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AIJ事件で個人投資家が考えるべきこと
山崎 元
ホンネの投資教室
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てく…

AIJ事件で個人投資家が考えるべきこと

2012/3/16
楽天証券経済研究所客員研究員として活躍する経済評論家・山崎元による「ホンネの投資教室」。お客様の投資のヒントにお役立てください。
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主に企業年金の資金を運用していた独立系の投資顧問会社であるAIJ投資顧問で約2千億円といわれる運用資産が消失した問題は、まだ事態の全貌が解明された訳ではないが、現段階で既に「事件」と呼んで差し支えないだろう(以下、「AIJ事件」と表記する)。

同社は、少なくとも、運用実績に関する限り虚偽の報告をしていたようであり、これはもちろん法(金融商品取引法)に抵触する。

運用実績を偽りながら顧客から資金を集めていた時期が相当の期間にわたるようであり、筆者は、詐欺に近いケースではないかという印象を持つ。この種の運用の常として、AIJ投資顧問も顧客と成功報酬型の契約を結んでおり、達成した利回りの20%を報酬として取っていた。彼らは、単に見せかけをごまかしたわけではなく、不当な報酬を巨額に受取っていた。

AIJ事件は、三つの面から注目できる。一つは運用会社の不正であり、もう一つは顧客である企業年金の問題であり、最後に、投資家にとっての教訓は何かという側面だ。

詐欺としてのAIJ事件

筆者は、AIJ事件は、AIJ投資顧問という個別の会社が起こした悪質詐欺事件であり、これが、独立系の投資顧問会社、あるいは投資顧問会社全般の問題ではないと考えている。

しかし、残念ながら、年金基金など、資金を運用会社に預ける「スポンサー」サイドの話を聞くと、事件の影響で新たな投資顧問会社を雇うことがやりにくくなった、という感想を漏らす人が少なくない。今回の事件が、投資顧問業界にとっての「逆風」になったことは否めない。

日本の運用業界は、独立系の運用会社が十分育ってこなかった点が問題だと筆者は常々思ってきた。我が国では、投資信託を中心とする会社も、投資顧問を中心とする会社も、証券会社、銀行、生命保険会社など大手金融機関を親会社とする会社が多い。これは、過去の行政が意図した結果だろうが、販売会社の運用会社に対する立場が強すぎることと、必ずしも運用に強くない人材が運用会社を経営することになりがちであること、の二つの大きな欠点を持つ。

独立系の運用会社が多数大きく育つと、少なくとも顧客の側で選択肢が増えるし、相互の競争を通じて運用業界全体がレベル・アップする効果が期待できる。

AIJ事件が、独立系の運用会社にとってマイナスに作用するなら、大変残念なことだ。

顧客の反応の他に、もう一つ気になるのが、運用会社に対する規制が強化される可能性だ。

たとえば、ファンド一本ごとに第三者の監査を義務づけたり、頻繁に検査が入ったりすることになれば、運用会社にとってコスト・アップ要因になり、特に、新規参入に対する障壁になりかねない。

特に投資顧問のビジネスにあっては、監査の必要性や、報告の頻度、内容などは、基本的には顧客側が判断すればいい問題だ。

AIJ事件の結果、ビジネスに逆風が吹き、規制が強化されてコスト・アップにつながるのでは、同業他社にとっては全く気の毒な展開というしかない。

それでは、顧客サイドで、AIJのような詐欺を見抜くにはどうすればいいのか。米国でもマドフ事件のような同様なケースが起きており、運用実績を偽り、集めたお金を配当や分配金に回しつつ、不正な利益を得る形の詐欺は、残念ながらよく起こる。個人向けでも、何らかのビジネスや資産(エビの養殖や和牛、山林などに)に投資すると称して、類似の不正が行われたことが何度もある。

一般的なチェックのポイントは、(1)資産保管の信頼性、(2)値付けの信頼性、(3)運用内容の納得性、の三点だ。

預けた資産が信頼できる保管・管理者(「カストディアン」と称する。多くの場合、信託銀行)に確かに預けられているか、個々の投資対象に対する値付けは信頼できる第三者によるものか、また、収益の上がり方や収益が上がると期待できる理由は納得的なものか、をそれぞれチェックしよう。

AIJ事件では、資産を預けた時点では資産が国内の信託銀行の管理下にあったが、この資産で購入したAIJ自身が運用する外国籍の投資信託の資産管理者が十分に信頼できる相手であったのかどうか疑問符がつく。

また、オーダーメイドの店頭デリバティブを投資対象にするような運用の場合、デリバティブの値付け(評価)をしている会社が、運用会社と同一グループの会社であったりする場合には、評価が正しいのかどうか、意図的に評価を歪めるインセンティブはないか、といったことを心配する必要が出てくる。この種のケースの全てが悪いということはないだろうが、騙されるリスクを伴う構造だといえる。

加えて、AIJのケースでは、「安定的な絶対リターン」があまりに好都合に出続けていたし、それがどのような運用によるものなのかが、いわゆる「ブラック・ボックス」の中だった。そもそも不自然なのだし、中身を確認していないのだから、これでは騙されても仕方がない。

