1月下旬以降の株式相場下落の要因として、EU加盟数カ国の信用不安、いわゆるソブリン・リスクと、オバマ大統領が発表した新金融規制案(ボルカー・ルール)がよく挙げられます。ニュースを見ていると、ここに来て株式相場に対する悪材料が次から次へと出てきている、と受け止められるかもしれません。しかしこの、一見独立した問題のように見えるソブリン・リスクと新金融規制には、実は共通した背景があるのです。それはソブリン・リスクも新金融規制も、ゼロサム・ゲームの産物だという事です。
破綻はレバレッジ倍率の高い順(2009年7月28日)で書かせていただいた通り、2007年前半から一貫して進行しているのは、住宅をはじめとする資産価格が下落しているという事です。サブプライム、モノライン、リーマンショックなど色々ありましたが、全てに共通しているのは資産価格の下落です。資産価格が下落しているので、それをファイナンスしている負債が多い順に危機が訪れるのは当然です。危機は色々な所に順番に訪れていますが、根本的な資産価格の下落が止まらない限り、今後も様々な所に危機は訪れるであろうという事です。
その一つが今回顕在化したソブリン・リスクでしょう。昨年11月、市場にドバイ・ショックが走りましたが、私は講演会等で、これも資産価格下落がもたらす一つの危機の形だと申し上げました。ドバイ固有の問題と捉えると、この先起こるであろう事は読めなくなると考えていたのです。最近になって注目を浴びているギリシャやポルトガルも当然、政治情勢など固有の問題は抱えています。しかしいずれのソブリン共通の背景にあるのは、いわゆるリーマン・ショック以降の金融機関に対する公的資金の注入や景気刺激策に伴う財政悪化です。
資産価格の下落に伴って、破綻はレバレッジの高い順に訪れています。
100倍+のモノライン、50倍+の政府系住宅金融機関、30倍+の証券会社、10倍+の銀行に危機が及んだ所で政府は積極的な救済に乗り出しました。しかしこれは、銀行が負担すべきリスクが政府に移転しただけです。根本的な問題である資産価格の下落が解決しない限り、今度は政府のリスクが大きくなっていくだけです。これが最近になって広がり始めたソブリン・リスクです。私は、ソブリン・リスクの最終到達点はアメリカ国債のトリプルA引き下げだと考えています。
このリスクを感じ取っての事でしょう。今度は政府が、移転され過ぎたリスクを銀行に戻す動きに出ています。これが新金融規制です。実はリーマン・ショック以降も、そもそもの問題である「大き過ぎて潰せない」は全く解決されていません。そればかりか、金融危機がピークに差し掛かった2009年春、財務省は実質的に大手19行の保護を宣言する事によって金融市場を沈静化させたのです。即ち、政府は今でも「大きすぎる金融機関」を救済しなければならないという大きなリスクを負っており、これを新金融規制によって金融機関に戻そうとしているわけです。一言で言えば、資産価格の下落という、根本的な問題が解決されていない中、政府と金融機関でリスクをキャッチボールしているだけの、ゼロサムゲームだという事です。
相場というのは、大きなトレンドと、その中に波があるものです。現在の相場で言えば大きなトレンドというのは資産価格の下落であり、最近で言うと、ソブリン・リスクや新金融規制は波でしょう。政府がリスクを引き取ったから終わる問題でもないし、金融機関にリスクを押し付けたからといって終わる問題でもないのです。資産価格の下落が止まる、又はその兆候が見えない限り、波に騙されないよう注意が必要です。
その意味では、去年春からの相場上昇局面も波でしょう。確かにケースシラー住宅指数で見て、住宅価格は去年春から4.3%上昇しましたが、基本的には2006年の水準から30%下落したままの底ばい状態です。住宅価格に大きな影響を及ぼす要因は主に2つ:住宅ローン金利と雇用情勢です。しかし連銀は3月末をもって住宅ローン証券の買取を終了します。雇用情勢は時間との勝負です。失業率10%前後が長引けば長引くほど、これまで住宅ローンを返済できた人もできなくなっていきます。そして今の所、雇用情勢が速やかに改善する兆しは見えていません。このような中、大きなトレンドである資産価格の下落は変わらないと見ています。
大きなトレンドが変わらない限り、今後も様々な所にリスクや危機が訪れるでしょう。そして投資家には、その多くが波である事を見極める目が求められています。


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