ドル/円の上値は限定的か、FRB利上げ鈍化観測や介入警戒

 10月のドル/円相場を振り返ってみますと、9月の高値の1ドル=145.90円をあっさり超え、151.94円近辺まで円安ドル高が進みました。6円超も円安水準を更新したことになります。

 この円安更新の背景には、米国の金融政策を決める11月1日~2日のFOMC(連邦公開市場委員会)で0.75%の利上げが決定されるとの見方が強まり、米国と日本の金利差が拡大するとの観測が広がったことがあります。

 10月に発表された米国の経済指標では、9月のCPI(消費者物価指数)で前年同月と比べた伸び率が前月より低下したものの依然として高い水準で、物価が高止まりしていることを示しました。変動が激しいエネルギーと食品を除いたCPIコア指数も大幅に上昇しました。雇用統計も失業率の改善などで堅調でした。

 こうした経済指標を受けて、FRB(連邦準備制度理事会)が11月のFOMCで大幅利上げを続けるとの予測が広がり、円安ドル高を招きました。

 10月の為替相場のように、11月も円安が大幅に更新されるのでしょうか。私は、10月後半から少し環境が変わってきたのではないかと考えています。11月のドル/円は高値圏で推移しても、円安が10月のように一段と進む可能性は低いのではないかと思われます。その理由は、

(1)10月後半、米紙ウォールストリート・ジャーナルの著名なフェドウオッチャーによる「11月FOMCで利上げペースが議論される可能性」との観測記事や、FRB理事から先行きの利上げペースダウンを示唆する発言が相次いだことから、いよいよFOMCで急速な利上げによる副作用(景気後退やドル高)が議論される可能性が高まってきたこと。

 こうした材料が頻繁に取り上げられることが予想され、米金利高やドルが上値を追うことに対して慎重になるのではないかと予想されるからです。

 米国のCPI上昇をけん引してきたエネルギーや住宅の価格高騰のピークアウト感に加え、遅行指標である家賃も年末前後にピークアウトするとの見方があります。CPIの伸び鈍化と景気後退の動きが鮮明になってくるにつれて、インフレ対策を最優先してきたこれまでのFRBに、金利高やドル高による景気後退も考慮する姿勢が加わるかどうかが注目されます。

(2)日本政府・日本銀行による円買いの為替介入が大規模、連続、覆面で行われることによって、11月以降も介入警戒感が強まることによって、円売り投機への妙味が後退してくることが予想されること。

 通貨当局の財務省が10月31日に発表した9月29日~10月27日までの介入金額は6兆3,499億円と月次ベースで過去最大の介入金額となりました。これまで最大だった9月の2兆8,382億円(8月30日~9月28日)を上回りました。財務省は「投機筋には厳しく対峙(たいじ)する」と強調し、介入原資は「無限にある」と介入継続への強い姿勢を示しています。

 以上より、ドル/円の上値追いがしづらい環境になってくることが予想されます。そして実際にFRBによる利上げが先行きペースダウンとなれば、ドル安の可能性が高まることが予想されます。ただ、11月1~2日のFOMCでは10月の経済環境を引き継いでいるため、FRBはインフレ対策を優先する従来の姿勢を貫く可能性があり、注意が必要です。

 直近のドル/円は、大規模介入によって上値を抑えられ、また11月のFOMCが控えていることから146~148円台での様子見相場となっています。11月のFOMCでは0.75%の利上げがほぼ織り込まれています。従って、今月のFOMCで先行きの利上げペースダウンの議論がなかったとしても、0.75%などの大幅利上げが12月にあると示唆されない限り、ドル/円の上値は限定的になりそうです。

 そして12月13~14日のFOMCまでに、米CPIの伸び鈍化や景気後退がより鮮明になってくれば、12月のFOMCでは今後の利上げペースが議論される可能性が高まってくるかもしれません。11月のFOMCで利上げペースダウンの議論がなくても、この材料は消えることなく、12月のFOMCを見極めるまでは上値追いについて慎重になることが予想されます。

 11月のFOMC終了から12月のFOMCまでに、インフレ指標として重要な米経済指標は、雇用統計(11月4日、12月2日)と、CPI(11月10日、12月13日)がそれぞれ2回発表されます。これらの指標に特に注目する必要があります。

米中間選挙後、ドル高からドル安に動く?!

 いよいよ11月8日に米国の中間選挙が行われます。終盤戦になって物価高への関心が一段と高まり、バイデン政権と与党・民主党が苦戦を強いられているようです。バイデン大統領の支持率は40%台前半と低迷しており、民主党の苦戦はバイデン大統領の不人気が反映されている形となっています。

 下院(定数435)は全議席が一斉に改選されるため、政権の支持率が議席数に結びつきやすいことから、下院での共和党の過半数獲得はほぼ確実な情勢となっています。上院(定数100)は約3分の1の35議席が改選され、拮抗(きっこう)していましたが、ここへきて共和党有利に傾きつつあるようです。

 もし、上院でも民主党が負けた場合、バイデン政権はレームダック※となり、政権運営がかなり困難になることが予想されます。ウクライナに対する軍事支援よりも国内の経済対策優先を求める声が高まれば、バイデン政権はウクライナ支援に十分な対応ができなくなる可能性もあり、ウクライナ情勢に影響を与えるかもしれません。

※lame duck(レームダック)…「足の不自由なアヒル」の意。任期が残っているにもかかわらず政治的影響力を失った政治家を指す用語。

 また、年末に向けて物価上昇が一服して景気後退がより鮮明になってくると、ドル高容認のバイデン大統領も景気回復のためにドル安を志向する可能性もシナリオとして想定されます。バイデン大統領は2年後の大統領選挙への出馬に意欲を示しています。

 大統領選の前哨戦といわれる今回の中間選挙で敗北した場合、起死回生・景気回復のためにあらゆる策を講じてくることが予想されます。

 そして中間選挙後、米国が内向きになり、国際社会での地位が低下するシナリオも想定されま
す。その隙を狙ったロシアや中国の動きにも注視する必要がありそうです。米国を取り巻く内外の環境が中間選挙後に変わるのかどうかも注目です。