(だいごみ)である「目に見えるぜいたく」を味わえます。こちらもコロナの打撃を真正面から受けた鉄道業のひとつですが、経済再開とともに着実に業績を持ち直しています。

出所:同社決算資料より筆者作成。見込み値は2023年1月時点のIFISコンセンサス値を引用。

 ANAと同じくコロナの傷跡がしばらく残りましたが、昨年は売上を建て直し、3年ぶりの黒字に復帰する見込みです。グラフからは分かりづらいのですが、コロナ第7波など外的要因の影響も重かった今期の利益率はコロナ前の半分ほどの水準の見込みで、まだ本格回復とまでは至っていません。

 ですが今後も3月末まで継続予定の国内旅行支援策や外国人観光客の受け入れ拡大で、改善余地は多くあります。それに合わせてコスト削減にも意欲的で、ワンマン運転の拡大やチケットレス化の推進のほか、通勤ラッシュの時間帯に使えない代わりに割引価格で販売する「オフピーク定期券」も、他のJR各社に先駆けて3月から導入予定です。

 ダイヤ改正と併せて運送コストを抑えることで、利益率の回復ピッチも今後速まると予測されます。

4.オリエンタルランド(4661)─3月優待人気ランキング26位

※2023年3月末に株式分割が行われるため、こちらに掲載の情報は2023年3月末権利日分までの優待内容となります。また現時点の株価水準だと、現行の一般NISA(年120万)の枠では購入できないのでご注意ください。

銘柄名 オリエンタルランド 銘柄コード 4661
株価(円) 19,085 権利発生株数 100
優待取得最低金額(円) 1,908,500 配当利回り 0.17%
優待内容 東京ディズニーランドか東京ディズニーシーで利用可能な1デーパスポート。保有株数に応じて枚数変動。100株で1枚もらえるのは3月のみ。9月は400株で1枚。

 大人気の東京ディズニーリゾート(以下TDR)を運営するオリエンタルランド(以下OLC)。私も学生時代はTDRで働いていました。1万円近くする1デーパスポートの優待は魅力的なのですが、優待取得最低金額は200万円近くと大変高額で、かつ配当利回りも0.17%と低めなため、優待目的で購入した時に株価変動で割を食わされるリスクも高い銘柄です。

 それでもOLCは利益を伸ばし続けられる事業戦略を敷いていて、短期的には災害や感染症で業績が左右されても、長期的には安定して成長し続けられる見込みが大きいため、優待目的でも十分検討の価値があると私は考えています。

出所:同社決算資料より筆者作成。見込み値は2023年1月時点のIFISコンセンサス値を引用。

 売上や利益は見ての通り、今期はコロナ前水準にまで回復する見込みです。売上増については、これまでの入園者数制限を緩和したことによる来園客数の増加が第一要因で、これは今後も少しずつ緩和していくことが期待されます。

 しかしOLCの売上を見る際に最も重要なのは来園客数ではありません。TDRの敷地に招けるゲストの数は、どんなに制限を緩和したところで物理的な限界があるからです。そのため収益力に直結するのは「客単価」となります。

 OLCはこのテコ入れに余念がなく、最近では既存のファストパス®を有料化した「ディズニー・プレミアアクセス」を導入したり、チケットを変動価格制にして効率良く高価格チケットを販売できるようにしたり、従来の来園客に対する掛け算の項をどんどん増やしています。

 それでいて独自のブランド性のために競合他社が事実上存在しないので、これからも圧倒的な価格支配力で客単価を増やしながらも大きな客離れを起こさない、そんな経営を続けられる見込みが大きいと私は考えています。

 最近は3月末に1:5の株式分割を行うことを発表するなど個人投資家のつなぎ止めにも力を入れているため、今後優待が廃止される可能性も低いでしょう。なおこれに際して、今年3月末権利日の優待を最後に、優待権利発生の最低株数が100株から500株に増加することにご注意ください。

 とはいえ100株以上を3年以上保有すれば追加で1デーパスを1枚、つまり100株でも長期保有なら優待をもらえるようになるので、資金面での敷居は低くなると言えるでしょう。(※2023年9月末の基準日以降で3年以上が条件。貸株サービスを利用すると長期保有の対象から外れる可能性があるのでご注意ください)

