はじめに

 今回のアンケート調査は2022年8月29日(月)~8月31日(水)の期間で行われました。

 8月末の日経平均株価は2万8,091円で取引を終えました。月足ベースでは2カ月連続の上昇となり、上昇幅は前月末終値(2万7,801円)比で290円高と小幅でしたが、月間の値動きは大きく動く展開でした。

 あらためて8月の値動きを振り返ると、米国のインフレピークアウト感や金融政策の緩和期待を背景に、前月からの流れを引き継いで上値を追う展開が目立ちました。月初は節目の2万8,000円台の攻防でもたついたものの、次第に上昇に勢いがつき、中旬には1月以来となる2万9,000円台に乗せるなど、1,000円近く値を伸ばす場面も見られました。

 ただし、その後は利益確定売りに押されはじめ、月末にかけては、ジェローム・パウエル米FRB(連邦準備制度理事会)議長の講演を受けて下落基調を強め、結果的に8月相場は「大きく上げて、大きく下げる」格好となっています。

 このような中で行われた今回のアンケートは4,300名を超える個人投資家からの回答を頂きましたが、日経平均のDIについては、短期的な見通しが大きく悪化し、為替の見通しDIについては円安の見通しを強める結果となりました。

 次回もぜひ、本アンケートにご協力をお願いいたします。

日経平均の見通し

「短期の見通しが大幅悪化、今後は手探りか?」

楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之

 今回調査における日経平均見通しDIの結果は、1カ月後がマイナス26.96、3カ月後はマイナス2.15となりました。

 前回調査の結果がそれぞれマイナス13.86とマイナス5.95でしたので、1カ月後が大幅に悪化する一方、3カ月後についてはやや改善したこととなります。今回の結果からは、「短期的に株価下振れの警戒が強いが、中長期的には落ち着くだろう」という見方が強い印象となっています。

 具体的に回答の内訳グラフを見ると、1カ月後は大きくグラフの形を変化させています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 上の図の1カ月後の割合グラフをみると、強気派が13.97%、弱気派が40.92%、そして中立派が45.11%となっています。前回の割合が、強気派(17.02%)、弱気派(30.88%)、中立派(52.10%)だったことを踏まえると、強気派と中立派が減少した分が弱気派に流れた格好です。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 同様に、3カ月後の割合についても見てみると、強気派が27.88%(前回25.89%)、弱気派が30.04%(同31.84%)、中立派が42.08%(同42.27%)となっており、前回からの変化があまり見られなかったほか、わずかではありますが弱気派と中立派が減少して、強気派が増加しています。

 こうした1カ月後と3カ月後の見通しDIの差異については、今回調査期間(8月29日~8月31日)中の株式市場が大きく下落していたことで、短期的な1カ月後DIの結果に影響を及ぼしたと考えられますが、その株価下落のきっかけとなったのは、いわゆる「ジャクソンホール会議(米カンザスシティー連邦準備銀行主催の経済シンポジウム)」で行われた、パウエル米FRB議長の講演です。

 講演前の株式市場は「パウエル議長が講演でタカ派姿勢を強めるのでは?」という観測が事前に強まり、これを織り込む形で株価が下落していたため、通常ならば講演後の株価はイベント通過で上昇していくのがセオリーなのですが、実際には講演後も下げが続く展開となりました。

 確かに、講演内容はタカ派色が強いものでしたが、特に驚きの内容はなかったため、株価の下落反応は、それだけ市場が楽観的だったと思われます。

 足元の相場は、インフレに対処するために金融政策を引き締めている「逆金融相場」に位置しているわけですが、金融政策の思惑については、8月中旬までの株価上昇が示していたように、引き締め鈍化から、さらにその先にある緩和への転換を期待する動きも一部で見られ、本来であれば景況感の悪化や、業績後退を警戒する「逆業績相場」から、その先にある「金融相場」を先取りしている面がありました。

 パウエル議長は今回の講演で、今後利上げペースを緩めたとしても、それが金融政策の転換を意味するわけではなく、一足飛びに「金融相場」に向かわないことを市場に認識させる形となりました。

 それと同時に、9月20~21日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)の利上げ幅は今後のデータ次第ですので、しばらくは経済指標の動きに敏感に反応する相場地合いとなり、相場の時間軸が短くなることが考えられます。

 楽観的な見通しの修正についてはすでに一巡したと思われ、3カ月後DIの結果にあまり変化がなかったのも、こうした見方が反映されているものと思われます。ただ、景況感や企業業績の悪化に対する織り込みが進むと、もう一段階の株価下落も想定されるため、当面の間は不安定な相場展開が続き、今後の方向感を探ることになりそうです。

