先週の円高は全部、パウエル発言のせい

 先週(11月28日~12月2日)、1ドル=135円を下回った円高は、全部、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言のせいといっても過言ではありません。来週13~14日に開かれるFOMC(米連邦公開市場委員会)の議論を見通す上で参考になるため、この発言後の相場の動きを振り返ってみたいと思います。

 11月30日の講演でパウエル議長は、インフレの減速を示す明確な兆候はまだ見えず、「早すぎる利下げには歴史が警鐘を鳴らしている」と強調しました。

 マーケットの過度の期待をけん制しながらも、これまでの大幅な利上げについて「政策金利がインフレ抑制に十分なレベルに近づけば利上げペースを緩めるのは理にかなっている」と説明し、利上げ幅の縮小について「早ければ12月の(FOMC)会合で行うかもしれない」と述べました。

 タカ派的な発言の期待もあったため、このハト派的な内容にマーケットは驚き、金利は低下し、株高、ドル安となりました。30日の取引終盤にはドル/円は139円台から137円台に下落しました。12月1日にはさらに135円台まで円高が進みました。

 2日に入って、ドル売りが一層強まりました。米国で、FRB高官から利上げペース減速の発言が相次いだことに加え、日本では、日本銀行審議委員が報道機関のインタビューに対し、金融政策の枠組みや物価目標の点検・検証が適当と述べ、日銀が今後、金融緩和修正に乗り出す可能性を示唆するものと意識されました。

 米雇用統計の公表前のポジション調整もあって、あっさり133円台半ばまで下落しました。

 米国の11月の雇用統計が公表されると、非農業部門雇用者数と賃金がともに予想を上回ったことから金利が急騰し、ドル/円は136円台手前まで上昇しました。

 しかし、労働市場の強さのピークを示しているとの思惑やFRBの利上げペースの減速期待を後退させるほどの結果にはならないとの見方から金利は急低下。米10年債金利が3.5%を下抜ける中、円安が進み、ドル/円の雇用統計発表後の上昇分はほぼなくなりました。結局134円台前半で先週の取引を終えました。

 週明け5日はドル買いから入ったものの、上値が重たい状況が続きました。しかし、米国の11月のサービス業PMI(購買担当者指数)(確報値)とISM(米サプライマネジメント協会)非製造業景況指数が公表され、いずれも市場予想を上回ったことが確認されると、ドル買いが優勢になりました。FRBはタカ派になるとの見方が強まり、6日には137円台半ばまで上昇しました。

 FRBによる12月の利上げが0.50%にとどまるとはいえ、利上げ継続方針に変わらないことから、タカ派発言や予想を上回った経済指標に素直に反応。相場はこうして、先週の円高から今週は円安に戻ってしまいました。

 先週の1ドル=135円以下となった相場は期待がかなり先行し、ポジション調整も入って短期間で円高にいき過ぎたようです。FRBによる早期の利上げ停止や利下げまで当て込み過ぎたのかもしれません。

 ポジション調整が一巡して、相場は1ドル=135円を超える水準に戻ってきましたが、来週のFOMCを控え、市場はFRBのタカ派発言に反応しやすくなっているようです。

 しかし、実際のところどうなのでしょうか。来年のFRBの利上げペースの考え方や政策金利の最終到達水準(ターミナルレート)の見通しを見極めるまでは、140円を超えて円安が進むような次の展開には進まないかもしれません。

ターミナルレート5%越えはサプライズではない!

 マーケットは来年のターミナルレートから利上げペースを見極めようとしています。パウエルFRB議長は11月30日の講演でターミナルレートについても言及しています。

 FRBは9月の政策金利見通しで、2023年にターミナルレートが4.6%になるとの見通しを示しました。それに対し、パウエル氏は講演で「(4.6%より)いくらか高くする必要がある」との考えを明らかにしています。

「いくらか高くする」の「いくらか」はどの程度の水準なのでしょうか。4.6%を少し超えるだけなのか、あるいは5%を超えてどの程度の水準に達するのでしょうか。

 現在の政策金利が3.75~4.0%ですので、FRBが今年12月のFOMCで0.50%の利上げをすると、上限金利(4.0%)は2022年末で4.5%となります。したがって、2023年に入って、0.50%または0.25%の利上げを1回でもすれば、ターミナルレートは5.0%あるいは4.75%となるため、4.6%を上回ることになります。

 しかし、来年の利上げを1回とみる見方は少ないことから、利上げが2~3回あるとすると、利上げ幅を各回0.25%に縮小しても、2回で5.0%(4.5+0.25+0.25)、3回で5.25%(4.5+0.25+0.25+0.25)となります。このように考えると、5%を超えるのはサプライズではないことが分かります。

 ここで留意すべきことは、政策金利の見通しはパウエル議長一人が決めるものではないということです。FOMCの参加メンバーそれぞれが適切だと考える水準があり、それらの中央値であるということです。

 もし、その中央値が5%台半ばを超えるタカ派的な見通しであった場合、パウエル氏は景気後退の懸念や資産市場へのショックなど市場の失望を和らげるハト派的な発言をすることも予想されます。

 逆に5%以下の金利見通しだとサプライズと受け止められるため、さらにドル安が進むことが予想されます。その場合、パウエル氏はインフレ退治の足を引っ張る市場の楽観的観測を戒める発言をすることも見込まれるため、注意が必要です。

 もう一つ注目したいのは、FRB高官のタカ派発言が相次いでも、米10年債金利は3.5%まで低下してきている点です。この先インフレのピーク感がさらに確認されると、タカ派発言が出ても、市場の反応は鈍くなり、金利は上がらず、ドル高への反応も鈍くなることも予想されます。

 来年、米景気が後退し、インフレのピークアウト感が鮮明になり、利上げペースが遅くなるか、利上げ停止期間が長引くことになれば、ドル/円は130~135円のレンジに入ってくるシナリオが想定されます。

 先週末に一瞬そのレンジに入りましたが、円高への傾き過ぎから、いったん135~140円のレンジに戻っています。しかし、140円を大きく超えなければ、再び130~135円のレンジに入ることが予想されます。

 12月13日には米国の11月のCPI(消費者物価指数)が発表されます。CPIの上昇率が鈍化傾向を示せば、14日(日本時間15日未明)に明らかになるFOMCの結果がハト派的内容になる期待が高まり、ドル安の動きが大きくなるかもしれません。

 12月はクリスマス相場となって、取引が閑散となる前にドル/円はまだまだ乱高下しそうです。