ハッサクのFOMC後、基本シナリオはこちら

 今週20~21日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では0.75%の利上げの見方が大勢となっていますが、1%利上げの見方もくすぶっています。0.75%だと安心感から金利は低下し、株は上昇、ドル/円も多少下がるかもしれません。1%の利上げだと、サプライズの動きとなり、金利上昇、株安、ドル高となりそうです。

 ドル/円も1998年の147円台後半を目指して上昇する可能性がありますが、同時に発表される金利見通しによっては上昇の伸びは鈍るかもしれません。つまり、年内の金利見通しが前回(3.375%)ほど上方修正となっていない場合は、大幅利上げあるいは利上げ加速は続かないと市場が捉え、先行きの利上げペースは鈍化する可能性もあるとの見方が浮上してくるからです。

 逆に、金利見通しが予想以上に上方修正となれば、円安が続くことが予想されます。このように今週のFOMCでは利上げ幅も注目ですが、先行きの金利見通しにも注目です。そしてFOMC後の記者会見でジェローム・パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長がタカ派姿勢を堅持する発言をするのかどうかにも注目は集まります。

 9月のFOMC後の為替シナリオは、FRBの利上げ継続によって150円突破との見方と、物価のピークアウトから利上げペースは鈍化し、ドル/円は145~150円で頭打ちとの見方がありますが、ハッサクの基本シナリオは後者のシナリオを考えています。

 すなわち、『10月以降、物価はピークアウトし、徐々に下落。FRBは利上げペースを緩めるが、来年前半まではインフレ抑制の姿勢を堅持。しかし、マーケットは利上げペース鈍化、利上げ停止を先取りし、欧州や中国の景気悪化と米国の景気後退と相まって米長期金利が低下し、ドル/円は年内頭打ちを予想。9月のFOMC後のドル/円は、1998年の147円台後半は届いても150円は難しく、徐々に頭を切り下げ年内は135~140円レンジへの低下を予想。原油はウクライナ侵攻前の水準まで下落しており、他の資源価格も下落していることから、日本の貿易赤字の改善傾向が見られれば、もう一段のレンジ低下を予想』

 この基本シナリオは、世界的な景気後退懸念から原油や資源が低下している中、マーケットの期待インフレ率が低下しているにもかかわらず、FRBの姿勢がややタカ派に寄り過ぎているのではないかとの見方を前提としています。今後は米国の物価動向と米欧中の景気動向が材料となりますが、このシナリオ通りに進むかどうかはわかりません。

 しかし、基本シナリオを想定しておくと、シナリオがずれたときにどの点がずれたかをチェックすることができ、そのチェックによってシナリオをすぐに修正していくことができます。この基本シナリオは1つの見方ですが、10月以降の基本シナリオとして相場に臨みたいと考えています。

日本の10月CPIで景色は変わるか

 今年の円安加速は日米金融政策の方向の違いが背景となっていますが、米国の利上げペースが鈍化や停止となれば、この円安が止まる、あるいは反転することが予想されます。あるいは、日本の金融緩和政策が引き締めに変更となれば円高が予想されますが、その日本の金融政策変更に影響を与える日本の物価への注目度が高まっています。

 20日に発表された日本の8月CPI(消費者物価指数)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年比+2.8%と前月(2.4%)も予想(2.7%)も上回りました。消費税の影響を除けば30年11カ月ぶりの上昇率となります。

 このCPIを受けて、FOMC後に開催される21~22日の日本銀行金融政策決定会合では、YCC(イールドカーブコントロール)の「年限の短期化」や上下0.25%としている長期金利の「許容変動幅の拡大」への議論に期待が高まることが予想されますが、今回も黒田東彦日銀総裁は動かないかもしれません。

 しかし、物価目標とする2%を5カ月連続で超えても動かない日銀も、CPIが3%台に乗せてくると、日銀の見方が変わってくる可能性があります。総合CPIでは8月に3%となりましたが、生鮮食品を除いたCPIでも3%に乗せてくるとがらっと景色が変わるかもしれません。

 今年のCPIの上昇はエネルギー価格の上昇が主因ですが、携帯電話通信料の値下げの影響が剥げ落ちてきたことも大きな要因となっています。携帯電話通信料は2021年4月、8月、10月に断続的に値下げが実施されており、この値下げによって日本の物価は下押しされていました。

 しかし、今年は前年比でみるとこの値下げの影響が剥げ落ちてきます。値下げの影響が剥げ落ちた4月CPIは前年比+2.0%台乗せとなり、8月は前年比+2.0%台後半となりました。そして値下げの影響が完全になくなる10月以降は+3%台に乗せることが予想されています。

 今月の日銀の決定会合では政策変更は期待できませんが、CPIが3%台乗せとなった時に日銀が見る景色が変わってくるのではないかとの期待は高まります。

 3%台が予想される10月分CPIは11月18日公表予定です。日銀金融政策決定会合は11月開催がないため、10月分CPIを受けた会合は12月19~20日の決定会合となります。しかし、10月21日公表予定の9月分CPIが8月分よりも加速していれば、10月27~28日の決定会合で金融正常化に向けて何らかのメッセージが発信されるのではないかとの見方が浮上してくるかもしれません。

 そして11月18日の10月分CPIの3%台乗せを受けて、12月の決定会合では政策変更への期待が高まる可能性があります。それぞれが円高要因となり得ますので、10月以降は、CPI発表日の前後や決定会合の前後は思惑が働きやすくなることが予想されるため注意が必要となりそうです。年末に向けて、日本の物価や金融政策への注目度がますます高まってきそうな気配です。

  • 9月20日 日本8月分CPI(+2.8%)
  • 9月21~22日 日銀金融政策決定会合
  • 10月21日 日本9月分CPI
  • 10月27~28日 日銀金融政策決定会合
  • 11月18日 日本10月分CPI
  • 12月19~20日 日銀金融政策決定会合