12月FOMCまで金利水準めぐる波乱続く可能性

 米国の10月のCPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)がともに予想を下回ったことから、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が12月に開くFOMC(連邦公開市場委員会)では利上げペースが0.50%に鈍化するとの見方が広がりました。ドル/円は146円台から138円台、137円台に急落しました。

 その後、FRB高官からのタカ派発言によって142円台に戻りました。しかし、11月23日に公開された11月1~2日のFOMC議事録で大多数の参加者が「近いうちに利上げペースを減速することが適切になる可能性が高い」と主張していたことが明らかになると、米金利が低下し、ドル/円は再び139円台前半まで下落しました。

 その後、米国の祝日に当たる24日の感謝祭明けには139円台後半に上昇したものの、140円には届かず、上値は重い地合いのまま先週の取引を終えました。

 このように10月のCPI、PPIと、11月のFOMC議事録公開を受けて、12月のFOMCでの利上げ幅が鈍化するとの期待が一気に高まりました。一方で、FRBの高官からはタカ派的な発言も相次いでいることから、まだ0.75%の利上げ期待も残っている状況です。

 12月13~14日のFOMCまでに発表される11月の雇用統計(12月2日)やCPI(12月13日)の結果によってはまだ一波乱も二波乱もありそうです。これらの指標によって、12月の利上げペースは鈍化するのか、あるいは2023年の金利水準がどの程度高くなるのかという期待と思惑が市場を駆け巡りそうです。

市場の楽観論 vs FRBのタカ派姿勢

 市場は利上げペース鈍化期待だけでなく、来年の早い時期に利上げ停止、その先には利下げを期待し始めています。しかし、現時点ではFRBは利上げ継続方針を変えておらず、インフレへの警戒は解いていない状況だということを留意しておく必要があります。

 このような市場の楽観的見方を打ち消すかのように、11月28日、セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁はFRBがインフレ抑制のために、より積極的に利上げを行うリスクを金融市場が過小評価していると指摘しました。

 また、ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁はFRBにはインフレに対してさらにすることがあるとして、利上げ継続を示唆しました。そのほか、クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁もFT(英紙フィナンシャル・タイムズ)のインタビューで、引き締めの一時停止が近いとは思わないと市場のハト派的な織り込みに対してけん制発言をしました。 

 このように市場が楽観的になり過ぎると、FRBからの発言もタカ派色が強まることも予想されるため注意が必要です。

 一方で、11月のFOMC声明文で追加(*)されたように、FRBは利上げによる景気への悪影響も考慮しないといけない状況になってきていることを認識しています。そのため今後は強弱交えた発言が予想されます。

 そして、これらの発言によってマーケットが先取りし過ぎるとタカ派から冷や水を浴びせる発言が相次ぐという場面が今後繰り返されそうです。そのたびにマーケットは揺さぶりを受けることが予想されるため注意する必要があります。

*「今後の利上げペースの決定を巡り、金融政策の累積的な引き締めや、金融政策が経済活動やインフレに与える影響のタイムラグも考慮する」

 今週はこのほかにもFRB要人の講演も多数予定されています。30日(日本時間12月1日未明)にはパウエルFRB議長の講演が予定されています。パウエル氏からは現在の市場の楽観的な見方を戒めるような発言が予想されますが、インフレ抑制と景気への副作用についてどのようにバランスを取っていくのか今後の方針についての説明は避けられないと思われます。

 タカ派的な内容とハト派的な内容が両方出てくることが予想されるため、思い込みを捨て、半身の構えで臨んだ方がよいかもしれません。

 そして1日にはダラス連邦準備銀行のローガン総裁、2日にシカゴ連邦準備銀行のエバンス総裁の講演が予定されています。両氏ともに2023年にFOMCの投票メンバーとなるため、発言に注目する必要があります。

 直近のドル/円は140円以下で推移しています。まだ円安トレンドが転換したわけではないですが、少なくとも上値は切り下がってきていることから、今週の重要指標や発言によって12月のFOMC前にどの程度の水準にとどまっているのか注目したいと思います。

中国のゼロコロナ抗議行動にも注目を

 140円台への上値が重たい背景には中国の抗議行動が拡散していることもあるようです。新疆ウイグル自治区ウルムチ市の高層住宅火災事件を発端に、新型コロナウイルス感染拡大の封じ込めを図る中国政府の「ゼロコロナ政策」に対する不満デモがiPhone製造工場など各地で相次いでおり、週明けのアジア市場を直撃しました。

 ドル/円は株安や中国経済のさらなる減速懸念、中国景気悪化による世界経済への影響懸念から急速に売りが膨らみ138円台半ばに再び下落しています。中国景気悪化はFRBの利上げペースにも影響する可能性がありますが、抗議行動によってゼロコロナ政策が緩和され、景気にプラスとなるとの見方もあるため、短期間で終わるのかどうか今後の動向に注目です。

 もし、香港の民主化を求めた反政府デモのように混乱が長引けば、強い米経済指標の発表やFRB高官のタカ派発言が相次いでも、12月13~14日のFOMCまで買い手が控えることも予想されます。140円の重たさを払拭(ふっしょく)できないかもしれません。