楽天DI  2022年8月

楽天証券経済研究所 根岸 美知代

【今月の質問1】 株の売買注文を出す前に、株価チャートを見ますか。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

【今月の質問2】 株を買う時によく使う注文方法は何ですか。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

【今月の質問3】 株を売る時によく使う注文方法は何ですか。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 株の注文は、買い・売りともに「指値」を使う方が全体の半数以上と多く、「成行」は約20%でした。しかし、売りでは、「成行」を使う方が買いよりも多くなっています。

 では、株価チャートは、どのくらい「見ている」のでしょうか。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

「指値」を使う方のほうが、株価チャートを見ている方が多いです。しかし、「指値」も「成行」も買いより、売りの方がチャートを「必ず見ている」方が多かったです。

【今月の質問4】 逆指値注文を使ったことはありますか。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 逆指値注文を使ったことが「ある」方が全体の27.0%、「ない」方が66.8%でした。逆指値注文を使ったことが「ない」方の半数以上は「使ってみたいけど使い方がわからない」ということでした。

 逆指値注文については、トウシルにもレポートがありますのでご参考にしていただけますと幸いです。

2022年7月5日:「億り人」は損切り達人!「逆指値」で守りながら攻める!

 今回もたくさんのご意見をありがとうございました。

為替DI:9月のドル/円、個人投資家の予想は?

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 DIは「強さ」ではなく「多さ」を測ります。DIは円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありません。しかし、アンケートに個人投資家の相場観が正確に反映されているならば、DIの「多さ」は「強さ」に関係することになります。

「ドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券が8月末に実施した相場アンケート調査によると、9月のドル/円は「ドル高/円安」に動くとの回答が、全体の56%を占めました。円安見通しは、先月に比べて9ポイント増となっています。

「ドル安/円高」の見通しを持つ個人投資家は全体の13%で、先月に比べて9ポイント減りました。31%は、「変わらず」との回答でした。

 米国で新型コロナウイルスワクチンの接種がまだ本格化する前、経済再開の見通しがまったく不透明な時期に、FOMCは、政策のフォワードガイダンスに関して重要な変更を行いました。2020年12月のことです。

 FOMCは、金融政策の指針について、従来の「今後数カ月」といったような、期間を定めた定量的な指針から、「一段の著しい進展があるまで」という、数字では表わせない定性的な指針へと修正したのです。

 そして2022年6月のFOMCでは、フォワードガイダンスそのものを実質的に放棄しました。この時を境にFRBの金融政策は、将来の経済動向を予測した「先出しスタイル」から、経済データの結果を見て判断する「後出しスタイル」へと変更になったのです。

 新型コロナのために2020年3月から4月のたった2カ月間で失われた2,156万人の職を、米雇用市場は今年の7月まで2年3カ月の月日をかけて2,163万人に戻し、ついに新型コロナの影響を完全に排除することに成功したのです。

 失業率は、新型コロナの感染が拡大した2020年4月には14.7%まで悪化しましたが、今は2019年9月に記録した過去最低水準まで低下しています。米雇用市場に関していえば、新型コロナの影響は完全に消えました。

 米雇用市場が完全雇用状態まで復活したのだから、FRBだけが対コロナ「戦時モード」超低金利政策を継続する理由はなくなりました。FRBは今年3月から7月までの利上げによって政策金利であるFF金利を0.00~0.25%から2.25~2.50%まで引き上げましたが、パウエルFRB議長が言うように、水準としてはまだ「中立ゾーン」に戻っただけです。

 FRBの法的使命(マンデート)には、「雇用安定」と共に「物価安定」があります。雇用市場が好調なうちに、FRBは大幅な利上げによって一気にインフレを退治して物価安定の目標を達成しようと考えています。

 企業向け給与計算サービス会社のADPは、8月31日に8月の雇用データを発表しました。いわゆる「民間」雇用統計なのですが、FRBもチェックしていることやBLS(米労働省労働統計局)の「官製」雇用統計に先行して発表されることもあって注目されています。

 ADPは、BLS雇用統計との数値の乖離(かいり)が大きくなったことを理由に、統計方法を修正しましたが、その新方式によると、8月は、市場予想の30.0万人増に対して13.2万人増と大きく下回る結果となりました。ADPの分析では、米企業の採用は、これまでの「超アグレッシブ」モードから「通常」モードへ転換しつつあるといいます。

