※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]陰の極、近い?悪材料集中で、日経平均は年初来安値
---------------------------

悪材料集中

 先週(8月16~20日)の日経平均は1週間で963円下落して2万7,013円となり、年初来安値を更新。コロナ・デルタ型猛威で、好調だった世界景気に次々とほころびが見られるようになりました。世界景気の先行きを不安視させる材料が集中し、日経平均は外国人投資家によって売り込まれました。

日経平均週足:2020年1月6日~2021年8月20日

出所:楽天証券MSⅡより作成

 以下が、日経平均下落につながった6つの悪材料です。

【1】コロナ感染爆発で日本の景気回復が一段と遅れる見込み

 8月20・21日は1日当たりの新規感染者数が2万5,000人を超えました。感染爆発を受けて、緊急事態宣言の対象に7府県が追加、「まん延防止等重点措置」の対象も8県が追加されました。期間は9月12日までですが、さらに延長される可能性もあります。内需回復が一段と遅れる懸念が強まりました。

【2】トヨタが9月に4割減産

 トヨタ自動車は19日、9月の世界生産を4割減らすと発表しました。コロナ感染拡大で東南アジアでの部品生産が滞ることから、トヨタも減産せざると得なくなりました。自動車はすそ野の広い産業で、トヨタの減産は日本の製造業全体にネガティブな影響を及ぼすと懸念されます。

【3】中国景気減速

 16日に発表された中国の7月の景気指標は、想定以上の減速を示しました。小売売上高は前年同月比8.5%増(6月は同12.1%増から減速)、工業生産は前年同月比6.4%増(6月は同8.3%増)でした。コロナ変異株がネガティブな影響を及ぼし始めている可能性があります。

【4】米国景気にも減速懸念

 ワクチン接種が進み、景気が好調だった米国でも、デルタ型の感染急増で行動制限がかかる懸念が出ています。7月の小売売上高は前月比1.1%減で、経済成長がやや鈍化する懸念が出ています。

【5】年内に米国がテーパリング(金融緩和の縮小)を開始する見通し出る

 8月18日に公開された7月27~28日のFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録要旨で、FOMCメンバーの多くが、年内にテーパリングが開始されると見通していることがわかりました。これを受けて、18日には米国株が一時大きく下がりました。ただし、コロナ再拡大が懸念される中で、テーパリング開始は時期尚早との見方もあり、FOMCメンバーの見方が割れていることも示されました。

 米国による金融緩和・引き締めは、世界の金融市場に大きな影響を及ぼします。世界中の金融取引でドルが使用されているからです。その意味で、米国の金融政策を決めるFOMCは、世界中の株式市場に影響を及ぼします。

【6】日米とも政治不安

 バイデン政権が米軍のアフガニスタンからの撤退を進めると、武装勢力タリバンが急速に勢力を拡大して首都カブールを制圧しました。アフガン撤退を急いだバイデン政権への批判が米国内で高まることで、バイデン政権の力が低下する可能性があります。そうなると、来年の中間選挙前に、米景気をもう一度盛り上げたいバイデン政権の景気対策が思うように実行できなくなるリスクもあります。

 日本では、自民党総裁と衆議院議員の任期が迫っており、総裁選挙・衆院選という2つの政治イベントが控えています。菅総裁の続投がない場合、強いリーダーシップを発揮できる新総裁が誕生するか予断を許しません。また、菅政権への支持率が低迷する中、衆院選で与党が敗北するリスクもあり、不透明感が高まっていることが日本株の上値を重くしています。

 ただし、こうして不透明材料が増える中、米国株は最高値圏で今のところ堅調です。

日経平均・NYダウ・ナスダック総合指数の動き比較:2020年末~2021年8月20日

出所:2020年末の値を100として指数化、QUICKより作成

 さまざまな悪材料が重なった複合ショックで日経平均は下がりましたが、米国株は高値圏で堅調です。最大の不安材料が、テーパリング開始ですが、コロナの感染再拡大で米景気減速の不安が出ることが、テーパリングの時期を遅らせるとの見方もあることによって、米国株は堅調を保っています。