気になるあの本をチェック!
会社四季報 2022年1集・新春号
答えてくれた人
東洋経済新報社 編集長 冨岡 耕(とみおか こう)さん。 早稲田大学理工学部卒業。2007年に東洋経済新報社入社。第一編集局に配属、『会社四季報』編集を担当後、企業情報部チームリーダー、『週刊東洋経済』副編集長を歴任。2021年4月に『会社四季報』副編集長となり、同年10月に編集局会社四季報センター会社四季報編集部担当部長兼『会社四季報』編集長に就任。 |
どんな人にオススメ?
・日本株投資を始めたが何を買ったらよいか分からない方
・銘柄を自分で納得して選びたい方
・投資初心者から脱却したい方
この本の、ここが読みどころ!
「会社四季報」は1936年に創刊して以来、企業情報収集の定番として、プロの投資家や個人投資家の皆さんにご愛読いただいている投資雑誌です。長年にわたって支持されてきた主な理由は「網羅性」と「継続性」です。
四季報は創刊以来、年4回刊行しており、国内の証券取引所に上場している3,800社を超える全社を掲載しています。その全ての企業で、所在地や従業員数などのほか、財務や株価、株主などの各種データを網羅しています。
データブックとして価値が高い四季報ですが、中でも特徴的なのが業績予想についてです。すべての会社に担当記者を配置しており、取材に基づく独自分析の業績予想を今期と来期の2期分を掲載しています。
四季報記者が会社計画と異なる独自予想をした場合、最終的に会社が四季報予想に近い水準の決算数値で着地するケースが少なくありません。株価を動かす最も大きなインパクトは、業績の変化です。四季報は先取りした独自の業績予想を出しており、多くの投資家が気づく前に業績変化を察知できることになります。
業績変化は会社ごとの掲載ページの欄外に一目でわかるマークをつけています。前の号から大きく引き上げた場合は「↑↑」、逆に引き下げた場合は「↓↓」となります。また会社予想を大幅に上回る独自予想は「ニコちゃんマーク」、大幅に下回る独自予想は「悲しいマーク」などです。ページをぱらぱらめくるだけでも、業績変化が大きい会社をすぐに見つけることができます。
記事前半は業績欄で、冒頭の見出しが重要です。主に本業の儲けである営業利益の動向に焦点を当てて説明したもので、「最高益」「急回復」など過去実績との比較や、「増額」「上振れ」など前号予想からの変化がわかるキーワードを入れています。
その中でも「独自増額」は記者が独自の予想をしており、なおかつ会社計画との差が大きい場合に使っています。こうした見出しも銘柄探しの参考になります。
編集者の制作秘話
記事後半は材料欄で、その会社の中期的なトピックや課題などについて書かれています。新規事業の取り組みや中期経営計画、新工場の建設計画、新商品、資金調達方針など多岐にわたります。
最近では「脱炭素」や「キャッシュレス」、「5G」、「AI」、「メタバース」などのキーワードが注目されています。世の中のトレンドは株式市場で「テーマ」といわれ、関連する業界があるというだけで、その会社の株価が大きく上昇したりすることもあります。
会社の特徴や強みを瞬時に理解できるのが【特色】です。わずか2行の文章ですが、その会社の特徴、由来、主な事業、業界内での地位やシェア、系列、企業グループなどをコンパクトに解説しています。
たとえば、ヤマハ発動機の【特色】をみると、「楽器のヤマハ発祥」とまず由来があり、2輪で世界大手とあります。さらに、稼ぎ頭はマリン、強化しているのは産業ロボットというのがわかります。またトヨタ自動車と提携していることも書いてあります。
次に【連結事業】をみると、収益の柱を把握できます。ヤマハ発動機の場合、2輪にあたるランドモビリティが売上高比率64%と最も大きいですが、営業利益率は2%に止まっています。一方、マリンの売上高比率は22%ですが、営業利益率は15%と好採算であることがわかります。また【海外】90とありますが、これは海外売上比率が90%と高く、国内よりも海外を主戦場にしている会社ということになります。
会社の基本情報として、【設立】【上場】も大事な判断材料となります。設立年月は原則として、株式会社として登記した年月を示しています。古い会社は戦後の混乱期やバブル崩壊など数々の荒波を生き残ってきた証となります。上場企業で最も古い会社は、加賀蕃前田家の城大工を起源とする松井建設です。設立は1939年とありますが、【特色】で1586年創業と触れています。
【株主】欄で会社の真の支配者を知ることもできます。上位の株主を見れば、グループ企業なのか、子会社なのか、オーナー会社なのか、一目でわかります。創業者やその資産管理会社が筆頭株主の場合、トップダウンで迅速に経営判断をすることが可能になり、急速に業績を拡大することができます。たとえば、アパレル大手「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、創業者の柳井正会長兼社長が約20%の株式を保有し、筆頭株主になっています。オーナー企業の場合、こうした強みがある一方、独善的なワンマン経営になるリスクもはらんでいる点に注意が必要です。
また【株主】欄では外国人や機関投資家に人気かもわかります。日本市場で外国人投資家の持ち株比率は約3割、売買代金に占めるシェアは6割を超えています。相場を大きく動かす主役は外国人投資家であり、外国人持株比率が上昇している会社に注目してみるのもいいと思います。
【仕入先】【販売先】も役立ちます。販売先に優良企業の名前が並んでいれば、販売代金の回収をあまり心配する必要はありません。その反対に仕入先や販売先が不安視される会社があった場合は注意が必要です。
株式市場では連想買いがよく行われます。ある企業の株価が上昇したときに、関連する企業の株式も連鎖的に買われるというものです。関連企業を知る手がかりとして、仕入先や販売先の企業名は重要です。
ここに上げたのはほんの一例です。四季報の使い方は皆さん次第です。四季報は3カ月に1度、アップデートして発売されます。毎号ごとに業績動向や新たな取り組みなどを定点観測していけば、新たな気づきがあるはずです。四季報初心者の方は「会社四季報 公式ガイドブック」(東洋経済新報社)も併せて参考にするとためになります。多くの投資家が気づく前に、未来のトヨタやソニーを探してみましょう。
その他、会社四季報関連本をチェック!