5.味の素(2802)─3月優待人気ランキング49位

※6カ月以上継続保有(株主名簿に連続2回以上記載)が条件です。

銘柄名 味の素 銘柄コード 2802
株価(円) 3,917 権利発生株数 100
優待取得最低金額(円) 391,700 配当利回り 1.51%
優待内容 自社グループ商品詰め合わせセット(調味料など)。100株で1,500円相当、500株で3,000円相当、1,000株で4,000円以上。6カ月以上継続保有が条件。

 日本人なら誰もが知る大手食品メーカー。6カ月以上の長期保有が条件ですが、優待内容は自社グループ商品の詰め合わせ。日常的に利用することの多い調味料などが中心で、分かりやすく家計の助けになる、株主優待の王道のような内容です。コロナ以降に株価の伸びが著しい銘柄ですが、これは確かに業績に裏付けられたブームと言えそうです。

出所:同社決算資料より筆者作成。見込み値は2023年1月時点のIFISコンセンサス値を引用。

 ここまでの4銘柄と比較して、巣ごもり需要のためにコロナの渦中でも利益率が右上がりだったという特殊な形状になっています。ただ足元では原材料高や円安一服の影響、巣ごもり需要の反動により、増収増益は維持も利益率は抑え込まれる見込みで、株価もここまで上げ過ぎていた調整が入り2022年末から下落基調です。

 しばらくは上値の重い展開が続きそうですが、優待の条件でもある長期保有を前提とするなら、安定した動きを今後も期待できると考えます。

 というのも、今期の味の素は前半の原材料高を受け止めきれずに利益率が押し戻されているのですが、昨年10月以降に複数商品を順次値上げした分が効いてくるのがこれからなので、今後のコスト高の影響は最小限に抑えられる見込みを持てるためです。

 味の素は値上げをしても長い目線では客離れを起こしづらく、2008年に「ほんだし」などを値上げして一時的に売上が落ちた時も、「鍋キューブ」シリーズなどヒット商品を生み出し続け株価を持ち直しました。こうした過去も背景に、昨年のコスト高の逆風の中でも市場の信頼を背に株価を伸ばし続けていたと考えられます。

 また2年ほど前に優待の条件を「6カ月以上の継続保有」に変更していて、今後の優待動向が懸念されるところではありますが、変更の目的が「より長く保有してほしい」というもののため、今後もお客さまとの重要な接点であり続ける優待自体は継続される可能性が高いと考えます。

直近1年で株主優待が新設された27銘柄

 最後に、新たに株主優待を始めた銘柄をご紹介します。前述の視点とは若干異なりますが、株主優待新設銘柄であれば、「優待目的で投資したのにすぐ廃止されてしまった…」という可能性はかなり低くなります。また、株主を増やしたいという企業側の意思表示ともいえるので、一考の価値はあると思われます。

 3月優待銘柄は2023年1月時点で778銘柄(楽天証券HPの株主優待検索より)あるのですが、その中で、ここ1年で3月優待に仲間入りしたのは下記の27銘柄です。数が多いので名前と銘柄コードのみの紹介にとどめますが、もし耳にしたことのある銘柄があれば、ぜひ優待内容なども調べてみてください! 

銘柄名 銘柄コード
テクノスジャパン 3666
エックスネット 4762
ヤマックス 5285
日本精鉱 5729
いよぎんホールディングス 5830
中西製作所 5941
ロブテックス 5969
エンシュウ 6218
日阪製作所 6247
鈴茂器工 6405
ジーニー 6562
ティアック 6803
一家ホールディングス 7127
おきなわフィナンシャルグループ 7350
十六フィナンシャルグループ 7380
プロクレアHD 7384
あいちフィナンシャルグループ 7389
中山福 7442
高速 7504
椿本興業 8052
七十七銀行 8341
滋賀銀行 8366
フューチャーベンチャーキャピ 8462
第一商品 8746
明和地所 8869
ASNOVA 9223
太洋物産 9941

 いかがでしたでしょうか? 楽天証券のHPでは銘柄詳細のページの「業績」ボタンから、大まかに近年の売上や利益の推移をグラフで確認できます。なお、株式投資では将来の利益見通しが最も重要なのですが、この「業績」情報では外部アナリストの予想の平均値がコンセンサスとして出ています。

 コンセンサスが会社予想の先(2024年3月期)まで出ている場合は、売上や営業/当期利益が極端に右下がりの銘柄は購入を控えるなど、買い注文を入れる前に簡単に業績予想をチェックして、株主優待銘柄選びにお役立てください。