中央政府高官の現状認識と政策目標
全人代開幕を前に、中国政府高官から早くも2023年の経済政策について方向性や具体的手段が示されています。昨年12月に開催された1年に1度の中央経済工作会議は、「今年、中国は積極的な財政政策と穏健な金融政策で内需を拡大し、安定成長を目指す」という指針が示されました。ここでは、その財政、金融政策を担うキーマンである、劉昆(リュウ・クン)・財政部長と郭樹清(グオ・シューチン)・中国人民銀行党委員会書記の最近の発言を引用しつつ解説します。
劉部長は、「財政政策の強度を適度に拡張する」という基本方針を示した上で、(1)財政支出の拡張、(2)「専項債」(収益性のあるプロジェクトなどの資金調達のために地方政府によって発行され、その収益が償還資金に充当される債券)投資の拡張、(3)財政出動の効力強化を掲げています。(1)には財政赤字が含まれますが、2023年の対GDP比で3%程度が検討されているようです(昨年は2.8%)。(2)の専項債に関しては、「有効な投資を拡大し、マクロ経済を安定させるための重要な手段」とした上で、「2018年以降、地方政府が新たに発行した専項債の累計は14.6兆元で、うち、2022年1月から11月末までで4兆元が発行され、3万件近くの重点プロジェクトの建設に資金が投入されている」と説明。2023年は、この専項債によって調達された資金を投入する分野と範囲を適度に拡大することで、投資による景気向上を推し進めると明言しています。
次に郭書記ですが、「穏健な金融政策は有効な需要の拡大と構造改革の深化に注力する」とした上で、民間企業への金融支援を強化する、エネルギー、交通、水利といった分野のインフラ投融資を支援する、近未来において対外的にさらなる金融開放を推進するといった立場を示しています。実際、2022年11月25日、中国人民銀行は、主な金融機関を対象に預金準備率を0.25%引き下げることで、これらの機関が資金繰りに苦しむ企業への貸し出しに回す余力を向上させるべく動きました。約5,000億元(約10兆円)規模の追加の金融緩和になります。
郭氏は金融政策だけでなく、中国経済や市場動向など大きなテーマについて語ることが多いですが、「IPO(新規株式公開)と起債への支援を厚くし、資金調達チャンネルを拡大する」、「大手IT(情報技術)企業14社の金融業務の是正は基本的に完了した。少数の残された問題も現在急いで解決している」などと述べています。2021年、中国の市場動向として物議を醸した規制強化を巡るその後の動向という意味でも重要な発言です。後述するアリババなどが念頭にあるのは明らかであると同時に、勢いのある優良な民間企業が、引き続き中国経済の中で重要な役割を担っていくべきという中央政府の立場を表していると言えます。
もちろん、これらの企業は、共産党指導部、中央政府が定めるルールの中でビジネスをすることが、これまで以上に求められる点も押さえておく必要があるでしょう。