3)株価下落の「嫌な感じ」こそが投資の儲けの源泉だと理解する

 さて、さきほど株式の期待リターンを年率5%で考えるといいと申し上げた。現在の無リスクな金利水準を0%とすると、なぜ5%も高いリターンが期待できるのだろうか。

 それは、株式に投資する人が、株式のリスク負担に対してこれを補償する追加的なリターン(「リスク・プレミアム」と呼ぶ)を織り込んで株価を形成すると期待できるからだ。

 この際に重要なことは、企業や国の利益成長や経済成長の予想は、株価が形成される際に織り込まれているはずだということだ。つまり、経済成長率が高い国の株式も、経済成長率が低い国の株式も、将来の成長率の予想は株価に反映しているはずであり、そうだとするなら、現在の株価でそれぞれの国の株式を保有することの期待リターンは、それぞれのリスクに見合ったリスク・プレミアムを含む期待リターンであり、どちらのリターンが高いと一概に言えるものではないという点だ。

 そうなのだとすると、株式市場に参加している人たちの株価が下がった時に持つ「嫌な感じ」こそが、株式の高いリターンの源泉なのだということが分かる。

 実は、「資本主義や世界経済の成長」も皆が分かっていて高い株価を付けているなら、それ自体が株式への特別に高い期待リターンを根拠づけることができるものではないし、「過去の株式の高いリターン」といったデータも今後の株式リターンが高いことを確証するには全く不十分なのだ(「長期」について統計的信頼を得るためには、「超長期」あるいは「超々長期」くらいの同一条件のデータが必要だ)。

 ロジカルに考えると根拠の乏しいものを無理に信じようとした場合、(賢い人ほど強く)根拠の乏しさが気になって仕方がなくなる。

 株式に対して高いリターンを期待できる最大の根拠は、株価が下落した時に誰でも「嫌な感じ」がすることなのだ。あなたが、「本当に、嫌な感じだ!」と思い、それが他人にも当てはまるだろうと想像できるのだとすると、それ以上に確実な、株式の高いリターンの根拠は存在しない。

 もちろん、あなたは、「こんなに嫌な感じなので投資を止める」と考えてもいいし、「こんなに嫌な感じを他人も持つのだろう。それなら、投資を続ける方が有利ではないか」と考えてもいい。もちろん、投資家に向いているのは後者なのだが、どうしても嫌な場合には無理をしなくていい。投資のリターンがなくても、計画的な生活をするなら人生に問題はない(このような当たり前のことを、金融機関はなかなか教えてくれないのだが)。

4)「売らずに持ち続けること」の有利性を理解する

 たとえば、米国の著名な投資家でバークシャー・ハサウェイ社のCEOであるウォーレン・バフェット氏は長年卓越した運用パフォーマンスを得たが、その理由の一つを彼が持ち株をなかなか売らなかったことに求めていいだろう。

 持ち株を売って、利益に課税されると、すぐに再投資したとしても、複利運用の効果が小さくなってしまう。

 また、持ち株を全部ないし一部売って株式の保有リスクを低下させた時期に株式にプラスのリターンが発生することは大いにあり得るし、平均的にはそうなる可能性が大きい。「嫌な感じがするから様子を見よう」といった弱い根拠で株式のリスクを低下させると、その間に、パフォーマンスを取り損なう場合が少なくない。

 加えて、売買にコストが掛かるので、「売って・買い戻す」行動が平均的に不利に働くことは言うまでもない。

 バフェット氏は、割安な株価で買える銘柄を買って、その銘柄の株価が適正価格まで上昇したら売却するベンジャミン・グレアム式のバリュー投資から、強い競争力を持っている会社をできれば割安な株価で買ってその後持ち続ける投資スタイルに、割と早い時期に転換した。米国の株式市場が長期にわたって高いリターンを上げていたことを思うと、彼の行動が適切であったことが分かる。

 運用成績を競うゲームを考えてみよう。例えば、S&P500をベンチマークとするとして、1年目にS&P500を1割上回る持ち株の上昇があったとしよう。この後、持ち株をずっと持ち続けてこれがS&P500と同じパフォーマンスを上げ続けたとすれば、S&P500がその後平均的にプラスのパフォーマンスをあげるとするなら、「通算のパフォーマンス」はS&P500に対して有利であり続けることができる。

 一般投資家は、過去のバフェット氏のように競争力のある銘柄を見極めることができないかも知れないが、代わりにインデックス・ファンドを持ち続けることができる。
 

〔後編:下落相場に負けない個人投資家になるための8つの法則〕記事をよむ