自分でも良質なESG銘柄を選びたい!というニーズの高まり

 ESG関連の投資信託も増加するなど、機関投資家も個人投資家もESG投資への関心を高めています。

 しかし、最近の報道(*1)では、「名ばかりESG投信」の増加が問題視されています。

 金融庁が、国内ESG(環境・社会・企業統治)関連の投資信託を提供する資産運用会社37社を調査したところ、約4割でESG担当の専門人材が存在せず、ESG投資とは実態が伴わない商品も混在していることが明らかになったのです。当然ですが、ESGの専門家がいない金融機関から、ESG投信を買いたい人はいません。しかし、社会をより良くすることにコミットしながら業績を上げている銘柄を探したいという投資家ニーズは強まっています。実際、個人投資家の方からもESG投資をするための情報収集の仕方について聞かれることが増えました。今回は、学術研究のメソッドも用いながら、ESG関連の有望銘柄を探すための、情報収集術について考察します。

「高ESGスコア=株価への期待大」は、本当か?

 投資家として最も気になるのは、「ESGスコアが高いほど、株価へ期待できる」の構図が成立するかどうかです。ESGスコアとは、ESG格付け機関が、対象企業のESGパフォーマンスやリスクを測定して算出する指標です。ESGスコアが投資家から重宝される理由は、企業のESGな取り組みは数値で表せないものが多く、国際基準も存在しないためです(2022年4月時点)。ESGの全ての点で頑張っている企業は、文句なしにESGスコアは高そうですが、必ずしもそういう企業ばかりではありません。

 例えば、CO2排出抑制に積極的だけれど、女性管理職がゼロの企業、社員の人権や多様性浸透には励んでいるけど、脱炭素には及び腰な企業…点数付けが難しそうですよね。つまり、客観的にESGの良しあしを判断する基準が、まだまだ曖昧なのです。しかし、徐々にですが、投資家から信頼されているESGスコアが増えてきています。

 そして、株価の源泉である企業業績と、ESGスコアとの関連性については、世界中で多数の研究が報告されています(*2)。こうしたESG研究をサーベイした報告(*3)によると、2015年時点で2,000以上の論文が存在しており、約9割(!)がESGスコアが高い企業ほど、高い企業業績にあると報告しています。そのメカニズムは、多岐に及んでいます。慈善活動に積極的な企業は、それが高い営業力と企業業績につながりやすい、取締役主導によるESG活動はROA(総資産利益率)や営業成績の向上につながりやすい、製品を差別化する力のある企業ほどESGスコアと業績との相関が強い等々などです。

 しかし、残り1割は、高ESGスコア企業が必ずしも企業業績につながらないことを報告しているのも事実です。そこでは、株主利益を犠牲にしてまでESG経営を取り組んでいる企業や、本業とはかけ離れたESGな取り組みをしている企業で、マイナスの影響が起きていることを報告しています。以上を踏まえると、ESGスコアが高いというだけでなく、対象企業のESGな取り組みが、本業とかけ離れたものではないかを精査する必要があるようです。

 個人投資家の方が手軽に閲覧できるESGスコアといえば(日本株のESGスコア一覧といえば)、「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」や「東洋経済CSR企業総覧(ESG編)」などがあります。後者は、図書館でも閲覧できる場合があります。

 ESGスコアをチェックした後は、対象企業のホームページでESG経営に関するページを作成しているか、またそうした取り組みが本業とシナジー効果を出せる可能性があるものかを自分なりにジャッジしてみてはどうでしょうか。

株主総会前だからできるESG投資戦略!?

 その他に、ESGに関連した投資手法としては、株主総会に関連したものです。株主総会では、企業が提案する議案だけでなく、株主が提案する株主提案議案の2種類が存在します。日本だけでなく世界で、「株主提案」が可決されることは滅多にありません。例えば、2010年から2017年までの国内全上場企業の株主総会における「会社提案」は約20万件も存在するのに対して、「株主提案」は約2,000件にとどまります。そして、その賛成率は、「会社提案」が平均95%なのに対して、「株主提案」は9〜30%程しかないのです。そうした滅多に50%を取得できない「株主提案」において、ESG関連議案が可決されたら何が起こるのでしょうか? 実は、株価への影響はかなり大きいことが実証研究から報告されています(*4)。

 ESG関連の「株主提案」が僅差で通過した場合、株価の上昇が続きやすいことを報告しています。理由は、こうした「株主提案」が通過することで、その企業の労働生産性が向上し、売上高につながる傾向があるとのことです。ESGに企業が対応するということは、社員の働きやすさにつながり、それが業績向上につながるのかもしれません。

 既に、今年はJパワー三菱商事三井住友FG東電HD中部電力などでESG関連の株主提案が議題に上がる見込みです(2022年5月6日時点)。こうした企業で何が起こるのか、投資家としても要注目です。ESG投資でパフォーマンスを上げるならば、今年の株主総会における株主提案の動向や、ESG関連の提案を受けている企業についても、ぜひ情報収集してみてくださいませ!

*1日本経済新聞電子版 2022年4月24日「運用会社の4割「ESG人材」ゼロ 金融庁、監視を強化」
*2 Stuart L.Gillan, Andrew Koch, Laura T.Starks, (2021), “Firms and social responsibility: A review of ESG and CSR research in corporate finance” Journal of Corporate Finance, 66-101889
*3 Friede, G., Busch, T., Bassen, A., 2015. ESG and financial performance: aggregated evidence from more than 2000 empirical studies. J. Sustain. Fin. Investment 5 (4), 210–233.
*4 Flammer, C., 2015. Does corporate social responsibility lead to superior financial performance? A regression discontinuity approach. Manag. Sci. 61 (11), 2549–2568.

<執筆者紹介>

崔 真淑氏
エコノミスト(MBA in Finance):研究分野は、コーポレート・ファイナンス。一橋大学院大学院博士後期課程在籍。
株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役、株式会社カオナビ社外取締役。
学術的エビデンスを軸に、企業に対してファイナンスやガバナンスに関するアドバイスを行う。
同時に、メディアで経済・資本市場を解説。主な出演番組は、テレビ朝日『サンデーステーション』、フジテレビ『Live News α』、テレビ東京『昼サテ』、日経CNBCなど。
最近の研究では、山田和郎博士と"Does Passive Ownership Affect Corporate Governance? Evidence from the Bank of Japan’s ETF Purchasing Program"を執筆。

<書籍>投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本

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