バフェットの指針「企業は利益」が前提

 バフェット氏がいわゆるESG的活動に対して複雑な思いを持っていることは間違いないでしょう。上記はいずれも企業経営者としての発言ですが、バークシャーが上場企業という形をとる投資ビークルであることを考えると、アセット・オーナー(株主)の資金を預かるファンドマネージャーとしての考えとも見ることができます。

 バフェット氏の投資は「永久保有」です。それは、「10年以上保有したいと考えない企業は一瞬たりとも持つべきではない」「市場で売買される証券としての株券として考えるのではなく、企業そのものを持ち分だけ所有する」という発想です。そのバフェット氏にとって最も重要なことは、保有する企業が利益を持続的に上げ続けることです。そして、それが株主の利益につながるのです。

 ここで利益とは何か、ということを考えてみましょう。会計的には利益とは売上から費用を控除したものにすぎませんが、より本質的に考えると、利益とは「顧客が抱えている問題を発見し、解決した対価」です。そうでなければ、その顧客が財・サービスの便益に対して過大な価格を支払う必要はないのですから。

 つまりバフェット氏が永久保有対象とするような「持続的に利益を上げ続ける企業」とは、顧客の問題を解決し続ける企業だということがいえます。そして顧客という概念を広く捉えれば、それは社会の問題を解決し続ける企業だということなのです。

 逆に、いわゆる「ブラック企業」など社会に悪い影響を与えるような企業は、短期的には利益をあげることができたとしても、いずれ従業員や顧客の離反を招き、長期にわたって存続することはできません。

 バフェット氏のように長期で企業を保有する、企業のオーナーになるというスタイルをとる投資家にとっては、保有先企業が顧客・社会の問題を解決し続けることはある意味で当然の前提であり、いわゆるESGの要素はことさらに強調するまでもないとすら言えそうです。

 ではなぜ、昨今これほどまでにESGが強調されるのでしょうか?

 とても逆説的な言い方かもしれませんが、世の中の投資スタイルがあまりにも中短期の株式投資に偏ってしまっているからなのではないでしょうか。金融投資に携わる業者の「ショートターミズムに対する贖罪」にすら見えます。それにもかかわらず、ESGスコア算出の手数料を最終的に投資家に負荷してしまっているのは皮肉としか言いようがありませんが…。

 長期投資家としては、二酸化炭素の排出量や社外取締役の人数といった定量的に測れるものばかりを見るのではなく、その企業が持続的に顧客の問題を解決しているのか、それを他の人たちが真似できないようなやり方でやっているのか、より本質的な企業の価値を理解しなければなりません。