中国の春節(旧正月)が近づいています。2022年は2月1日。新型コロナウイルスの影響もあり、直近2年は中国の人々も例年とは異なる心境、スタイルでお正月を迎え、過ごしているでしょう。しかし、春節を巡る目玉の一つは何といっても「消費」。彼らは、一年に一度親族が集結する場で何にお金を使い、それをどう人生の成功につなげているのか。今回、解説していきます。

中国国民は年末年始をどう過ごすのか?

 私は2003年に単身北京へ赴き、それから2012年まで過ごしました(うち半年は上海)。その後、拠点を米国に移してからも事あるごとに中国各地へ足を運び、2016~2017年には遼寧省瀋陽市、直近では中国の特別行政区である香港で日々を送っていました。

 現地で生活することの意義は、何といってもそこで暮らす人々の息遣いや表情、その裏に潜む意識や姿勢を直接感じられることです。経済活動というのは人々が営む生活から成り立っているわけですから、仮に一国、一社会の経済を理解しようとするのであれば、究極的にはそこに住んでみること、実体験や肌感覚をもって各種統計やデータを“立証”することが大切だと考えてきました。

 その意味で、かれこれ2年になるコロナ禍で移動や出入国に制限が加わっているのは、国際関係を現場からひもといていきたいと考える私にとっては相当なストレスになっていますし、中国経済への分析にとっても不利に働いています。

 私たち日本人にとっても「年末年始の過ごし方」というのは毎年テーマに挙がるように思いますが、中国でも同様です。そして、両国を問わず、そこには一定のパターンというか、規律が存在するようにも思えます。

・家族が実家に集結する。
・国土全体で帰省ラッシュが起こる。
・大みそかからお正月にかけて特定のテレビ番組を見る。
・衣服や家具などを買い替える。
・過去の1年を振り返り、新たな1年の抱負を語る。

 などが思いつくところですが、中国で生活してきた人間として、毎年春節の季節になると目につくのが「春運」(チュンユン)と呼ばれる民族大移動です。コロナ前の2019年には、春節前後の40日間で、延べ30億人が帰省のために移動しました。中国でしばしば議論される点ですが、仮に、(延べである点を考慮し、あえて少なく見積もって)帰省のために一人300元(約5,000円)使ったとして、全国民の交通移動だけで9,000億元、日本円にすると約16兆円に上る計算になります。

 帰省すると、人々は「紅包」(ホンバオ)と呼ばれるお年玉を渡し合います。日本のように、大人から子供だけに渡されるのではなく、成人同士でも親族、知人、友人、同僚などの間で現金が駆け回ります。最近では、スマホアプリのWeChat(微信)にも「紅包」機能があり、キャッシュレスでお祝い金が支払われるようになっています。

 中国の人々はとにかく食を重んじます。地域差はありますが、特に春節期間中は、食にお金をいといません。しかも、大みそかから始まり、お正月当日、それから数日間くらいは昼夜問わず、あらゆる宴会に臨みます。そのたびに酒やたばこ、特産品や果物などがお土産として手渡されます。

 また、お正月は、一年に一度親族が集まる記念日でもありますから、古い衣服や家具を買い替える、とにかく新たな姿勢で新年を迎える、そのためにまずは形から入る傾向があります。そして特筆すべき点として、これらの消費をみんなに見える場面で行うことに、中国的な意味があるのです。

春節の経済効果は?

 ここからは春節には一体どの程度の経済効果が期待できるのか、過去のデータも参照しつつ考えていきたいと思います。今年の春節は2月1日、国が定める正式な休暇は1月31日(月)から2月6日(日)の7日間となっていますが、主にこの期間に期待できる経済効果はどんなものなのか。

 コロナ前の2019年、中国政府は春節期間中(2月4~10日)における、全国の主要な小売り・飲食業の売上高(上記の交通などは含まない)が初めて1兆元(約18兆円)を突破したと高らかに宣言しました。それまでも、春節期間中の小売り・飲食業の売上高は年々上がってきていて、2013年に5,000億元、2014年に6,000億元、2016年に7,000億元、2017年に8,000億元、2018年に9,000億元を突破したという政府統計が発表されています。

 長期休暇における観光も消費を促す重要な要素です。2019年の春節期間中、全国の観光者数は延べ4億1,500万人で前年同期比7.6%増、観光収入は5,139億元(前年同期比8.2%増)でした。ここ2年は新型コロナの影響で人の移動が制限される中、特に観光業界などは低迷してきました。変異株オミクロン型が流行し、北京冬季五輪期間中ということもあり、2022年の春節も、過去2年間同様人の往来には一定の制限が加わるでしょう。

