上半期の振り返り
6月が終わって今年の上半期を振り返ってみますと、原油、物価、金利、ドル/円は以下のような動きとなりました。
- WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は75ドルから上昇し、一時120ドルを超え、6月末は105ドル
- 米国消費者物価指数は前年比7.5%(1月)から8.6%(5月)に上昇
- 一方で米国の失業率は4.0%(1月)から3.6%(5月)に低下
- (2)、(3)を受けて、FRB(米連邦準備制度理事会)は政策金利を3回、計1.50%引き上げ(3月0.25%、5月0.5%、6月0.75%と加速)、FF金利の誘導目標を1.5~1.75%へ引き上げ
- 米10年債券利回りは1.5%台から一時3.4%台へと2%近く上昇し、6月末は3.0%台へと低下し半期で約1.5%の上昇
- ドル/円は115円台から一時137円台に上昇し、6月末は135円台となり、約20円の上昇
そしてFRBの利上げの副作用として資産市場の調整と景気減速懸念が高まりました。
米国株式市場のS&P500種指数は半期ベースで1970年以来の下落(▲20.6%)となりました。リスクの高い資産価格ほど利上げの影響を大きく受けており、代表的な仮想通貨であるビットコインは、▲57%となりました。
1-3月期は前期比でほぼ横ばいだったことから、FRBの利上げの影響をもろに受けた4-6月期で57%安となったことになります。世界全体の仮想通貨の時価総額は昨年11月のピーク(約2兆9,700億ドル)から7割減少しているとのことです。
まさに「コロナバブル」の逆流が起きている状況です。
インフレに比較的強いとされる不動産も、利上げによる景気後退懸念から需要減への不安が強まり、世界のREIT(リート:不動産投資信託)からの資金流出が加速しています。時価総額の合計は6月末で2.1兆ドル(約290兆円)と昨年12月末から19%減少しています。
景気減速については、5月以降、消費者信頼感指数などが急速に低下し、消費が慎重になってきています。また、自動車や電機など幅広い産業に使われ、世界景気の動向を反映する銅は6月22日に一時1年3カ月ぶりの安値を付けました。
そして前回お話ししたアトランタ連邦準備銀行のGDP(国内総生産)ナウの直近の予測は、7月1日時点で米国の4-6月期GDPが▲2.1%となっています。この予測だと、前期1-3月期が▲1.6%なのでリセッション入り(2四半期連続のマイナス成長)となります。
このままだとFOMC(米連邦公開市場委員会)のGDP見通しである1.7%は遠い水準になるかもしれません。
また、FOMCの金利見通しは今年末で3.4%との見通しですが、この見通しだと今後半年の4回(7月、9月、11月、12月)で1.65%引き上げることになりますが、経済や資産市場が耐えられるかどうか注目です。
仮に下半期に1.65%引き上げた場合、ドル/円が上半期と同じように利上げの影響によって現在の水準からさらに20円の値幅で円安になるのでしょうか。それよりもさらなる利上げによって副作用が一層ひどくなり、このような単純計算はできなくなるのでしょうか。
利上げの過程で資産市場や経済に何らかのゆがみが生じ、そのゆがみを解消する方向でマーケットが調整されていくのではないかとみています。
今年後半も『インフレ高進とFRBの利上げ』と、『副作用としての資産市場の調整と景気減速懸念』との綱引き相場が続きそうですが、今年後半は前半よりも「副作用」の材料の方が勝るのではないかとみています。
特に、7月26~27日のFOMCの利上げ後は(0.5%か0.75%)、一時的に長期金利が上昇し、ドルも上昇するかもしれませんが、副作用としての株安や消費意欲減退が一層強まることも予想されます。
下半期のシナリオ
想定されるシナリオとしては、「中国景気の回復も進まず、欧州景気も悪化し、利上げの影響によって世界的に景気が減速し、世界的な需要減少から原油価格が低下。
インフレは頭打ちとなり、FRBはインフレ頭打ちと景気減速懸念から利上げペースを落とさざるを得なくなり、米長期金利低下とともにドル/円は上半期の円安が調整される」のではないかとみています。
このシナリオには日本銀行の政策変更がないとの前提ですが、マーケットは日銀の金融政策決定会合前には政策変更期待から円高が進むことが予想されます。
そして、会合後政策変更なしとなれば、失望感からそのポジションの巻き戻しによって円安になるという動きも想定に入れておいた方がよさそうです。ただし、この一連の動きによって相場の方向性が出るということはなさそうです。
リスクシナリオとしては、ロシアへの制裁やロシアからの報復によって原油が高止まり、あるいは上昇し、加えて食料の供給不足から食料価格も上昇してインフレがさらに加速し、FRBの利上げもさらに加速するシナリオが想定されます。
この場合、副作用は強まることが予想されるため、景気減速も強まり、いわゆるスタグフレーション(景気後退と物価上昇が同時に起きる状況)に陥ることが想定されます。ドル/円にとっては、利上げによって上昇しても、副作用の強さから円安はかなり抑制されるのではないかと予想されます。
さて、話は変わりますが、7月10日の参議院議員通常選挙で与党圧勝となれば、海外投資家は日本の政治の安定を好材料として捉え、加えて金融緩和継続、低物価の日本市場は「買い」との見方が浮上する可能性もあり注目したいと思います。
他の先進国の市場がさえない中、相対的に日本市場が見直されることになれば、ドル/円にとっては円高材料になるかもしれません。