3.半導体関連セクターの業界データを概観する-ファンダメンタルズは今のところ良好-

 ここからは半導体関連セクターの業界データを見ていきたいと思います。

 まず、世界半導体出荷金額の推移から。世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)の2022年1月までの数字は順調に伸びています。ただし、2022年1月は前年比では26.8%増と高い伸びが続いたものの、前月比では0.2%減とほぼ横ばいでした。2021年12月が好景気を反映して極めて強い数字だったためです。また、季節性にもよると思われます。

 また、世界半導体出荷金額(単月)は、2022年1月は前年比17.2%増、前月比11.4%減でした。2021年12月は前年比32.6%増、前月比1.0%増と好景気を反映して強い数字になっており、特に、2021年11、12月の南北アメリカ向けが強い数字になりました。2022年1月はこの反動が出たと思われます。

 TSMCの2022年2月売上高は、前年比37.9%増、前月比14.7%減となりました。1月よりも減収になったのは季節性によります(大口納入先の中国工場が2月上旬は春節で休みになること、営業日数が1月よりも少ないことによる)。TSMCの月次売上高を見ると、半導体景気は2月時点では好調が続いているといえます。

 メモリ市況(DRAM、NAND)を見ると、スポット価格、大口価格ともに大きな変化はありません。DRAMスポット価格は横ばい圏で上昇が止まった状態です。DRAM大口価格は下落していますが、TSMCによる高性能CPUの生産体制が増強されているため、この効果によって今年中に需給関係が改善することが期待されます。NAND大口価格も横ばい圏です。

 半導体製造装置を見ると、2022年1月の日本製半導体製造装置販売高は、前年比69.1%増、前月比1.0%増となり、引き続き高い伸びが続いています。

 業界データは2022年1月まで、TSMCの月次売上高は2022年2月までなので、ウクライナ危機が半導体関連セクターに与えている影響はまだわかりません。そこで、これから発表される半導体企業の決算、IR DAY、月次データに注目したいと思います。

・エヌビディア インベスター・デイ: 2022年3月22日(火)10:00AM(太平洋時間、夏時間)、3月23日(水)2:00AM(日本時間)

・マイクロン・テクノロジー2022年8月期2Q(2021年12月-2022年2月期)決算カンファレンス:2022年3月29日(火)2:30PM(山岳部標準時:夏時間)、3月30日(水)5:30AM(日本時間)

・TSMC2022年3月月次売上高:2022年4月8日(金)公表

 ウクライナ危機が短期間で終息するならば、半導体関連セクターに対して大きな影響はないと思われますが、それについては今後の事態の推移を見極めたいと思います。

グラフ5 世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)

単位:1,000ドル、注:2015年3月から「アジア太平洋・その他」から「中国」を分離、出所:SIA(米国半導体工業会)より楽天証券作成

表1 世界半導体出荷金額(単月)

単位:100万ドル、%
出所:WSTSより楽天証券作成。

グラフ6 TSMCの月次売上高

単位:100万台湾ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ7 DRAMのスポット市況

単位:ドル、小口渡し、現金、出所:日本経済新聞主要相場欄より楽天証券作成、注:4ギガビット品は、2018年6月29日までDDR3型、2018年6月30日~2021年5月7日はDDR4型、2021年5月10日からDD3型。

グラフ8 DRAMの市況

単位:ドル、国内大口需要家渡し、4ギガビット(2018年6月26日までDDR3、2018年7月3日からDDR4、2021年5月11日からDDR3)、出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ9 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)

単位:ドル、国内大口需要家渡し、TLC(注:2017年5月30日付で従来の多値品がTLCに変更された)、出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ10 日米半導体製造装置販売高(3カ月移動平均)

出所:日本半導体製造装置協会、SEMI、単位:日本製は100万円、北米製は万ドル

4.半導体関連株には底打ち感がでている。ただし、引き続きリスクには注意したい

 前回の楽天証券投資WEEKLYでも指摘したように、今の半導体関連株に投資する場合、注目点は「割安感」です。表2は前回示した表のアップデートです。前回に比べ、多くの銘柄の株価が上昇していますが、PER、PEG(予想PER÷予想営業増益率)で見た割安感は続いています。この割安感を重視するならば、半導体関連株に対して少しずつ再投資する考え方をそろそろ持ちたいと思います。

 例えば、AMD、エヌビディア、クアルコム、TSMC、アプライド・マテリアルズ、KLAコーポレーション、東京エレクトロン、SCREENホールディングス、アドバンテスト、ディスコのように、PER、PEGで割安感が強く出ている銘柄への投資です。レーザーテック、ASMLホールディング、シノプシスは元々高い成長性や希少性で買われており、足元の株価にも割安感は乏しいですが、成長に期待する場合は、これらの銘柄にも再投資を考えることはできると思われます。

 ただし、この割安感は、現在の業績好調が続くというのが前提です。過度な利上げやウクライナ情勢の悪化によって世界景気が程度の問題はあれ腰折れる可能性があるのであれば、割安感はその分減じられます。その意味で、当面は個々の半導体関連企業の業績や業界動向に加えて、アメリカとEUの物価動向、FRBの利上げに対する考え方、ウクライナ情勢などマクロの視点が重要になると思われます。

表2 半導体関連株の業績とPER、PEG

出所:楽天証券 
単位:アメリカ上場株は億USドル、USドル。ただし、TSMCの売上高、営業利益は億台湾ドル。EPSはUSドル(ADRベース。TSMCのADRは普通株5株からなる)。TSMCの株価はADR、USドルベース。ASMLホールディングは億ユーロ、ユーロ。株価はアムステルダム市場。日本株は億円、円。
注1:予想は楽天証券。
注2:株価はアメリカ上場株、アムステルダム上場株、日本株ともに2022年3月10日終値。

本レポートに掲載した銘柄:TSMC(TSM、NYSE ADR)AMD(AMD、NASDAQ)エヌビディア(NVDA、NASDAQ)クアルコム(QCOM、NASDAQ)マイクロン・テクノロジー(MU、NASDAQ)ASMLホールディング(ASML、NASDAQ、アムステルダム)アプライド・マテリアルズ(AMAT、NASDAQ)KLAコーポレーション(KLAC、NASDAQ)シノプシス(SNPS、NASDAQ)東京エレクトロン(8035)レーザーテック(6920)アドバンテスト(6857)SCREENホールディングス(7735)ディスコ(6146)