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「大き過ぎて潰せない」再び
堀古 英司
ウォール街から~米国株の魅力~
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーである堀古英司氏による週刊レポート。単なる分析にとどまらず、出来るだけ「裏を読む」という観点で米国経済、市場についてお伝えするコーナーで…

「大き過ぎて潰せない」再び

2011/9/26
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーとして活躍する堀古英司氏による米国市場レポート「ウォール街から~米国株の魅力~」。お客様の投資のヒントにお役立てください。
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7月以降、大手欧州銀行株が急落となっています。BNPパリバ、バークレー、RBS、ドイツ銀行など欧州を代表する銀行の株価下落率は軒並み40%以上(現地通貨建)に上っています。そしてこれら全ての銀行に共通するのは資産規模で世界のトップ10に入るメガバンクである事、即ちToo Big To Fail(大き過ぎて潰せない)金融機関である事です。

私のギリシャ問題に対する見方は1年以上前にここギリシャ問題は2008年アメリカのデジャ・ヴ(2010年5月6日)に書かせていただいた通りです。要するに、政府というのはオオカミ少年で、大袈裟な声明や流動性供給など、出来るだけカネ(財政)のかからない方法を使って市場を沈静化しようとするものです。ギリシャ問題に関してもこの1年以上、大袈裟な声明や流動性供給など、その場しのぎの策は何度も発表されましたが、ギリシャに資本を注入する、又は債務免除するなど、根本的な解決策はこれまで何一つ示されてきませんでした。当時この根本的な解決策に着手していれば、かかるカネ(財政)は今よりもずっと少なくて済んだ事でしょう。そしてリーマンショック時のように「大き過ぎて潰せない」金融機関に対する対応も必要最小限で済んだと思います。従ってこの1年強の間の状況悪化は、いわばEUによる人災と言っても過言ではありません。

大袈裟な発表

9月16日、日欧米の中央銀行がドル資金供給で合意、との声明が発表されました。しかし中身を見てみるとこれは金融危機後、一時期を除いてずっと実施されている流動性スワップ協定に他なりません。よくもまあ、新しい声明のように発表するものだと半ば呆れてしまいました。もっと言えばメディアも何故、新しい声明のように報道してしまうのか、不思議でなりません。案の定、一旦は騙されて上昇した市場も、翌週には急落です。

問題先送り

繰り返しになりますが、ギリシャのような、いわば借金地獄に陥った国にいくらお金を貸しても問題の解決にはなりません。資本を注入するか、一旦債務を再編し、新しいスタートを切れるようにするしか解決方法はないのです。しかしEUはまだ金融支援や資金供給など、お金を貸す、貸さないの議論ばかりをしています。これは2008年のアメリカの例で言うとまだ、リーマンショック前の段階です。確かに公的資金を注入したり、債務を再編するのは誰かの負担になる訳であり、大変な痛みと調整が必要になります。2008年のアメリカでも金融機関への公的資金注入は議会で一旦は否決されるなど、簡単ではありませんでした。しかしこの過程を避ける事は問題の先送りであり、ますます問題が大きくなっていくだけです。

遅い対応

ユーロ圏は17カ国の集合体であり、それぞれの国で政治事情が異なっています。ユーロとして重大決定をするには各国で調整が必要で、特に今回のギリシャのような問題をどう処理するかのコンセンサスを簡単に得られる訳はありません。だからこそこのような問題はユーロ発足時にきっちり取り決めをしておくべきだったのです。これはユーロ発足当時から指摘されていた問題です。

隠蔽体質

欧州のストレステストほどオオカミ少年と言われるものは無いでしょう。去年の1回目のストレステストの結果も不信を買うものでしたが、7月に発表された結果はそもそもギリシャ国債の債務不履行を前提にしていない、全く役に立たないものでした。今後、市場は2度と欧州のストレステストを信用する事は無いでしょう。ちなみにこれはドイツ銀行のCEOが今月フランクフルトで行った講演での発言です。「これは公然の秘密だが、銀行が保有するソブリン債を時価で引き直さなければならないのなら、欧州の多くの銀行が破綻に追いやられる事になろう。」

欧州危機はリーマンショック、又はそれ以上に発展する可能性がどんどん高まってきています。リーマンショックと似ている点は、欧州の金融機関はソブリン向け与信に関しては規制上追加資本が必要なく、従ってCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を売る事は、あたかも無リスクでお金が入ってくるような取引であった事。これはアメリカで、リスク最上級の格付けAAAを付与されていたサブプライム住宅ローン関連証券を、実際のリスクを勘案せずに、他のAAA証券よりも利回りが高いという理由で金融機関が購入していたのに似ています。

異なるのは、アメリカの住宅バブルがせいぜい、2003年から2007年の4年間の現象であったのに対し、欧州危機はユーロという通貨が導入されて以来、12年以上に渡って積み上がってきたシステムの欠陥である事。ソブリンという、通常のAAAよりも信用が高く規模の大きな市場であるという事。そして欧州の金融機関を合わせると、資産規模はアメリカよりもずっと大きい、という事です。とりわけ問題がギリシャを初めとする小国にとどまらず、イタリア、スペイン等に飛び火するような事になれば、莫大な金額に膨れ上がってしまいます。

そしてそれを解決する手段があるか、です。2008-9年のアメリカや欧州は今に比べれば財政にも金融にも余裕がありました。しかし今は、連邦債務は法定上限に達し、金利はほぼゼロまで下がって非伝統的金融政策を発動しなければならない状況、欧州は文字通りの財政危機です。さらにオバマ大統領もサルコジ大統領も来年に選挙を控えています。大手金融機関救済によってあれだけ支持率を落とした2人が、今回大手金融機関の「もしも」に対してどのように対応するでしょうか? 例えばFDIC(連邦預金保険公社)は大手金融機関に対して、「もしも」の際に備えて「遺言状」を作成させる決定をしました。「もしも」の際、大手金融機関をこの遺言状に基づいて粛々と清算するためのものです。大手金融機関が救済でなく清算となった場合、そのショックはどのように波及していくでしょうか?

今後考えられる最善のシナリオは事前調整型の、比較的小規模国の債務再編でしょう。EUがこれまでのような、大袈裟な発表、問題先送り、遅い対応、隠蔽体質を即座に改め、早期に痛みの伴う公的資金や債務免除の調整に着手する事です。一方最悪のシナリオは、EUの体質が変わらず、結果としてリーマンショック以上の金融危機に発展してしまう事でしょう。

(2011年9月23日記)

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