 9月2日は、BLSが8月の雇用統計を発表しました。結果はまちまちで、NFP(非農業部門雇用者数)はほぼ事前予想通りの増加数でしたが、失業率は上昇。一方で労働参加率は上昇しました。全体としては、マーケットを動かす決定打にはなりませんでした。

 しかし、雇用市場の強弱の判断基準はどこにあるのでしょうか。フォワードガイダンスが廃止された今、マーケットは手探り状態になっています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券の相場アンケート調査によると、9月のユーロ/円は、個人投資家の38%が「ユーロ高/円安」になると予想しています。

 ユーロ高予想は、先月から1ポイント増加。

 一方「ユーロ安/円高」見通しは15%で、先月から4ポイント減少。

 47%は「変わらず」との回答でした。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券の相場アンケート調査によると、9月の豪ドル/円は、個人投資家の37%が、「豪ドル高/円安」に進むと予想しています。

 豪ドル高予想は、先月から2ポイント増加。

 一方「豪ドル安/円高」見通しは11%で、先月から4ポイント減少。

 全体の52%は「変わらず」との回答でした。

今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、毎月実施している質問「今後投資してみたい金融商品」で「国内株式」「外国株式」「投資信託」を、質問「今後投資してみたい国(地域)」で「アメリカ」を選択した人の割合に注目します。各質問の選択肢は、ページ下部の表のとおり、それぞれ13個です。(複数選択可)

図:「国内株式」「外国株式」「投資信託」および「アメリカ」を選択した人の割合

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 2022年8月の調査では、「国内株式」を選択した人の割合は58.13%、「外国株式」は43.21%、「投資信託」は34.55%でした。また、「アメリカ」は63.69%でした。

 金融商品である「国内株式」「外国株式」「投資信託」の三つの動きに注目します。これらは、2021年12月を境に、それまでと異なる傾向を示しはじめました。「国内株式」が反発色を強め、「外国株式」と「投資信託」が反落に転じたのです。(グラフ内の赤矢印)

 2022年8月は2021年12月に比べて、「国内株式」がプラス10.01%(48.12%→58.13%)と大きく反発。逆に「外国株式」はマイナス9.18%(52.39%→43.21%)、「投資信託」はマイナス11.17%(45.72%→34.55%)と、大きく反落しました。

「外国株式」と「投資信託」の連動性が高いのは、人気がある「投資信託」の多くが、「外国株式」の代表的な株価指数に連動する設計であるためです。

「国内株式」大幅反発、「外国株式」「投資信託」大幅反落。明暗をわけた背景に、何があるのでしょうか。それは「アメリカ」の動向だと、筆者はみています。「アメリカ」の2022年8月は2021年12月に比べてマイナス13.36%(77.05%→63.69%)と、「外国株式」「投資信託」を超える反落となりました。

「アメリカ」を今後投資してみたい国(地域)だと感じる人の割合が反落し、それに伴い、具体的な金融商品であり、アメリカの情勢と関わりが深い「外国株式」、そしてそれと連動する設計である「投資信託」の割合がつられて反落したと、考えられます。

 なぜ、昨年末から足元にかけて、「アメリカ」を今後投資してみたい国だと感じる人の割合が反落したのでしょうか。インフレが加速したこと、それに伴い大幅な利上げが行われ、株価が下落に転じ、不安が拡大したこと、それらにより経済情勢の悪化が印象付けられたことなどが挙げられます。

 加えて、11月の米中間選挙(4年ごとの米大統領選挙の間の年に行われる、上院の3分の1、下院の全議席を改選する。同時に複数の州知事選挙も行われる。)にむけ、なりふり構わぬ策を繰り出す米国政府への不安が生じ、投資してみたい国だと感じる人の割合が反落した可能性もあります。(米下院議長の無理な台湾訪問や、インフレ対策と称したバラマキなど。)

 さまざまな「アメリカ」への不安が、「外国株式」「投資信託」を投資してみたいと感じる人の割合を低下させたといえるでしょう。こうした動きを受け、消去法的に、伝統的な投資手法への回帰というムードを醸成しつつ、浮上したのが「国内株式」だったといえるでしょう。

 足元、「アメリカ」の政治・経済の状態が良好かそうでないかが、投資指向が「国内株式」に向くのか「外国株式」や「投資信託」に向くのかを占う指標になっているといえるでしょう。

表:今後、投資してみたい金融商品 2022年8月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域) 2022年8月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成