執筆:香川睦

今日のポイント

・日経平均は13連騰を記録(19日現在)。世界同時株高とアベノミクス継続期待で外国勢が日本株を買戻し。「衆院選の与党勝利」は織り込み済みでいったん反落の可能性も。

・最高値を更新する外国株式(日本を除く世界株式)は、先行きの業績拡大期待が支え。業績見通し改善がPER拡大をともなえば、日経平均は年度末までに2万3,000円を視野に。

 

世界株高によるリスク選好で海外勢の買い戻しが続く

 内外株式の堅調が続いています。日経平均は、1988年 2月以来29年8カ月ぶりとなる「13日連騰」を記録(19日)し、強気相場の持続を確認しました。特に、世界景気の堅調と業績見通し改善を背景とする世界同時株高を受け、海外勢(外国人投資家)はリスクオン(選好)姿勢を強め、投資マネーの一部が日本市場に流入しています(図1)。

 衆議院選挙(22日)に向けて「与党優勢」が伝えられたことで、政治的安定とアベノミクス継続への期待も追い風となり、株価指数先物だけでなく、現物株の買い越しも断続的に流入しています。

 また、4-9月期の決算発表を間近に控え、国内投資家も好業績が期待できる銘柄を中心に物色しています。今週は米国市場でも主要株価指数が最高値を更新。ダウ平均は史上初めて2万3,000ドルを突破しました(18日)。金利が低位安定を維持するなか、業績拡大期待をエンジンとする「世界同時株高」は日本株高の追い風となっています。

図1:海外勢による日本株の買い越し動向

出所:財務省、 Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年10月19日)

 

外国株式堅調のエンジンは「業績拡大期待」である

 日経平均が約21年ぶり高値まで戻したことで、国内市場の投資家心理が改善しています。ただ、冷静にみると、最近の日本株高は、「米国を中心とする世界株高で外国人投資家のリスクオン(選好)姿勢が強まったことによる好影響が大きい」と言えそうです。

 外国株式(日本を除く世界株式)の上昇には、景気や企業業績の拡大見通しがエンジン(原動力)となっています。図2は、2013年以降の外国株式(MSCI Kokusai Index=日本を除く世界株式指数)と業績見通し(12カ月先予想EPS平均)の推移を示したものです。

 2013年から2014年にかけて日本株高は、世界的株高と為替の円安傾向の追い風を受け堅調。一方、2015年夏から2016年初までの日本株安は、チャイナショック(中国上海株や人民元の下落)、原油相場急落、ディスインフレ(デフレ)観測を嫌気した外国株下落によるリスクオフ(回避)姿勢の影響が大きかったことがわかります。

 そして、2016年央からの世界景気の改善、原油相場の安定、トランプ大統領誕生による景気対策期待などで米国を中心に外国株式は反転上昇。予想EPSの回復・拡大基調に沿い、外国株式が「業績拡大期待」を織り込む強気相場を維持してきた経緯がわかります。

図2:日本を除く世界株式と業績見通しの推移 

注:外国株式=MSCI Kokusai Index (日本を除く世界株式指数)、12カ月先予想EPS平均=Bloomberg集計による市場予想平均
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年10月13日、週次)

 

選挙後の相場見通し-メインシナリオとリスクシナリオ

 衆院選(22日)の投開票結果を踏まえた週明けの相場は、メインシナリオである「与党勝利」が実現しても、相場はほぼ織り込んでおり、利益確定売りが先行する可能性もあります。また、与党勝利でも、その「勝ち方」が相場に影響を与える可能性があります。選挙結果のシナリオ別に、当面の株価動向と選好されやすい業種(セクター)を紹介します。

(1)メインシナリオ(確率7割):日経平均は年度末までに2万3,000円を目指す

 衆議院選挙(22日)の結果、与党(自民党・公明党)が過半数(233議席)超から300議席程度を獲得して勝利する場合、週明けの東京市場では「出尽くし感」による利益確定売りが先行する可能性があります。ただ、外部環境改善と業績拡大期待で株価は徐々に値をかため、強気相場を維持していくと考えています。

 その前提として、日本株はバリュエーション面で評価余地があると思っています。日経平均の現在の予想EPS(1株当たり利益=1,432円)をベースにした予想PER(株価収益率)は約15倍です。PERが16倍程度まで拡大していく可能性をイメージすると、日経平均は今年度末(2018年3月)までを目途に2万2,900円程度(=1,432円×16倍)の上値余地が試算できます。

 この水準は、バブル崩壊後の戻り高値(1996年6月の2万2,666円)を超えるものです。参考までに、2013年以降(アベノミクス相場)における日経平均の予想PERの算術平均は15.6倍で、約7割の生起確率で「平均±1標準偏差=13.9~17.3倍」の範囲で推移してきました。

 為替が円安傾向をたどるなら、10月下旬から公表される決算発表を踏まえ、業績見通しも上振れしそうです。予想EPSが1,450円程度まで切り上がるとするなら、理論的には日経平均の上値余地は2万3,200円(1,450円×16倍)まで拡大します。

 なお、業績見通しの上振れは、市場心理改善をテコにPERも拡大させやすい傾向があります。衆院選挙が与党勝利で終わる場合、与党が公約に掲げてきた「教育費無償化(子育てや教育)」、「原発再稼動」、「防衛(自衛力)強化」から恩恵を受けそうな業種や銘柄が堅調に推移していくと考えられます。

図3:日経平均の想定PER別株価水準 

出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年10月18日)

(2)リスクシナリオ(確率3割):日経平均は1万9,000円まで下落する可能性

 とは言っても、「選挙は水物(みずもの)」との警戒感もあります。実際、2016年には英国国民投票でのEU(欧州連合)離脱決定や米大統領選挙でのトランプ氏当選が「ブラックスワン(まさかの「黒い白鳥」)」として、市場をサプライズに追い込んだ経緯があります。

 万が一、衆院選が「与党敗北」(与党が過半数の233議席割れ=野党の勝利)で終わり、政治的リーダーシップの不在が露呈される事態となれば、経済・金融政策を巡る不安が台頭し、外国人投資家から失望売りが懸念されます。この場合は、為替市場で「リスクオフ(回避)の円買い」が進む可能性があり、業績見通しの下振れ観測も強まりそうです。

 円の反転高を受け、予想EPSが1,400円割れまで下方修正され、PERも14倍を割り込む事態となれば、日経平均はいったん1万9,000円程度まで下落するリスクがあります。ただ、自民党を中心とした連立政権の再構築で政治が安定化に向かえば、日経平均は内外ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を材料視する底堅い動きに回帰していくと考えられます。

図4:シナリオ別の日経平均見通し(予想EPS×想定PER) 

注:上記一覧は、予想EPSと想定PERの積で試算した日経平均の上値目途と下値目途です(参考情報)。現在の日経平均ベースの予想EPSは1432円、予想PERは約15倍となっています(10月19日現在)
出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成