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バフェット・ルール
堀古 英司
ウォール街から~米国株の魅力~
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーである堀古英司氏による週刊レポート。単なる分析にとどまらず、出来るだけ「裏を読む」という観点で米国経済、市場についてお伝えするコーナーで…

バフェット・ルール

2012/4/16
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーとして活躍する堀古英司氏による米国市場レポート「ウォール街から~米国株の魅力~」。お客様の投資のヒントにお役立てください。
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昨年8月NYタイムズ紙に、著名投資家であるウォーレン・バフェット氏の「大金持ちを甘やかすのはやめよう」という寄稿が掲載されました。簡単に内容を要約すると、バフェット氏個人の所得税率は17.4%で、33-41%である社内の誰よりも低い、議会が10年間で少なくとも1.5兆ドルの財政赤字を削減しないといけない時に大金持ちを甘やかしている場合ではない、所得100万ドル以上及び1,000万ドル以上の者に対する税率の即時引き上げを提案する、といった内容です。

この寄稿は多くの反響を呼びました。一見「税金など金持ちに払わせておけばいい」と考える人に対しては政治的に受けが良さそうに見えますが、アメリカでの反応は複雑です。批判的な内容としては、「世界3位の富豪であるバフェット氏が17%しか納税していないのはけしからん」「そう思うのなら自主的に追加納税すればいい、他人を巻き込むな」「既に莫大な資産を築いた人が、これから築こうとする人のチャンスを奪おうとしている」といったところでしょう。一方でオバマ大統領をはじめとする民主党は全面的にこの提案をサポート、所得100万ドル以上の人に最低30%の税率を課す事を選挙の公約に掲げています。

バフェット氏の税率は17%なのは、2003年のブッシュ減税で、1年以上保有している証券等に対するキャピタルゲイン税率が15%に引き下げられた事が影響しています。現在アメリカの連邦最高所得税率は35%ですが、キャピタルゲインが殆どであるバフェット氏の税率はこの15%に限りなく近付いているという事です。

ここで一度、2003年にキャピタルゲイン税率が引き下げられた背景を振り返ってみたいと思います。多くの方がご存知ないかもしれませんが、実は当時のキャピタルゲイン税率が引き下げには、実は2001-2年にかけて大きな問題になった不正会計問題が影響しているのです。2002年以前は、企業が資金を調達したい場合、社債で調達すればその利子は企業レベルで損金計上、投資家レベルで最高38.6%の税率が課せられていました。一方で株式で調達した場合、企業の利益は法人税で35%課され、投資家レベルで(キャピタルゲイン又は配当課税の形で)20%課されていたのです。要すれば、社債だと税金は合計38.6%、株式だと48%(1-0.65X0.8)なので、税勘案後の企業の負担は社債の方が軽かったという事になります。

エンロンやワールドコムのような不正会計問題が多発したのはこのように、株式によりも、借入れによる調達が税制上優遇されていたために、企業が借入れを積極化させた事が一因と見られました。実際業績が行き詰まり、借金返済に困った挙句不正会計に走った企業が殆どでした。2003年ブッシュ減税でキャピタルゲイン税率及び配当税率が引き下げられたのは、この借入れと株式の間の税制上の不公平を緩和し、不正会計のような問題の再発を防止する狙いがあったのです。

なのでバフェット氏の所得税率が17%といっても、それを額面通りに受け取るのは誤りです。バフェット氏が資本を投じる事によってその企業に利益が(もちろん新規の雇用も)生まれ、間接的にバフェット氏は法人税の形で35%を納めているのですから、実質的な税負担は46%(1-0.65X0.83)という事になります。そもそもバフェット氏がそのような投資を行っていなければ、アメリカ政府は法人税の35%も所得税の17%も得られていないのです。それどころか、その事業に伴う雇用も創出されていなかった事になります。ですので、ここで本当に考えないといけないのは、今後次世代のバフェット氏がこのような投資を実行するという判断が出来るように、税制上の環境を整備しておかなければならない、という事なのです。

どこの国でも多かれ少なかれ、税収の多寡は経済成長に大きく依存しています。学生さん等から「経済成長が何故必要なのか」という質問をよく受けますが、今日本で問題になっている、年金も医療も介護も経済が成長しないと維持不可能な仕組みになっているのです。メディアが取り上げる財政問題でよくあるのは「お金は要る、しかし財源がない、さてどうしよう」で終わるパターンです。それなら何故、最初から経済成長に焦点を当てないのか、私はいつも疑問に思っています。税金の集め方も、より経済成長につながる形である事が重要であると思っています。そのためには資本主義社会において景気が悪い時、又は財政を再建しないといけない時は、資本の金融緩和資本の金融緩和(2011年2月4日)は最優先課題でなければならないはずだと思います。

そういう意味では、もしバフェット・ルール(所得100万ドル以上の人に最低30%の税率を課す)を採用し、かつ「次世代のバフェット氏」の投資を妨げないようにするには、法人税の引き下げが不可欠という事になります。現行の法人税率は35%、キャピタルゲイン税率は15%なので株式に対する合計税率は45%(1-0.65X0.85)。これを変えないようにするだけで、法人税率は21%(1-0.65X0.85/0.7)に引き下げられなければならないという事になります。そうでなければバフェット・ルールは資本に対する実質増税になり、税収増を狙ったつもりが、実は投資抑制を通じて雇用や税収減につながる事になりかねないのです。

11月の大統領選挙に向けては、オバマ大統領、ロムニー候補共に法人税率引き下げを提唱しているので、何らかの税率引き下げは実現しそうです。ただ法人税率とキャピタルゲイン・配当税率を総合した実質の資本税率は選挙の行方によって大きく異なる事になるでしょう。そしてそれは、その後のアメリカの経済成長、延いては財政再建の道のりに大きく影響を与える事になりそうです。

(2012年4月13日記)

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