上記の三点についてどの程度の厳密性を求めるかは顧客の側で決める問題だ。要求があれば遠慮無く要求すればいいし、心配なら運用委託を止める勇気が必要だ。

企業年金の窮状

今回、AIJに引っ掛かった顧客の多くが企業年金を運用する厚生年金基金だった。彼らが、プロとして当然の注意を怠ってAIJ投資顧問に資産を預けたことが問題なのは当然だが、それ以前に、厚生年金基金の財政状況が極めて悪いことにも注目が集まった。これは、AIJ投資顧問の不正とは直接関係のない関心の向き方だが、重要な問題であり、企業年金の問題が取り上げられたことの意義は大きい。

近年、公的年金の問題に注目が集まって、企業年金の問題が陰に隠れていた感があるが、企業年金は公的年金よりも一足先に行き詰まりつつあり、対処が急務だ。

年金は制度・数理・運用がそれぞれ複雑で一般に全貌が正しく理解されないことが多いテーマだが、企業年金(特に厚生年金基金)の問題は、大きく見て、「深刻な積み立て不足の存在」と「高すぎる予定利率」、加えて「基金のマネジメント」の3つが問題で、その結果、今回のような不適切な資産運用が行われやすい素地がある。

端的にいって、少なからぬ数の企業年金で、運用が期待通りに出来なかった結果、現在保有している積立資産の額が、本来(現時点で)持っていなければならない積立額に対して、大幅に不足している。

また、多くの年金基金で、「5.5%」といった、現在の低金利では達成が難しい運用利回りを前提に掛け金と将来の給付が設計されていて、この利回りを達成しなければ積み立て不足がますます拡大する仕組みになっている。

年金の健全性の観点からは、積み立て不足を埋め、予定利率を現実的な水準まで下げることが望ましいが、何れも加入企業の負担が増すことにつながるので、十分な対処がされてこなかったし、問題を先送りした結果、問題がますます大きくなって、解決はさらに困難になった。

加えて、資産運用に大きな期待が掛かり、現実にリスクを取った運用が行われているにもかかわらず、多くの厚生年金基金に運用のプロといえる担当者がいなかったり、運用会社や金融機関の経験者がいても運用分野にあって彼(彼女)を監督できる上司がいなかったり、といった問題がある。「プロが一人だけいる」という状況は、その人物が運用会社に取り込まれる(あるいは元々友達である)ケースがあるので、場合によっては、「素人ばかり」という状況よりも危ない場合がある。

中には、資産運用についても大いに勉強して堅実に取り組んでいる担当者もいるので、全ての企業年金がダメであるような印象を持たれては困るのだが、こと資産運用に関する限り、年金基金が適切にマネジメントされていないケースが多いのが現実だ。

企業年金をどうするかは、行政(厚労省)が至急取り組まなければならない問題だが、個人の立場ではどうすればいいか。

読者が、民間企業のサラリーマンで、勤め先が(厚生年金だけでなく)確定給付型の企業年金を持っている場合、先ずは、その企業年金がどのような状態になっているか、確認しておこう。

厚生年金基金に加入している場合なら、基金のホームページや基金のパンフレットで「積み立て不足」の額と、「予定利率」をチェックしよう。もちろん、基金に直接問い合わせてもいいだろう。過度に不安を煽りたくないし、さりとて、確認せずに安心されても困るので、どう申し上げるべきか加減が難しいが、率直にいって、かなり厳しい状況に置かれているケースが多々あるはずだ。先ずは、現実を知っておこう。対処法を考えるのは、それからだ。

投資家としての教訓

AIJ事件を、詐欺事件と見て、騙した方と騙された方の両面を考えてみたが、運用計画を立てたり、運用商品を選んだり、あるいは自分自身で運用を行ったりしている個人投資家は、この事件からどのような教訓を汲むといいだろうか。

箇条書きで5つにまとめてみた。

  1. うまい話には気をつけよう。特に、十分で安定的な「絶対リターン」を語る運用話は怪しい。それが本当に可能なら、相手は、他人のお金など運用しないはずだ。単なるハッタリか、詐欺か、そうでなければ、あなたが何か重要なポイントを見落としている可能性が大きい。
  2. 資産の保管と投資対象の評価(値付け)に注意しよう。共に、信頼できる第三者によるものであることを自分で確認するのが理想だ。運用者に直接お金を渡すような形や、相手の仲間が投資対象の評価をする形、ファンド・オブ・ファンズ等で中身がブラック・ボックスになっている形などで騙されたなら、相手も悪いが、あなたも不注意だ。
  3. 損を運用(相場)で取り返そうとするな。古今東西を問わず、大損は、損を取り返そうとして大きなリスクを取った時に起こっている。また、諺にも「貧すれば、鈍す」という。
  4. 運用計画では、リターンよりもリスクを先に考えよう。利回りが幾ら必要だから、ということを先に考えて運用計画を決めると、過大なリスクを取ることになる場合がある。しかし、一般に、リスクの大きな商品の方が手数料は厚いことが多いので、販売金融機関は(対面販売だとなおさら)過大なリスク・テイクを注意してくれないことが多い。
  5. 口コミ情報を信じるな。AIJ投資顧問は、運用資金を集めるにあたって、官庁OBの人脈や、年金基金仲間の「口コミ」を極めて有効に利用した(悪用は困るが、ビジネス的には参考になるケースだ)。人間は口コミ情報に影響されやすい生き物だ。しかし、少なくとも、口コミ情報を根拠に大切なお金の行き先を決めてはいけない。

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