当コラム2009年4月9日号(「問題先送り」で相場は上昇へ)の最後で、「先送りされた問題がいつ再び顕在化してくるか、は今後の大きな課題ですが、それを考える時間、即ち反発の時間はこの先十分あるのではないかと考えています。」と書かせていただきました。実際、相場はそれから7カ月強にわたって反発してきましたが、そろそろ先送りされた問題が再び顕在化してくるタイミングに差し掛かってきていると見ています。野球で言えば9回の表、即ち延長戦はあるかもしれない一方で、いつ終わってもおかしくないという感じでしょう。

金融危機を受けて昨年以降実施されてきた様々な対策や保証が、今後半年以内の間に次々と期限切れとなります。春からの株式相場回復局面を支えてきたのは7,800億ドルに上るオバマ経済対策と、10兆ドル以上に上る政府による様々な保証です。しかし自動車買い替え策は8月で既に終了、新規住宅購入支援策は何とか来年4月まで延長されましたが、その後再延長がないのはほぼ確実です。オバマ経済対策はかなり前倒し型になっていて、最も効果が強く表れる7-9月期は既に過ぎてしまいました。さらに財務省、連銀、預金保険公社(FDIC)等が実施してきた様々な保証もこの先半年で次々と失効していきます。リーマン破綻をきっかけに設定されたMMF(マネー・マーケット・ファンド)の保証は既に9月で打ち切られましたし、10月末をもって連銀による国債買取が終了しました。住宅ローン担保証券の買取は来年春まで延長される事になったものの、連銀はその額を順次減少させていくと発表しています。

これら一連の対策や保証は、いわゆる「リーマン・ショック」を受けて緊急措置的に導入されたものです。金融システムが麻痺してしまうかもしれない、という緊急事態に対する応急措置であり、根本的な問題である不良債権問題の解決を目指したものではありません。そもそも財政的にも時間的にも不良債権問題解決にまで手が回らなかったのが実情で、だからこそこのような「先送り措置」になってしまったのです。危機が去った今、このような緊急措置的な対策はなるべく速やかに終了しないと副作用を生んでしまいます。しかし現在のアメリカ経済の状態だと、投薬を止める事によって元の病気、即ち不良債権問題が再発してくる可能性の方が高いでしょう。しかもそれが顕在化してくるまでの時間もそれほど長くなくなってきているように見えます。「カネの切れ目が回復の切れ目」という事です。

もっとも、今年春に実施されたストレス・テスト(資産査定)をもって、財務省が大手19行は守ると宣言しているのですから、今後予想される危機は「リーマン・ショック」のような形態を取るものではないでしょう。今後投資家として注意すべき点は、住宅をはじめとする資産価値下落による資本不足を誰が担う事になるのか、です。ケース・シラー住宅価格指数は、多くの住宅保有者の自己資本が既に消えている事を示しています。個人は消えた自己資本を補充するため、貯蓄率を上昇させる方向に動き始めるでしょう。これは世界経済の牽引役を果たしてきた米国の個人消費の落ち込みを意味します。

さらに不良債権が増加した場合、その負担は銀行が担うのか、政府が担うのか、が問題になります。例えば9月末、FDICは枯渇した預金保険基金の補充のため、銀行に3年分の預金保険料の前払いを提言しました。これは典型的な政府から銀行への負担シフトの例です。負担は小さいものではないため、FDICの提言通り実施されれば、特に中小地銀は今後更に厳しい局面をむかえる事になるでしょう。銀行破綻に伴うコストが想定以上に膨れ上がり、政府に負担が来る場合はアメリカ国債が「景気が悪いのに長期金利が下がらない」とかドルの下落という形で表れてくる事になるでしょう。不良債権問題第二ステージは「リーマン・ショック」のような形態を取るものではありません。しかし負担がどこに顕在化してくるのか、は今後の株式相場を見る上で大きなテーマになると見ています。実際我々が運用するファンドでもごく最近、それに向けた対策を開始したところです。

(2009年11月17日記)