「実用最小限」の株式運用ガイド

今回は、株式でお金を運用してみたいと思う方に対する、「最もコンパクトな株式運用入門」をお届けしたい。運用について語る分野はいろいろあるが、正直に言って、筆者は、株式投資が大好きだ。株式投資について語ろうとすると、どうしても力が入る。そこをぐっとおさえて、これだけで始められるという「実用最小限」の解説を目指す。

株式投資は、それだけで何冊も本が書ける世界だ。リスクを取ってより大きなリターンの獲得を目指す際の、中核的な投資対象資産でもある。

必要最小限の知識として何を伝えるべきか迷うところだが、必ずしも自分で運用しなくてもいいという人が株式に投資する場合の「簡便法」と、自分でやる株式投資の入門者に向けた株式投資の「始め方」と学習ガイドの二つが必要だろう。

成果だけ取るならインデックス・ファンド

なくなってもいい金額で楽しみのために株を買ってみる、といったケースを除くと、お金の運用手段として株式を持つ場合、分散投資を前提に考える必要がある。株式投資は、分散投資を前提に行うものだと腹に納めて欲しい。

個別の銘柄を自分で選んで投資しようというのではない個人の場合、(1)インデックス・ファンドで、(2)内外の株式を組み合わせて持つ(比率は後述)、のがいい。

国内株式については、TOPIX(東証株価指数)のインデックス・ファンドを買う。どちらもネット証券を使って、二〇万円以上位のまとまった資金で買うならETF(上場型投資信託)に投資し、毎月の積立投資ならノーロード(購入手数料ゼロ)で信託報酬が年率〇・五%以下のインデックス・ファンド(信託銀行系の運用会社が設定している)を買うといい。

筆者はTOPIXが必ずしもベストなポートフォリオだと思わないが、アクティブ・ファンドには信託報酬が十分安いものがないので、現状では、ETF(信託報酬は〇・一%程度だ)を含めてTOPIXのインデックス・ファンドが最もいい。日経平均はポートフォリオとして歪み(無用なリスク)が大きく、劣る。

将来、信託報酬率が十分安い(どんなに高くとも年率〇・五%だ)アクティブ・ファンドが出た場合には、これも選択肢に入れられる可能性がある(運用内容によるが)。

外国株も同じくネット証券で、「MSCI−KOKUSAI」という日本を除く先進国の株式で構成・計算される株価指数に連動するインデックス・ファンド及び、「MSCI−EM」(EMはエマージング・マーケット)という新興国の株式の株価指数に連動するインデックス・ファンドを購入するといい。

先進国と新興国の比率については、「新興国の比率が最大で半分まで」と申し上げておく。新興国の株価は現状では変動(即ちリスク)が大きいので、現状では、株式での運用資産の二五%くらいを上限にしておくのがいい。

インデックス・ファンドは、国内の投信会社(やはり信託銀行系)が設定した公募の投信(もちろんノーロードで、信託報酬は〇・六%程度だ)を買うか、一〇〇万円程度以上の金額なら、海外市場に上場されているETFを買う選択肢もある。

日本株と外国株の比率は、半々でいい。比率については、「日本株四割と外国株六割」から「日本株六割と外国株四割」の範囲に入っていればいいという位に考えよう。どちらに賭けるかによって結果には優劣が出るはずだが、リスクの大きさという点では似たようなものだ。

たとえば、「日本株五〇%、先進外国株二五%、新興外国株二五%」と投資する場合で、期待リターンは金利プラス五%強、リスクは二〇%くらいと考えて置くといい。金利を一%とすると、期待リターンが六%、マイナス二標準偏差の不運に見舞われたときで年間三四%の損、と思えばいい。

別法として、バンガード社の「トータル・ワールド・ストックETF」(ティッカー・コード「VT」)というニューヨーク市場に上場されているETFを五割〜七割買って、残りをTOPIX連動のETFに投資する方法がある。「VT」はFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスという、世界の広範囲な株式を対象に計算される株価指数に連動することを運用目標としていて、この中には、日本株も数%含まれる。信託報酬は年率約〇・三%だ。このETFもネット証券で買うことが出来る。

