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資産活用におけるミクロとマクロのちがい
山崎 元
ホンネの投資教室
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てく…

資産活用におけるミクロとマクロのちがい

2010/3/5
楽天証券経済研究所客員研究員として活躍する経済評論家・山崎元による「ホンネの投資教室」。お客様の投資のヒントにお役立てください。
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「資産を活用すれば…」への違和感

以下の問題は、あるテレビ番組の出演中に考えた。

出演者のお一人である、さる大学の先生が、日本経済の成長戦略として、資産活用の利を説いていたのだが、どこかに違和感があった。

先般、菅直人財務大臣は「名目で3%の成長を目指す」と言った。これは金額にして約14兆円だ。件の先生の論旨は、この成長は、国民の資産2000兆円余り(金融資産は1400兆円だが、この他に土地や建物など実物資産がある)を有効活用してたった1%利回りを上げるだけで十分達成できるというものだった。

テレビのことでもあり、時間がなかったので資産活用の具体的な内容をお聞きすることができなかった。ここから先は、筆者の推測が混じるが、資産の内訳として、現預金や年金積立金といった項目が並んでいたので、これらをもっと有効に投資すれば、資産の利回りが上がるということを訴えたいのではないかと想像された。

なお、この種の話は以前からもあり、小泉政権の時代にも「個人金融資産の1500兆円がもっと効率よく運用されて、1%利回りをあげることができれば、毎年GDPの3%になります」というようなことを言っていた大臣がいた。

個人の運用の場合

個人の運用を考える場合、例えば、現預金9割、株式1割といった配分で資産を保有している状態を、現預金6割、株式4割に変えると、もちろんリスクは大きくなるが、期待リターンが上昇するだろう。仮に、現預金の期待リターンが1%、株式の期待リターンが5%とすると、前者の組み合わせ(9:1)の期待リターンは1.4%、後者の組み合わせ(6:4)の期待リターンは2.6%となる。

ただし、リスクの問題はある。株式のリスクを20%(リターンの標準偏差、年率%)とすると、-2標準偏差のケース(大雑把には20年に一度くらいの不運)で、運用資産全体に対して、前者では-2.6%、後者では-13.4%となる。

もちろん、リスクの問題があるので、それは最終的に資産の保有者の価値判断に委ねられるべきだが、個人の場合は、資産を活用して期待利回りを、つまりは期待する稼ぎを増やすことができるように見える。

全体の場合

それでは、例えば、上記のような資産活用(要は資産配分の変更)を国民全体が行った場合にはどうなるだろうか。

現預金と株式の期待リターンに変化がなければ、期待リターンは先ほどの計算のように増えるだろうが、果たして、上手く行くのだろうか。

話を簡単にするために投資を国内だけで考えるが、結論からいうと、そんなに上手く行かない。

株式で稼ぐリターンが株式投資の増額分に比例して増えなければならないが、その分、企業の純利益が増えなければならないが、その利益は国内の付加価値から生み出すしかない。仮に1500兆円の1%である15兆円分を株式のリターンとして稼ぐためには、およそ15兆円分の純利益(!)が必要だ。GDPの付加価値は、企業の会計でいうと粗利益に過ぎないので、15兆円の純利益が生まれるためには、この2倍以上の追加のGDPが必要だ。

資産のリターンを増やすことでGDPの成長を得るというのは本末転倒であり、GDPにカウントされるような付加価値が増えて、企業の利益が追加されるから資産のリターンを上げることが可能になるのだ、というのが主な因果関係の方向だ。

少なくとも、資産配分を変えるという程度の「資産活用」が成長戦略の代わりになることはない。

成長自体が期待できるわけでないのに、「株式投資を増やしましょう」とか「もっとリスクを取りましょう」というような話に引っかかって投資をしても、急には成長しない利益を投資家同士が取り合うだけのことで、時価総額が一時的に増えることがあっても、利益の実態が見えてきたときに割高な株価が修正されて損をする公算が大きい。

はっきり言えば「貯蓄から、投資へ」というキャッチフレーズに踊らされてリスク資産への配分を増やした素直な投資家が、過去に損を重ねてきた背景にはこうした仕組みがあったと言うべきだろう。

補足1、資金供給は成長を加速しないか?

大まかには、上記のように考えればよいので、個人も法人も、投資自体が経済成長をもたらすのではなく、まず経済の成長があることの方が先決だと考えて、国家の経済のためではなく、自分の利益のために投資の判断を行うべきだ。

ただし、いくつか考えて補足しておきたい問題はある。

一つめは、成長資金のファイナンスが行われること自体が、経済成長を促進するのではないかという論点だ。

確かに、そうした側面はあり、それは株式市場を整備する意議でもある。ただし、現在の日本の場合は、資金が成長のボトルネックになっているようには見えない。

たとえば、日本には、官・民いろいろなタイプのベンチャー・キャピタルがあるが、多くのベンチャー・キャピタルは有望な投資先が足りなくて困っているのが現状だ。

もちろん、有望な技術やアイデア、人材などを持ちながら資金に恵まれずに成長できない会社は存在するだろうが、これは、十分な目利きができる人が投資する案件であって、国単位でお金を流し込むような対象ではない。

現在の日本に足りないのは、リスクマネーの供給よりも、ビジネスのアイデアであり、ひいてはケインズの言う「アニマル・スピリット」だろう。

補足2、外国に投資するとどうか?

先ほどのリターンの皮算用は、付加価値源泉を日本国内に限ったことで、行き詰まってしまったようにも見える。海外に投資したらどうなのだろうか。

海外への投資は、付加価値拡大の可能性を追求する上でも、分散投資でリスクを低減する上でも、有効な選択肢だ。

可能性としては海外投資でリターンを稼ぐ事があり得るが、日本のGDPの3%分もの付加価値を海外の経済成長から獲得してくる(もちろん課税後に!)というのは、衰えたりとはいえ日本が世界2、3位の経済規模を持っている以上大変なことだ。

外国為替特別会計にある外貨準備はざっと100兆円だが、1500兆円の30%は450兆円にもなる。現実的なポートフォリオ変更ではない。

補足3、株式が不人気の場合はどうなのか?

急には大きく変化できない将来利益を投資家が取り合うというイメージを、先ほど考えた。たとえば、この際に、企業の利益を取り合う投資資金が少ない場合にはどうなるだろうか(実際には時価総額が小さい、つまり株価が低い状態でそうなる)。

この場合には、当然のことながら、リスクを取って株式に投資するのが有利だ。

金融と政治・利権の関係に注目しておこう

昨年、政権交代が行われたことで、今後の、政治と金融市場の関わりにも変化が生じてもおかしくない。自民党政権時代にも、金融版の公共事業利権の構築とも言える「日本版国家ファンド」の浮上や、「貯蓄から、投資へ」キャンペーンなどがあった。

新しい政権構造の下で、たとえば年金の積立金や郵貯・簡保などの資金のような大きな資金に対する運用ビジネスと政治の関わり(多くは政治家・官僚に「利権」を伴う)が発生する可能性があるし、金融市場に対するアプローチの仕方に変化が出る可能性がある(変化なしの可能性もある)。

ことの良し悪しや賛否を考えることももちろん重要だが、世の中の動きがどうなっていくのかよく見ておきたい。もちろん、「国民がもっとリスクを取って投資をしたら、日本経済が成長する」というような幼稚な意見には騙されないようにしたいものだ。

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