欧州委員会は、ロシアから輸入している天然ガス250億m3から500億m3をグリーン水素に切り替える計画を発表した。実現すれば2030年までにおおよそ年間7.5トンのプラチナが必要となる。この計画によって欧州の水素製造能力が増加し、燃料電池自動車(FCEV)の普及につながれば、世界の自動車触媒のプラチナ需要に相当する量の需要が、燃料電池自動車関連で生まれるだろう。

 欧州委員会は、数段階にわたってロシア産の燃料依存からの脱却を目指す計画を発表した。これには250億m3から500億m3のロシア産天然ガスを水素に切り替える計画が含まれている。委員会は域内製造と輸入を合わせて水素2,000万トンを目標としているが、我々の予測ではこれには年間730万トンから1,460万トンが必要となる。委員会は2030年までに欧州で80GWの電解能力が必要になるとしており、ウクライナ危機以前の40GWという目標を引き上げた。欧州で再生可能エネルギー発電施設を設置した際の目安として妥当と思われる設備稼働率(年間で発電設備が動いて発電している時間)49%を使うと、我々の推測では80GWだと約630万トンのグリーン水素製造が可能で、残りは輸入しなければならない。グローバルな観点からすると、ロシアからの天然ガス500億m3を水素に置き換えるには186GWの電解能力が必要で、また水素2,000万トンという目標に届くには255GW必要だ。これは大きな数値目標であり、しかも現在、発電そのものの脱炭素化のために再生可能エネルギー発電の設置競争が激化している。従って欧州にとってより現実的な目標は、再生可能エネルギーによる電解能力115GWで300億m3以下の天然ガスを水素に切り替えるというものだろう。

310億m3のロシア産天然ガスを切り替えるには現実的に、欧州は115GWの電解能力が必要

資料: WPICリサーチ, 設備稼働率49%とはイギリスのオフショア発電の12カ月平均に近く、中国の自家発電再生可能エネルギーによる水素製造と同等

PEMとアルカリ電解が50:50の割合で115GWの電解能力設備でのプラチナ触媒の量によるプラチナ需要の違い

資料: WPICリサーチ, 設備稼働率49%とはイギリスのオフショア発電の12カ月平均に近く、中国の自家発電再生可能エネルギーによる水素製造と同等

 再生可能エネルギー発電による電解能力115GWを8年間で達成するのは非常に困難で、可能な技術を全て駆使しなければならないだろう。初期の電解装置のほとんどは、既存の発電施設に設置していきやすいアルカリ電解となるだろう。PEM電解装置は目標期間の終わり近くに、柔軟性の高さと経済的なコストの観点から主要な電解装置となるだろう。2030年までにアルカリ電解とPEMの比率が50:50になると仮定すると、電解能力115GWを達成するには年間7.3トンのプラチナが使われる推定になる。例えば100%PEMだと年間14.9トンのプラチナが必要となる。我々の計算ベースはプラチナ450g/MWのPEM電解装置だが、電解装置のメーカーによって触媒の量は非常に異なり、差異は低く見積もって+/-22%、350g/MWから550g/MWの幅がある。

 電解装置がプラチナ需要を直近で大幅に押し上げるとは考えられないが大規模な水素製造と流通の副次的恩恵は、FCEVの普及で、それにより将来のプラチナ需要増がもたらされることである。 

投資資産としてのプラチナの魅力

- 新たな金属鉱山への投資にもかかわらず、向こう3年間の供給は大幅に制限されている。
- プラチナ価格は依然として過小評価されており、金とパラジウムと比較しても大幅に低い。
- 自動車のPGM需要は排ガス規制の厳格化により今後も成長。
- プラチナとパラジウム市場の需給バランスと価格のミスマッチが代替としてのプラチナ需要を加速。
- 機関投資家需要は2年続いた歴史的高水準から若干弱まっているが価格とファンダメンタルズは依然として良好。

図1: 250億m3から500億m3の天然ガスと、730万トンから1,460万トンの水素は同等の熱量

資料: WPIC リサーチ

図2: グリーン水素は通常2.50ドル/kgから6ドル/kgだが、天然ガス価格が高騰している今、ロシア依存脱却の欧州の動きは戦略的にも経済的にも有意義なもの

資料: ブルームバーグ、WPIC リサーチ, 注 Pegas 天然ガススポット価格

図3: ロシア産天然ガス300億m3相当のグリーン水素を現実的な再生可能エネルギー電力で製造するには115GWの電解能力が必要

資料: WPIC リサーチ

図4: 触媒量450g/MWの115GW電解装置(50:50PEM/アルカリ電解の市場シェアとして)で7.5トンのプラチナ需要に

資料: WPIC リサーチ

図5: 初めはアルカリ電解装置が主だが、後半にはPEM電解装置が大半になるだろう(115GW シナリオ) 

資料: WPIC リサーチ

図6: 100%をPEMによる水素製造とするとプラチナ需要は2030年までに年間で10.13トン(下図は80GWシナリオ)か、あるいは14.9トン(115GWシナリオ)