国内株と外国株のインデックス・ファンドを買う。あなたが決めるべきことは、いくらリスクを取るのが適当か、ということだけだ。

自分でやる場合の始め方

主に国内株が対象になると思うが、自分で株式投資をしてみたいと思う人は、以下のように始めて欲しい。

初心者の株式投資の始め方七箇条

  1. 東証一部の銘柄で「業種の異なる三銘柄以上」に分散投資する
  2. なるべく均等のウェイトで投資する(一銘柄の比率を極端に上げない)
  3. 追加資金は「持っていない銘柄」に投資する
  4. 銘柄は「買った理由」が消滅したときに売る
  5. 売買はネット証券を使う
  6. PER(株価収益率)を同一業種内で横比較して理由を考える
  7. 「利益予想の変化」と株価の反応を出来るだけ多く観察する

株式投資の最初から「ポートフォリオ」で投資する感覚を覚えて欲しい。業種が異なる銘柄に、一銘柄の比率が極端に上がらないようにして、ポートフォリオを作る。追加で投資する際には銘柄数を増やす。

初心者がよくやる間違いは、株価が上昇した気に入った銘柄にまた追加投資することや、逆に、株価が下がった銘柄をまた買って自分の買値の平均を下げようとすることだ。後者は、相場用語で「ナンピン買い」と呼ばれる行動だが、一銘柄へのリスクの集中を生むので好ましくない。

一般に、どんな銘柄を買ったらいいかを説く解説は多いが、株式投資を実際に始めて見て困ることが多いのは、「いつ売るか」だ。「長期投資だからいつまでも持て」というのも、「買値から、○割上がったら売る、△割下がったら損切りすると決めておけ」というのも、共に間違いであり、役に立たない。

お金が必要で換金する場合を除くと、最も一般的な原則は、「買った理由が消滅した時に売れ」だろう。たとえば、「利益に対して株価が割安」が理由で買ったなら、株価が上がるか、利益が減るかして、「割安」が消滅した時には売ると考えておけばいい。

株式投資は、魔術や修行の類ではないので、論理的に考えるべきだ。ついでに言っておくと、占いの親戚でもないので、チャート分析に凝るのは止めておこう。時間の無駄だ。

売買コストも含めて、コストはマイナスのリターンだから、手数料は節約しよう。売買にはネット証券を使うのがいいし、不要な売買をしないことも心掛けるべきだ。

個別銘柄の株価の評価尺度で最も汎用性が高いのは、PER(株価収益率)だ。株価を一株当たりの利益(原則として今期の予想利益を使う)で割った倍率である。尺度として不正確になる場合もあるが、そうした場合の理由も含めて、主に同業種の他の銘柄と較べながら、分析したい銘柄のPERが妥当かどうか、あれこれ調べてみるといい。分析の手掛かりになる。

また、株価は、将来の利益を現在価値で評価したものだと考えたらいいが、投資家が持つ「将来の利益」の予想に最も影響を与える情報は、会社ないし、証券アナリストが予想する利益(今期又は来期の利益)の変化だ。この場合、利益の実績値に対して予想利益を見るのではなく、たとえば今期決算(典型的には次の3月期)の「これまでの予想利益」と「新しく発表された予想利益」の差が、情報としてインパクトのある部分だ。この予想利益の差に対して、株価がどう反応するかを出来るだけたくさん見ておこう。

株価はあくまでも「予想」に対して形成される。過去を分析するには、実績値に置き換わった情報ではなく、「古い予想」が必要だ。「東洋経済会社四季報」や「日経会社情報」のような予想利益の数字が載っている資料は、ある程度(最低二年分は)手元に置いておく方がいい。共にCD−ROM版だと、四期分のデータが入っているので便利だ。

株式投資にあっても、具体例をたくさん見ておかなければ、物事の理解自体が進まない。手始めに、「PER」と「予想利益の変化」を手掛かりとして、自分が考えるための素材になる経験・データを増やすといい。

言っても無駄だとは思うが、やってみて儲かったからあなたが「上手い」というわけでもないし、損したから「下手だ」というわけでもない。結果について解釈する際には、それが「単なる運」によるものである可能性を常に念頭に置いて、冷静に判断材料を増やすのがいい。

後は、読者の幸運を祈る。

株式投資の世界へ、ようこそ!