為替DI:9月のドル/円、個人投資家の予想は?
楽天証券FXディーリング部 荒地 潤
楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。
DIは「強さ」ではなく「多さ」を測ります。DIは円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありません。しかし、アンケートに個人投資家の相場観が正確に反映されているならば、DIの「多さ」は「強さ」に関係することになります。
「ドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」
楽天証券が8月末に実施した相場アンケート調査によると、9月のドル/円は「ドル高/円安」に動くとの回答が、全体の56%を占めました。円安見通しは、先月に比べて9ポイント増となっています。
「ドル安/円高」の見通しを持つ個人投資家は全体の13%で、先月に比べて9ポイント減りました。31%は、「変わらず」との回答でした。
米国で新型コロナウイルスワクチンの接種がまだ本格化する前、経済再開の見通しがまったく不透明な時期に、FOMCは、政策のフォワードガイダンスに関して重要な変更を行いました。2020年12月のことです。
FOMCは、金融政策の指針について、従来の「今後数カ月」といったような、期間を定めた定量的な指針から、「一段の著しい進展があるまで」という、数字では表わせない定性的な指針へと修正したのです。
そして2022年6月のFOMCでは、フォワードガイダンスそのものを実質的に放棄しました。この時を境にFRBの金融政策は、将来の経済動向を予測した「先出しスタイル」から、経済データの結果を見て判断する「後出しスタイル」へと変更になったのです。
新型コロナのために2020年3月から4月のたった2カ月間で失われた2,156万人の職を、米雇用市場は今年の7月まで2年3カ月の月日をかけて2,163万人に戻し、ついに新型コロナの影響を完全に排除することに成功したのです。
失業率は、新型コロナの感染が拡大した2020年4月には14.7%まで悪化しましたが、今は2019年9月に記録した過去最低水準まで低下しています。米雇用市場に関していえば、新型コロナの影響は完全に消えました。
米雇用市場が完全雇用状態まで復活したのだから、FRBだけが対コロナ「戦時モード」超低金利政策を継続する理由はなくなりました。FRBは今年3月から7月までの利上げによって政策金利であるFF金利を0.00~0.25%から2.25~2.50%まで引き上げましたが、パウエルFRB議長が言うように、水準としてはまだ「中立ゾーン」に戻っただけです。
FRBの法的使命(マンデート)には、「雇用安定」と共に「物価安定」があります。雇用市場が好調なうちに、FRBは大幅な利上げによって一気にインフレを退治して物価安定の目標を達成しようと考えています。
企業向け給与計算サービス会社のADPは、8月31日に8月の雇用データを発表しました。いわゆる「民間」雇用統計なのですが、FRBもチェックしていることやBLS(米労働省労働統計局)の「官製」雇用統計に先行して発表されることもあって注目されています。
ADPは、BLS雇用統計との数値の乖離(かいり)が大きくなったことを理由に、統計方法を修正しましたが、その新方式によると、8月は、市場予想の30.0万人増に対して13.2万人増と大きく下回る結果となりました。ADPの分析では、米企業の採用は、これまでの「超アグレッシブ」モードから「通常」モードへ転換しつつあるといいます。
9月2日は、BLSが8月の雇用統計を発表しました。結果はまちまちで、NFP(非農業部門雇用者数)はほぼ事前予想通りの増加数でしたが、失業率は上昇。一方で労働参加率は上昇しました。全体としては、マーケットを動かす決定打にはなりませんでした。
しかし、雇用市場の強弱の判断基準はどこにあるのでしょうか。フォワードガイダンスが廃止された今、マーケットは手探り状態になっています。
楽天証券の相場アンケート調査によると、9月のユーロ/円は、個人投資家の38%が「ユーロ高/円安」になると予想しています。
ユーロ高予想は、先月から1ポイント増加。
一方「ユーロ安/円高」見通しは15%で、先月から4ポイント減少。
47%は「変わらず」との回答でした。
楽天証券の相場アンケート調査によると、9月の豪ドル/円は、個人投資家の37%が、「豪ドル高/円安」に進むと予想しています。
豪ドル高予想は、先月から2ポイント増加。
一方「豪ドル安/円高」見通しは11%で、先月から4ポイント減少。
全体の52%は「変わらず」との回答でした。
今後、投資してみたい金融商品・国(地域)
楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲
今回は、毎月実施している質問「今後投資してみたい金融商品」で「国内株式」「外国株式」「投資信託」を、質問「今後投資してみたい国(地域)」で「アメリカ」を選択した人の割合に注目します。各質問の選択肢は、ページ下部の表のとおり、それぞれ13個です。(複数選択可)
図:「国内株式」「外国株式」「投資信託」および「アメリカ」を選択した人の割合
2022年8月の調査では、「国内株式」を選択した人の割合は58.13%、「外国株式」は43.21%、「投資信託」は34.55%でした。また、「アメリカ」は63.69%でした。
金融商品である「国内株式」「外国株式」「投資信託」の三つの動きに注目します。これらは、2021年12月を境に、それまでと異なる傾向を示しはじめました。「国内株式」が反発色を強め、「外国株式」と「投資信託」が反落に転じたのです。(グラフ内の赤矢印)
2022年8月は2021年12月に比べて、「国内株式」がプラス10.01%(48.12%→58.13%)と大きく反発。逆に「外国株式」はマイナス9.18%(52.39%→43.21%)、「投資信託」はマイナス11.17%(45.72%→34.55%)と、大きく反落しました。
「外国株式」と「投資信託」の連動性が高いのは、人気がある「投資信託」の多くが、「外国株式」の代表的な株価指数に連動する設計であるためです。
「国内株式」大幅反発、「外国株式」「投資信託」大幅反落。明暗をわけた背景に、何があるのでしょうか。それは「アメリカ」の動向だと、筆者はみています。「アメリカ」の2022年8月は2021年12月に比べてマイナス13.36%(77.05%→63.69%)と、「外国株式」「投資信託」を超える反落となりました。
「アメリカ」を今後投資してみたい国(地域)だと感じる人の割合が反落し、それに伴い、具体的な金融商品であり、アメリカの情勢と関わりが深い「外国株式」、そしてそれと連動する設計である「投資信託」の割合がつられて反落したと、考えられます。
なぜ、昨年末から足元にかけて、「アメリカ」を今後投資してみたい国だと感じる人の割合が反落したのでしょうか。インフレが加速したこと、それに伴い大幅な利上げが行われ、株価が下落に転じ、不安が拡大したこと、それらにより経済情勢の悪化が印象付けられたことなどが挙げられます。
加えて、11月の米中間選挙(4年ごとの米大統領選挙の間の年に行われる、上院の3分の1、下院の全議席を改選する。同時に複数の州知事選挙も行われる。)にむけ、なりふり構わぬ策を繰り出す米国政府への不安が生じ、投資してみたい国だと感じる人の割合が反落した可能性もあります。(米下院議長の無理な台湾訪問や、インフレ対策と称したバラマキなど。)
さまざまな「アメリカ」への不安が、「外国株式」「投資信託」を投資してみたいと感じる人の割合を低下させたといえるでしょう。こうした動きを受け、消去法的に、伝統的な投資手法への回帰というムードを醸成しつつ、浮上したのが「国内株式」だったといえるでしょう。
足元、「アメリカ」の政治・経済の状態が良好かそうでないかが、投資指向が「国内株式」に向くのか「外国株式」や「投資信託」に向くのかを占う指標になっているといえるでしょう。