 全国各地の政府当局も、「感染症対策は怠らないように」と呼び掛けているほか、昨今の供給不足を受けて「浪費はしないように」、あるいは「食の安全に注意するように」などと情報発信を続けています。人々の消費活動に多かれ少なかれ心理的影響を与えずにはおかないでしょう。

 とはいうものの、中国国内では現在、ロックダウン(都市封鎖)されている地域以外では、感染症対策を徹底しつつ基本的には自由な経済活動が行われています。猛烈な勢いで発展するデジタル経済の追い風を受ける中、2022年の春節期間中、小売り、飲食業、観光業といった分野で消費がどこまで回復するか、あるいは過去を上回る形で加速するのか、全国人民代表大会(全人代)が開催される予定の3月上旬辺りに振り返ってみたいと思います。

中国国民にとって消費はメンツ、投資は人生

 パート1の最終部分で「中国的な意味」という意味深長な表現を用いました。本稿の最後に、中国人民にとって、消費とは何なのか、投資を通じて何を実現していきたいのか、という国民性、生きざまの部分に迫っていきたいと思います。投資を知る、考える上での一例としてご参考いただけると幸いです。

 これまで中国の人々とコミュニケーションを取ってきて、中国人ほどお金を手段、より突っ込んで言えば、「たかが手段、されど手段」だと捉えた上で、したたかにお金を使っている国民を私は知りません(ユダヤ人とかもそれに近いのかもしれませんが)。

 例えば、中国人の多くは、生活に必要な最低限以外、キャッシュ(現金)など持ちません。よほど金利が良い場合を除いて、預金として銀行に眠らせておくこともしません。彼ら・彼女らは、「お金は生き物」、回し、動かしてこそ、価値が生まれると考えます。

 ただ、お金を回す上でも、戦略を練ります。一時期はやった理財商品(投資信託の一種)、および株式・債券投資を中国人は重視します。しかし、これらの投資は基本的に自分の中、最大で家族や仲の良い知人だけが知るところになり、投資を通じてどれだけもうかっているのかは自分の中で消化する類いの話です。

 とりわけ春節という時期に台頭してくるのが、それとは異なる、社会的に可視化される消費・投資です。例えば、高校の同級生が集まる同窓会でみんなにごちそうすることで存在感をアピールする。田舎に帰省する際に、全身を高級ブランド「シャネル」でコーディネートし、新たに購入した高級車「メルセデス・ベンツ」を披露する。「紅包」を無制限に配りまくる。こうした消費は、消費自体が目的なのではなく、親族や友人といったサークルにおいて自らの存在感、影響力を増すため、結果的に仕事やプライベートを含め、自らの人生がより円満に運行するための先行投資なのです。

 中国の人々は、特に春節といった期間には、このような明確な意識を持ってお金を運用する人がほとんどです。まさに「理財」(財産を管理する=資産運用=ファイナンス)にほかなりません。

 そして、理財という観点から、中国人のメンツとしての消費、人生としての投資と切っても切り離せないのが不動産です。いくら消費旺盛な中国人といっても、不動産よりも大きな買い物というのは人生を通じてなかなかありません。住宅を何件持っているか、いつどのタイミングで、どこにあるどんな物件を買うかは、周囲が自分を見る目に変化を与え、自らが描く、自らに有利なサクセスストーリーを築くための、最大の先行投資なのです。

 不動産といえば、関連業界も含めれば、中国GDP(国内総生産)の2~3割を占めるといわれる主要産業です。昨年は、不動産関連への融資が規制されたり、不動産大手・恒大集団の債務危機が取り沙汰されるなど、業界全体に不安が広がりました。しかし、私は不動産業界、およびその中国経済への影響が低迷するとは決して思いません。それ自体が中国経済にとって欠かせないという客観的国情もありますが、ある意味それ以上に、14億人以上いる中国の国民が、不動産を自らのメンツを最大化してくれる消費だと集団的に認識しているためです。彼らにとって、不動産は自らの人生を豊かにしてくれる最大の投資であると同時に、それに取って代わる投資案件が少なくとも現時点では出てきていないのです。

 このように書き進めてきた今現在も、優良な住宅物件を追い求めて走り回る中国人民の姿が脳裏によみがえってきます。中国という国の経済を読み解くためには、中国共産党による政策に加えて、中国の国民性、生きざまにまで踏み込んでみることが重要です。