第2に、「ポートフォリオ・インシュランス」の役割です。1980年代は、機関投資家の株式相場の値下がりリスクに備えたい、という需要に応えるポートフォリオ・インシュランスが広く利用されるようになっていました。いわば「株式の値下がりリスクに備える保険」なので、保険を引き受ける側が株式の値下がりリスクを負うことになります。

 他の保険と同様、金融工学の発達とともに、計算上は株式の値下がりリスクも算出可能になったので、引き受けた側はその計算通りにヘッジしていけば問題はない、はずでした。想定外の下落となったので保険を引き受けた側に損失が発生する、というのは保険の世界ではよくあることですが、問題は引き受けた主体が比較的少数であったということです。

 それによってどのような問題が起こるのか? 引き受けた主体に大きな損失が発生して保険金が支払えなくなると、保険が役に立たなくなるので、保険を買っていた側も自分で株式を市場で売らなければならなくなったのです。これは2008年金融危機の際にも起こった現象で、当時世界最大の保険会社AIGが危機に追いやられたことで、AIGの保険を買っていた主体が慌てて自らあらゆるリスクのヘッジに走り、さらに悪循環を生むことになりました。

 しかし当時と異なり、今では株式の値下がりリスクの担い手はかなり分散されるようになりました。当時のポートフォリオ・インシュランスは、現在はオプションなどデリバティブの形で市場で広く取引されており、その多くは個人投資家でも簡単に取引できるようになっています。

 中には株式相場が下落して慌てるリスクの担い手も居るかもしれませんが、わざわざ好き好んでリスクを取りに行っているような人々ですから、逆に有利な価格になればさらにリスクを取ろうと思う人も多いでしょう。すなわち、リスクの担い手がごく少数に限られていて悪循環を生む可能性が高かった当時と異なり、分散するようになった今では、株式相場下落時のリスクの担い手の行動もさまざまなため、悪循環を生むことなく、十分吸収可能な状態になっていると考えることができます。