中国国民にとって消費はメンツ、投資は人生

 パート1の最終部分で「中国的な意味」という意味深長な表現を用いました。本稿の最後に、中国人民にとって、消費とは何なのか、投資を通じて何を実現していきたいのか、という国民性、生きざまの部分に迫っていきたいと思います。投資を知る、考える上での一例としてご参考いただけると幸いです。

 これまで中国の人々とコミュニケーションを取ってきて、中国人ほどお金を手段、より突っ込んで言えば、「たかが手段、されど手段」だと捉えた上で、したたかにお金を使っている国民を私は知りません(ユダヤ人とかもそれに近いのかもしれませんが)。

 例えば、中国人の多くは、生活に必要な最低限以外、キャッシュ(現金)など持ちません。よほど金利が良い場合を除いて、預金として銀行に眠らせておくこともしません。彼ら・彼女らは、「お金は生き物」、回し、動かしてこそ、価値が生まれると考えます。

 ただ、お金を回す上でも、戦略を練ります。一時期はやった理財商品(投資信託の一種)、および株式・債券投資を中国人は重視します。しかし、これらの投資は基本的に自分の中、最大で家族や仲の良い知人だけが知るところになり、投資を通じてどれだけもうかっているのかは自分の中で消化する類いの話です。

 とりわけ春節という時期に台頭してくるのが、それとは異なる、社会的に可視化される消費・投資です。例えば、高校の同級生が集まる同窓会でみんなにごちそうすることで存在感をアピールする。田舎に帰省する際に、全身を高級ブランド「シャネル」でコーディネートし、新たに購入した高級車「メルセデス・ベンツ」を披露する。「紅包」を無制限に配りまくる。こうした消費は、消費自体が目的なのではなく、親族や友人といったサークルにおいて自らの存在感、影響力を増すため、結果的に仕事やプライベートを含め、自らの人生がより円満に運行するための先行投資なのです。

 中国の人々は、特に春節といった期間には、このような明確な意識を持ってお金を運用する人がほとんどです。まさに「理財」(財産を管理する=資産運用=ファイナンス)にほかなりません。

 そして、理財という観点から、中国人のメンツとしての消費、人生としての投資と切っても切り離せないのが不動産です。いくら消費旺盛な中国人といっても、不動産よりも大きな買い物というのは人生を通じてなかなかありません。住宅を何件持っているか、いつどのタイミングで、どこにあるどんな物件を買うかは、周囲が自分を見る目に変化を与え、自らが描く、自らに有利なサクセスストーリーを築くための、最大の先行投資なのです。

 不動産といえば、関連業界も含めれば、中国GDP(国内総生産)の2~3割を占めるといわれる主要産業です。昨年は、不動産関連への融資が規制されたり、不動産大手・恒大集団の債務危機が取り沙汰されるなど、業界全体に不安が広がりました。しかし、私は不動産業界、およびその中国経済への影響が低迷するとは決して思いません。それ自体が中国経済にとって欠かせないという客観的国情もありますが、ある意味それ以上に、14億人以上いる中国の国民が、不動産を自らのメンツを最大化してくれる消費だと集団的に認識しているためです。彼らにとって、不動産は自らの人生を豊かにしてくれる最大の投資であると同時に、それに取って代わる投資案件が少なくとも現時点では出てきていないのです。

 このように書き進めてきた今現在も、優良な住宅物件を追い求めて走り回る中国人民の姿が脳裏によみがえってきます。中国という国の経済を読み解くためには、中国共産党による政策に加えて、中国の国民性、生きざまにまで踏み込んでみることが重要です。