資料: WPIC リサーチ

: これまでイリジウムの供給に限界があることがPEM電解装置の部分的な障害になると考えられてきた。しかし2020年10月にヘレウス社がイリジウムの量を約90%減らすことに成功したと発表。これによりPEMとアルカリ電解が50:50の115GWのシナリオでは2030年までに必要なイリジウムは年間約3トンとなる。イリジウムは年間生産高が7トンであるからリサイクル分を合わせると供給量の範囲内ではあるが、これ以外の需要を抑制する必要があることにはなる。 

免責条項:当出版物は一般的なもので、唯一の目的は知識を提供することである。当出版物の発行者、ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルは、世界の主要なプラチナ生産会社によってプラチナ投資需要発展のために設立されたものである。その使命は、それによって行動を起こすことができるような見識と投資家向けの商品開発を通じて現物プラチナに対する投資需要を喚起すること、プラチナ投資家の判断材料となりうる信頼性の高い情報を提供すること、そして金融機関と市場参加者らと協力して投資家が必要とする商品や情報ルートを提供することである。

 当出版物は有価証券の売買を提案または勧誘するものではなく、またそのような提案または勧誘とみなされるべきものでもない。当出版物によって、出版者はそれが明示されているか示唆されているかにかかわらず、有価証券あるいは商品取引の注文を発注、手配、助言、仲介、奨励する意図はない。当出版物は税務、法務、投資に関する助言を提案する意図はなく、当出版物のいかなる部分も投資商品及び有価証券の購入及び売却、投資戦略あるいは取引を推薦するものとみなされるべきでない。発行者はブローカー・ディーラーでも、また2000年金融サービス市場法、Senior Managers and Certifications Regime及び金融行動監視機構を含むアメリカ合衆国及びイギリス連邦の法律に登録された投資アドバイザーでもなく、及びそのようなものと称していることもない。

 当出版物は特定の投資家を対象とした、あるいは特定の投資家にための専有的な投資アドバイスではなく、またそのようなものとみなされるべきではない。どのような投資も専門の投資アドバイザーに助言を求めた上でなされるべきである。いかなる投資、投資戦略、あるいは関連した取引もそれが適切であるかどうかの判断は個人の投資目的、経済的環境、及びリスク許容度に基づいて個々人の責任でなされるべきである。具体的なビジネス、法務、税務上の状況に関してはビジネス、法務、税務及び会計アドバイザーに助言を求めるべきである。

 当出版物は信頼できる情報に基づいているが、出版者が情報の正確性及び完全性を保証するものではない。当出版物は業界の継続的な成長予測に関する供述を含む、将来の予測に言及している。出版者は当出版物に含まれる、過去の情報以外の全ての予測は、実際の結果に影響を与えうるリスクと不確定要素を伴うことを認識しているが、出版者は、当出版物の情報に起因して生じるいかなる損失あるいは損害に関して、一切の責任を負わないものとする。ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルのロゴ、商標、及びトレードマークは全てワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルに帰属する。当出版物に掲載されているその他の商標はそれぞれの商標登録者に帰属する。発行者は明記されていない限り商標登録者とは一切提携、連結、関連しておらず、また明記されていない限り商標登録者から支援や承認を受けていることはなく、また商標登録者によって設立されたものではない発行者によって非当事者商標に対するいかなる権利の請求も行われない。

WPICのリサーチと第2次金融商品市場指令(MiFID II)

 ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(以下WPIC)は第2次金融商品市場指令に対応するために出版物と提供するサービスに関して内部及び外部による再調査を行った。その結果として、我々のリサーチサービスの利用者とそのコンプライアンス部及び法務部に対して以下の報告を行う。

 WPICのリサーチは明確にMinor Non-Monetary Benefit Categoryに分類され、全ての資産運用マネジャーに、引き続き無料で提供することができる。またWPICリサーチは全ての投資組織で共有することができる。

1.WPICはいかなる金融商品取引をも行わない。WPICはマーケットメイク取引、セールストレード、トレーディング、有価証券に関わるディーリングを一切行わない。(勧誘することもない。)

2.WPIC出版物の内容は様々な手段を通じてあらゆる個人・団体に広く配布される。したがって第2次金融商品市場指令(欧州証券市場監督機構・金融行動監視機構・金融市場庁)において、Minor Non-Monetary Benefit Categoryに分類される。WPICのリサーチはWPIC のウェブサイトより無料で取得することができる。WPICのリサーチを掲載する環境へのアクセスにはいかなる承認取得も必要ない。

3.WPICは、我々のリサーチサービスの利用者からいかなる金銭的報酬も受けることはなく、要求することもない。WPICは機関投資家に対して、我々の無償のコンテンツを使うことに対していかなる金銭的報酬をも要求しないことを明確にしている。

 さらに詳細な情報は WPICのウェブサイトを参照。

 当和訳は英語原文を翻訳したもので、和訳はあくまでも便宜的なものとして提供されている。英語原文と和訳に矛盾がある場合、英語原文が優先する。