これは去る1月13日、横浜にて開催された楽天証券新春講演会2014で講演させていただいた内容を要約したものです。

「何もしない≠ゼロ。何もしない=マイナスの時代」

これは1年前の2013年1月、同じ横浜での楽天証券新春講演会で最初にご覧いただいたスライドです。日本では長い間円高が続いてきたので、資産を日本円で保有している皆さんにとってはこれまで「何もしない」事が、資産を守る有効な手段でもありました。私の講演会にお越しいただいた方には何度もお話させていただきましたが、私はここ数年講演等で「円高は一旦始まると5年間続く。今回の円高は金融危機の起点である2007年7月に始まったので、2012年で終了する可能性が高い。」と申し上げてきました(日本にとって本当のリスク:円安(2011年11月11日)等参照)。大きな要因は、概ね10年サイクルで動いているアメリカの景気であり、5年拡大、5年縮小を繰り返す中で、「物価の安定」と「雇用の最大化」の2つの使命を持つFRBが、それに応じて金融引き締め・緩和を行っているからです。

アメリカの非農業部門雇用者数(総数)を見ると、金融危機以降失われた870万人の雇用は、これまでに90%回復しています。毎月初発表される雇用統計では前月比の増減を見て「予想より数万人上回った、下回った」と市場は一喜一憂していますが、総数の傾向を見ると、いかにそれがナンセンスであるかという事が分かります。というのは総数は1億4,000万人近い数字であり、数万人というのは、総数から見ると殆ど誤差の範囲の数字に過ぎないからです。月々ではこのように、ほんの少しの凹凸はありますが、総数で見るとかなり着実で右肩上がりの回復を示しているのです。このペースで行くと、今年の秋には金融危機以降失われた雇用を全て回復する事になります。そもそも量的緩和というのは、金融危機という100年に一回のショックに対応する形で取られた緊急措置なのですから、金融危機で失われた雇用が全て回復する以上、続けていく意味はありません。FRBは昨年12月から量的緩和の縮小を開始、今年の秋には量的緩和を終了する方針を示しています。その意味で現在のFRBの方針は極めて適切と言えます。

一方、日本では4月から消費税が引き上げられます。先進国の中でも日本は、今年財政が引き締められる珍しい国の一つです。財政が引き締めに入る以上、その分金融政策には負担がかかる事になるでしょう。既に追加緩和期待も出てきていますが、追加緩和が実施されなくても、日本は比較的長期間に渡って緩和を維持しなければならない時期が続くでしょう。この結果日米金利差が拡大し、為替市場では中長期的にドル高円安が進行しやすい状況が続くと見ています。金融危機後、アメリカが積極的に金融緩和を実施する一方で日本が金融緩和に消極的であった結果ドル安円高が進行しましたが、今は正に、その全く逆の状況が起こっているのです。

日本円を持っている人にとって、これまでは「何もしない」事が資産の保全手段になってきましたが、これからはそうはいきません。むしろ「何もしない=マイナスの時代」に入っていると言えます。実際1年前、このようなお話をさせていただきましたが、それからドル円は25%上昇しています。去年持っていた100万円は、見かけは同じ100万円かもしれませんが、去年80円で買えたドルは100円以上でしか買えなくなっています。実質的に100万円の価値は既に下がっているのです。そして前述の通り、アメリカと日本の景気の状況を考えると、これからますます円の実質的価値が低下していく可能性が高まっていると言えます。

さらに去年、アメリカの株式相場は30%上昇しました。円をドルに換えてアメリカ株を買っていた人の資金は50%以上増えています。「何もしない」人の資金は100万円のままかもしれませんが、そういう人と比べると相対的にはマイナスという事になります。それではこのようなマイナスを防ぐにはどうすれば良いのでしょうか?少なくとも、資産の一部は円以外で持つべきです。これまでアメリカ株に投資するというのはリスクが高いとか、積極的な投資のように見られたかもしれませんが、これからはむしろ、資産のマイナスを防ぐための防御策と考えなければならない時代に入っているのです。

去年は「堀古もそう言ってたし、アメリカ株投資を始めようかと考えたけど、ニュースを見て躊躇してしまった」という方もいらっしゃったのではないかと思います。そして躊躇した理由の一つは、アメリカ経済や株式に関してネガティブなニュースを見てしまったからではないでしょうか。これに関し近年、そのニュースを流す側のメディア業界に大きな変化が起こっている事に触れないわけにはいきません。 ~続く

(2014年3月4日記)